青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
400 / 938

13-6

しおりを挟む
 午前8時。

 俺は今、お義父さんの家に来ている。一貴さんの支度を手伝うためだ。1週間前から用意してあった喪服を着て法事に出るわけだが、今年は新しくしたと言っていた。そして、いくつかの場所にしつけ糸がしてあり、それを取るのを忘れていて、俺が取るのを手伝っている。今まではしつけ糸はついていない状態で店から受け取っていたから、まさか糸が付いているなんて思わなかったそうだ。

「夏樹君。すまない。ありがとう」
「そんな予感がして、来て良かったよ。あんたのことだからさ。何かありそうだと思ったんだ。去年はそんなこと、思わなかったんだけどね……」
「そうか。嫌な予感か……。会館でも何か起きそうな気がするのか?」
「ううん。そんなことはないよ。お坊さんの読経を聞いて、会館で食事をしたら終わり。あんたが心配しているのはお母さんのことだろ……」

 プチ。糸を糸切りハサミで切った。これで全部取り終えたと思う。こんなにしつけ糸が付いている状態は初めて見たと言うぐらいに、何カ所も付いていたから、最初に見たときは驚いた。オーダーメイドで作った物だと思ったら、通販サイトでオーダーした物なのだという。

 それはプラセルの通販サイトだ。今まで喪服を置いていなくて、作ってみたのだという。そこで、社長である一貴さんが利用しないわけにはいかず、もちろん、ノリノリで、ワクワクしながらオーダーしたそうだ。

「カズ兄さんさ。今日は新しい喪服を着るんだから、ドキドキのワクワクの気分で法事に出ると良いんだよ」
「うん。うちの母は何を考えているんだろう……」
「蓮子さんのことは考えないでいろよ~。法事に出るお義父さんの恋人達が増えたって聞いて、ハッスルしているって親戚から聞いて、嫌な予感がしているのは俺も同じなんだ~。ほら、お義父さんはあの年だろ。最後のお別れになるかも知れないって思って、出てくれるんだよ。会いに来てくれるってわけだよ」
「母は君のお母さんにも喧嘩を売るかも知れない。今から謝っておく。ごめんなさい」
「気にするなよ~。うちのお母さんだって分かっているんだからさ。そういう人だって……。会館で待ち合わせだから、俺達が到着する前に着いていると思うんだ。でも、伊吹お兄ちゃんが一緒にいるから大丈夫だよ」
「お父さんの腰痛はどうなんだ?」
「今日と明日寝ていたら収まるだろうって、万理が言っていたよ。本当はお父さんと万理も来てくれる予定だったけどね。まだ今度だよ」

 今年の法事は、中山家から初めて母と伊吹が出ることになった。ずっと出たいと言っていたうちの両親だが、お義父さんが止めていた。俺が養子になったことで混乱している状況だったからだ。みっともないところを見せたくないということだった。

 今年も出席しない話になっていたが、一ヶ月前に中山家の玄関に拓海さんが現われるという夢を母が見たことで、もしかしたら、近いうちにお義父さんとお別れになるのかも知れないと思い、中山家の両親と伊吹と万理が法事に出席することになった。しかし、父が腰を痛めてしまい、今年は出席を見送り、父には万理が付き添っている。

 拓海さんがお義父さんのことを迎えに来たのだと知らせに来てくれたと、母は思ったそうだ。俺も最初はそう思った。しかし、今年の出席予定者の名簿を見て、違うのではないかと思った。その中に、拓海さんが心を通い合わせたという、たった一日だけの恋人であり、友人だった男性が初めて出席することが分かったからだ。

 拓海さんは亡くなった後、きっと天国に行ったのだと思う。そこで、近いうちに生まれ変わることが決まったのではないかと思った。この地球のどこかで、誕生するということだ。生まれ変わりということが本当にあるとしたら、そうなのでは無いかと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

処理中です...