青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
555 / 938

16-11

しおりを挟む
 学長室に入ると、2人の男性がこちらを向いて立っていた。そこで、今村先生から、学長と口腔外科部長だと紹介を受けた。井関先生と富沢先生だ。まずはお義父さんが話し始めた。

「初めまして。黒崎隆です」
「初めまして。学長の井関大代いせきだいせいです。彼は口腔外科部長の富沢康宏とみざわやすひろ君です。今日はこちらにお越し頂きまして……」
「とんでもない。私の方が押しかけました」
「どうぞ、おかけください」
「ありがとう。紹介します。息子の一貴と圭一です。この子が今日歯を抜いた夏樹です」

 お義父さんから紹介を受けて会釈した。すると、先生達が俺のことを見て、大丈夫なのかと聞いてきた。真っ直ぐに帰った方が良かったということか。それにはお義父さんが首を振った。

「夏樹は外を歩きたがっていました。デビュー曲の発表の後で一息着いた後、外に出ていなかったので……」
「ディスレクトサイドゼロ……。バンドのことはテレビとインターネットで知りました。もちろん、当大学の生徒にはファンがいますので、生徒からも話を聞いています。私も動画を観ました。プロモーションビデオでした。去年のTDDでは、渋谷のスクランブル交差点で4画面同時にビデオが上映されていましたね。今年もありましたね。去年とはまた違った人に見えました。イメージが変わりましたね」
「そうですか。ははは。私は家の中の夏樹しか知らないようなものでして。この通り、普段は物静かな子です。今日は歩かせましたが、やはり、家に帰した方がよろしいでしょうか」
「いえ、激しい運動と入浴を控えて頂けたらよろしいかと存じます」

 お義父さんの言葉に、口腔外科部長の富沢先生が答えた。そして、井関先生からソファーを進められて、お義父さんから順番に座った。俺は端っこで良いと思っていたのに、お義父さんの隣に座らされた。井関先生達が俺のことを見ている。てっきり、一番年上の一貴さんが隣に座ると思ったのだろう。

 黒崎と一貴さんと朝陽は1人がけのソファーに座っている。俺はお義父さんから寄り添われるようにして、3人掛けのソファーを選んだ。そして、お義父さんが俺の肩を抱いた。

「この子は一番末です。養子です。息子同然に過ごさせています」
「夏樹さんが養子に入られて、黒崎さんの家は大変賑やかだと伺っております。整形外科の山岸聖河先生の評判を聞いています。大変優秀な先生で、聖加世病院ではファンが多いとか」
「ははは。聖河は自由な性格の気質がありましてね。人見知りがありません」
「夏樹さん。手術はいかがでしたか?」
「夏樹。どうだった?」

 井関先生とお義父さんの両方から話しかけられて、俺が答える番だと思った。そこで、俺はニコッと笑顔を作った。これだけでいい。すると、お義父さんが笑った。

「怖かったそうです。しかし、大変腕が立って、かつ優しい先生だったようで、この通り、笑顔です。この子は怖がりでしてね。気難しい面もあります。抜歯をするということで、医者選びには困りました。通院している歯科医院でも困らせました。そこで、こちらの西川先生を紹介して頂き、無事に手術が終わりました。ありがとうございます」
「どんでもない。当大学を選んで頂いて恐縮です。担当した検査技師も喜んでいたことでしょう。TDDのコンサートを観に行ったことがあると聞いています。もちろん、ディスレクトサイドゼロのコンサートも観に行くのだと話していました」
「そうでしたか。夏樹。良かったね。検査技師さんは何も言っていなかったんだろう。そうだね。患者さんには言えないね。ははは」
「当大学では患者様の気持ちと秘密の保持を一番に考えています。もちろん、医者の腕も重要ですが……」
「こちらに来て良かった。活気に溢れた院内でした。清潔でもありました」
「清掃には気を遣っています。ところで、一貴さんは栄養失調で倒れられたそうで……。お忙しいのでしょう」

 井関先生が一貴さんに話しかけた。一貴さんは島川社長になっていればいいのにそうではなくて、いつものそそっかしい一貴さんに戻っているから、なんだかヒヤヒヤした。出されたお茶をこぼさないだろうかと思ったからだ。しかし、落ち着いて飲んでいる。

「おかげさまで、今は落ち着いています。僕の繁忙期は過ぎました。栄養の偏りがあり、今は意識して多くの品目を食べるように心がけています。栄養指導も受けました」
「そうでしたか。姓が変わったことを存じ上げています。大変でしょう。書類仕事もそうだが、周知の方も大変だ」
「はい。ここまで大変だとは思いませんでした。社内では島川という名前ではなく、一貴社長と、名前で呼んで貰っています」
「なるほど。みんな黒崎さんだ。圭一さんは子供の頃は喘息で入院していたそうですね。最近も発作が起きたと聞いています。その後はいかがですか?」
「僕の方も落ち着いています。今日は妹の二葉が来たがっていましたが、大学の授業があるので、来させませんでした」
「朝陽君のお姉さんですね。いや、お兄さんか……」

 井関先生の言葉に、富沢先生と今村先生が神妙な面持ちになった。性別のことはお義父さんが話しているのだと分かった。先生達には気を遣わせてしまった。

 そう思っていると、お義父さんが部屋の中に飾られている講堂の竣工式の写真を見て微笑んだ。近く、この大学の関係者を集めた記念パーティーはあるそうだ。それにお義父さんが呼ばれていて、今ここで、出席するという返事をした。それには先生達が笑顔になり、俺達も笑顔になった。作り笑いなんて思ったらいけないのに、お義父さんの友達づくりには、そうなるしかないと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...