青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 午前8時。

 大学に到着した。昨日から桜が咲き始めて、まだ小さい花が、これから大きく咲き始める予感を感じさせた。空は今朝見たときと同じく快晴で、昨日の夕方に少し降った雨がしみこんだ土が、湿った匂いを漂わせている。春だなと思った。

 俺達は車から降りて、みんなで大学まで歩いてきた。正門の前での記念写真を撮りたい。もうすでに到着しているグループが写真を撮っていて、その中に、悠人の姿を見つけた。遠藤さん夫妻、早瀬さんの両親、早瀬さんとの6人グループだ。みんな家族だ。悠人のお父さんの久田さんは今日は遠慮してこないそうだ。奥さんの涼花りょうかさんと妹の藍生あおいちゃんは留守番だ。だから、早瀬さん達が気を遣っている。今、早瀬さんが電話をしている相手は久田さんではないだろうか。

「ゆうとーー。おはよう!」
「なつきーー。おはよう!キマっているね、そのスーツ」
「そう?黒崎さんが選んだんだ~」

 そう言って、俺は悠人の前に立った。今日のスーツは黒崎が何週間も掛けて選んだ生地とデザインのものだ。ネクタイは黒崎の初出勤の時のものか、沙耶さんにプレゼントされたもののどちらかを選んだ結果、沙耶さんからのプレゼントの方を選んだ。シックなスーツに似合っている。

 俺の周りには黒崎達が居る。それぞれ正門の写真を撮り、俺達のことを写している。そして、ユーリーと晴海さんが一貴さんと二葉のことを連れて門の前に行き、その様子をお義父さんがカメラに収めた。仲が良い。そんなことを感じて、また胸が熱くなった。

 さて、大学内にあるカフェはこの時間から開いている。そこに移動してはどうだろうか。俺達は同級生達と話をして、記念撮影だ。

「黒崎さん。中にあるカフェはもう開いているよ。学食もね。カフェのお勧めはカフェラテだよ。牧場直送ミルクを使って煎れてあるんだって聞いているよ。わらび餅アイスもあるよ」
「さすがだな。食べ物のことに関しては情報が早い。ああ、神仙しんせん教授じゃないか?」
「ほんとだ!ここに来るなんて珍しいなあ。いつも向こうの門を使うのに……」

 神仙教授とは、量子学を教えている先生だ。入学当時は意地悪で気難しいという評判を聞いていたが、そんなことはなかった。レポート課題の評価は甘めで、すごく助かった。この大学の教授達には生徒から評定を付けられている。大鬼、鬼、仏などだ。神仙教授は鬼という評価だったのに、俺達が4年生になって評定を付ける立場になると、仏という評価になった。なんだか雰囲気が変わったと評判だ。

「神仙教授!おはようございます!」
「ああ、黒崎君。早瀬君。おはよう。みなさん、お揃いで……」

 教授が俺達の元にやって来た。年は46歳だから、一貴さんと同じ年だ。さっそく名刺交換の儀式が行われようとしている。一貴さんと教授だ。こういう者です、ありがとうございます。そんな感じだ。晴海さんはすでに知り合いになっている。ここでの講演の花を北岡さんが担当したときにアシスタントで来ている。教授と会うのは2回目だという。

「神仙教授。お久しぶりです」
「黒崎さん。お久しぶりです。いや、晴海さんとお呼びしたい。ここは黒崎さんだらけだ」
「そうですね。弟の島川一貴です。今は名前が変わりまして、黒崎一貴です」
「夏樹君からお聞きしています。うちの生徒がプラセルさんに就職します。どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ……」

 島川一貴。その名前はもう何度も聞いているのに、すっかり懐かしくなった。一貴さんはお父さんが出した認知届の後、黒崎姓を名乗る届け出をした。そして、一ヶ月前から黒崎一貴という名前になった。会社関係ではたくさんの届け出を行い、知り合った人達にメールや手紙を送り、姓が変わったことを知らせた。その中で、一貴さんを囲んでの会食の席が何件もあり、そのどれもに出席していた。その中で親しい人が出来そうで、本人は喜んでいる。

 神仙教授も一貴さんが親しくなりたいと思っている一人だ。とても優しい人だ。家庭問題に詳しい先生でもあり、生徒には時間を作って、様々な家のケースを語る授業を開いていた。その時は心理学の教授と合同だった。俺達は教授の話を聞き、薫陶を受けた。その授業は4年前から開催され始めて、最初は人気が無かったのに、教授の人柄に触れて、だんだんと人気が出てきて、今では席が満員になるぐらいだ。一貴さんにテキストを見せたことがある。そこで、親しくなりたいと言っていた。彼がそういう人は優しい人だらけだ。
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