青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 2月28日、土曜日。午前7時。

 俺は今、羽田空港に来ている。今日の9時半の便でアレクシスさんがドイツに帰るためだ。14時間40分間のフライトだ。機内でくつろげるようにダメージジーンズ姿で良いと思ったのに、彼はきちんとした服装をしている。日本に入るときには入国審査で引っかからないようにスーツ姿をしていたのは納得したが、母国に帰るのなら、ダラッとした格好でも良いだろう。

「アレクシスさん。今から着替えてきたら?まだ時間はあるよ」
「いや。俺はこれが良い。何もかにもがスムーズだ」
「まあねえ……。スーツ姿に近い感じでも、きっちりして見えるよ」

 そう言って、俺はアレクシスさんの姿を写真に撮った。今日ここに居るのは、俺と黒崎とお義父さんとユーリーと一貴さんと二葉だ。晴海さんは今、みんなに飲み物を買ってきてくれている。大勢での見送りだ。アレクシスさんは恥ずかしいと言って、顔を赤くしている。

「アレクシスさん。またこっちに来てよ」
「もちろんそうする」
 
 アレクシスさんが微笑んだ。それはユーリーとそっくりの笑顔だった。今、彼はバーテルス家の息子のふりをしているからだ。しかし、俺達は分かっている。本当の彼の姿を。ダラダラしている感じで、ダラッとした服装を好み、ヤンキー口調の人だ。まさか、こんな感じの人だとは思わなかったから、最初に会ったときは驚いた。

 すると、アレクシスさんが俺のことを抱いた手を緩めて、ある方向を向けて振りだした。俺が振り返ってみると、どこにも何もない。そう思って首を傾げようとすると、向こうから、伊吹が走ってくるのが見えた。やっと昨日会えたところだった。会社の方が忙しかったからだ。それと、国税局と税理士さんとの話し合いで予定がパンパンに詰まっていた。それが解消されたのが一昨日だった。

 伊吹個人に対する国税局からの税務調査の結果は安心できるもので、奇跡的だと本人が言っていた。なんと、税金が返ってくるこになった。テレビ局までのタクシー代を経費で申告するのを忘れていて、その申告をしたからだ。つまりは追徴課税はなかったということだ。
 
「アレクシスさん!俺です!中山伊吹です!」
「そんなに言わなくても分かるよ……、お兄ちゃん……」

 伊吹が空港の中だというのに、全速力で駆けてきた。大声でアレクシスさんの名前を呼びながらだ。ここには見送りに来た人がたくさん居るから、伊吹のように誰かの名前を呼んでいても不思議ではない。きっと、間に合って良かったねと思ってくれている人もいるに違いない。

「お兄ちゃん!そんなに走るなよ~」
「何を言っている!夏樹!バーテルス家の次期当主の見送りだ!走ってくるに決まっているだろう!アレクシスさん!おまたせしました。ゼエゼエ……」

 伊吹がゼエゼエ言っている姿を見て、アレクシスさんが大丈夫かと背中をさすってくれた。バーテルス家の次期当主。そんな肩書きを叫ばれても、彼は優しい。伊吹のことを理解してくれいているからだ。

「伊吹君。こんなに走らなくても、出発までは時間がある」
「いえ、一分でも多く話したいんです。あなたの方からもユリウスさんにお願いしてください。株式会社ブロッコリーとの取引の継続と、知り合いの紹介です」
「ははは。分かった。ユリウス。どうだ?」
「僕は取引を継続するけど、知り合いの紹介はまだ考えている。ああ、晴海君だ。大荷物だ。やっぱり一緒に行けば良かった」

 向こうから晴海さんが戻ってきた。たくさんの飲み物を持ってだ。もちろん、もうすぐで到着予定だという伊吹の分もあり、伊吹が感激していた。喉が渇いていたのだという。タクシーを降りた後、ずっとダッシュで来たからだ。そんな伊吹に一番最初に飲み物を渡してくれた晴海さんだった。

 2時間後、アレクシスさんが乗った飛行機が日本を飛び立つ。そして、その準備の時間を迎えて、俺達は出発ゲートに立った。そこには家の中にいるヤンキー口調のアレクシスさんがいて、俺達に笑顔で手を振ってくれた。また会おうな!そう言って笑っていた。
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