青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 3月29日、火曜日。午前10時。

 土曜日に無事退院をして、3日経った。俺は予定通りに仕事に来ている。テレビ収録のスタジオの控え室でヘアメイクを受けているところだ。今日のお昼に番組に出るからだ。今日は地上派だ。昨日はイーストウエストマックスという、植本さんが司会の番組の収録に出ていた。地上波ではなく、音楽専門チャンネルの番組だ。そっちの方はよく出させて貰っているから緊張感がなくて、控え室でもリラックスできた。しかし、今回はそうではない。先輩達に囲まれて、縮こまっている。

 俺のそばには長谷部さんがいて、この後のスケジュールの確認作業をしている。同じ階の隣同士の部屋に、悠人や聡太郎達の控え室がある。それぞれがヘアメイクを済ませて、待機をしている。俺が一番最後のヘアメイクだ。担当はローザーさんだ。チーム・ディスレクトサイドゼロのメンバーだ。そこには聖河さんという人も居て、ローザーさんと良いコンビだ。

 良いコンビというのは、付き合っている2人という意味ではない。友人同士として、仕事仲間としての結束が強いという意味だ。さっきも部屋にいた。俺達のうちの誰かが倒れるかも知れないからと、昨日と今日は付き添ってもらっている。

 ローザーさんの今日のアシスタントはミカさんだ。昨日は入りたての新人だといって、男性が紹介された。松陰寺しょういんじさんという人だ。今日は事務所に居るそうだ。年はミカさんと同じ26歳で、去年までサラリーマンをしていた人だという。ミカさんはアシスタントの中で一番年下で一番後に入った人だが、同じ年だが後輩ができて、張り切っている。それは松陰寺さんがイケメンだからだという理由もあるそうだ。その話を、ローザーさんとしているところだ。

「ミカちゃんが松陰寺君のことを見て、喜んじゃって。イケメンだって。でも、彼、ウケなのよ」
「ウケって何ですか?」
「抱かれる方っていう意味よ。ミカちゃんもウケだから、お友達コースになりそうねえ……」
「なるほど……」
「私もウケなのよ。だから、松陰寺君とはお友達よ」
「ふうん。じゃあ、聖河さんは抱く方ってことですか?」
「そうそう。そうなのよ。最初ね、ウケかと思ったんだけど、バリバリ・ヤル方だったの。おほほほほ。知ったときは嬉しかったわーーー」

 ローザーさんが笑顔になった。ミカさんは今、席を外して、トイレに行っている。そして、戻ってきた。相変わらずのおしゃれな人で、汚れてもいい服だとは思えないぐらいだ。動きやすくてお洒落で低価格アイテムの組み合わせだなんて、最高だ。

「ミカさん。今日の格好もかっこいいね!」
「そう?ありがとう。これ、ママムラで買ったレディースなんだよ。なんと770円だったんだ」
「え、マジで?ママムラって、新聞のチラシが入っていたよ。行ってみたいって思っているんだ~」

 そう言って、俺はミカさんが来ているシャツワンピースを眺めた。デニム生地だ。こんなに安くて良いのだろうか。ミカさんが言うには、広告の品で、10組限定商品で、それを目指して買いに行ったら運良く買えたそうだ。なんてラッキーなんだろう。

 俺としてはファッションの話に刺激を受けている。浅草&大阪ミックスカジュアルを、これからもこういう時の現場入りの時に着てこようと、黒崎と話し合ったところだ。黒崎としては自分の選んだ物を来てもらいたいという意見を持っていたが、最近はそうでもなくて、俺は自由だ。

 着るものも食べる物も話す内容も決められていたのは過去の話だと思う。そんな状況を今やっている人を知っている。紫乙さんのことだ。俺は宇宙人ではないし、黒崎もそうでは無いから、真似をする発想なんてないが、黒崎の方はそうではなかった。ルークに縛られて何も自由がないという紫乙さんのことに刺激を受けて、黒崎は俺のことをそうしたいと言いだした。それは昨日のことだった。
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