青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 4月6日、火曜日。午前9時。

 大学の教務課に来ている。学位記の受け取りの受け取りのためだ。卒業式の日に受け取れなかった生徒達の列が連なっている。みんな当日に高熱を出して出席できなかった子達ばかりだ。当日は風邪が流行っていて、卒業式までに気を付けていたけれど、熱を出してしまったわけだ。仕事で来られない子は居なかった。みんなが院生だ。良かったとは言えると思う。同じ大学内だから、時間の合間に来られるからだ。

 この中には同級生の葉月がいる。当日は出席していたが、途中で退席した仲間だ。熱でフラフラになったからだ。八代が代表での学位記の受け取りの儀式を行っているときだったそうだ。全然気づかなかった。それだけ祖父のことを考え込んでいたのだろう。席も離れていた。

 俺のそばには葉月がいる。付き添いのユーリーは廊下に居て、ノアと話しているところだ。だから、待たせては悪いと思いつつも、葉月と話した。葉月はR&W社に内定が決まりそうだったが、院へ進学することを決めた。真羽と同じだ。

「葉月もそうだったんだね。前の日は冷え込んだもんね。急に寒くなってさ~」
「ああ、その前の日は温かくて、俺、半袖を着ていたんだ。そしたら、次の日はあの気温だ」
「そうそう。しかも乾燥もしていたから、風邪を引くよね。喉は大丈夫?」
「ありがとう。もう治ったよ。今日のメンバーは全員、喉からの風邪だ。流行っていたんだな」
「うん。俺は大丈夫だったんだけど……。どこでも保湿に気を使っているからさ。うっうっ。俺、女の子みたいだよねえ」

 自分の身が恥ずかしくなってしまった。喉の乾燥に気を付けて加湿器を付けるのは前から同じだが、最近肌が乾燥してきて、毎朝、パックをしている。今は日焼け止めと保湿効果のあるクリームを顔に塗っているし、ハンドクリームも塗り込んである。久しぶりにテレビ局のライトに当たり、影響が出たのだと思う。

「夏樹。全然恥ずかしくないぞ。仕事なんだ。それに、乾燥に悩むのは俺達も同じだ。1年生でもハンドクリームを塗っている子が居る。いいじゃないか。藤沢君なんて、エステに通っているんだろう?」
「そうなんだ。でも、藤沢はモデルだからさ~。海岸での撮影で肌が傷んだからだって言うんだ。今ケアしておかないと、仕事に影響するからだって。あ、葉月の番だよ」
「ああ、もう順番が来たのか」
「次は俺だよ」

 前に居た5人が教務課から出て行った。そして、葉月が学位記の受け取りをして、俺も受け取った。これが欲しかった。紺色の表紙を見て、ホッとした。本当なら、卒業式の後の午後に、代表から教室で受け取るはずだったのに。

「夏樹。卒業式には来られたんだ。お互いに良かったと思おう。写真は撮ってあるんだろう?」
「うん。朝来た時に撮ったよ。叔父さんにお礼を言っておいてよ。俺が桃が好きだって聞いたっていうことで、美味しい桃を貰ったんだ。黒崎さん経由で受け取ったんだよ」
「ああ、言っていたなあ。俺にはミカンだ。お見舞いって事だ。デビュー曲の発表、もうすぐだな」
「うん。とうとうだよ。その前にテレビに出たから、バンドはもうやっている感じなんだ。悠人がネガティブになってさ~。デビュー曲の出来がすごくいいから、二発目以降の曲にプレッシャーが掛かったんだ。二発目から後は、悠人の作曲が続くからさ~」
「悠人には元気を出せと伝えてくれ。さあ、神仙教授のところに行こう」
「うん。ユーリーも入れるから良かったよ」

 これから教授の部屋に行く。ユーリーとノアも一緒にだ。俺と葉月はすっかり身体の具合が良くなり、今日が卒業式だったら良かったと言った。

 教務課を出ると、別世界が待っていた。ユーリーとノアが待ち受けていたからだ。まるで城から出てきたみたいな人同士が話しているから、雰囲気がいつもと違う。これで喪服を着ていたら、まだ違って見えるだろう。

「ユーリー、ノア。向こうでの二人を想像したよ」
「何か変かな?変な人ならここにいるよ。ユーリーだよ」

 ノアが首傾げた。そこで、俺がさっき思った乾燥を口にすると、そんなことはないと言われた。いや、そんなことはあると思う。なんだか迫力があったからだ。そんなことを話しながら、俺達は歩き出した。教授の部屋に行くために。
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