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学長室に入ると、2人の男性がこちらを向いて立っていた。そこで、今村先生から、学長と口腔外科部長だと紹介を受けた。井関先生と富沢先生だ。まずはお義父さんが話し始めた。
「初めまして。黒崎隆です」
「初めまして。学長の井関大代です。彼は口腔外科部長の富沢康宏君です。今日はこちらにお越し頂きまして……」
「とんでもない。私の方が押しかけました」
「どうぞ、おかけください」
「ありがとう。紹介します。息子の一貴と圭一です。この子が今日歯を抜いた夏樹です」
お義父さんから紹介を受けて会釈した。すると、先生達が俺のことを見て、大丈夫なのかと聞いてきた。真っ直ぐに帰った方が良かったということか。それにはお義父さんが首を振った。
「夏樹は外を歩きたがっていました。デビュー曲の発表の後で一息着いた後、外に出ていなかったので……」
「ディスレクトサイドゼロ……。バンドのことはテレビとインターネットで知りました。もちろん、当大学の生徒にはファンがいますので、生徒からも話を聞いています。私も動画を観ました。プロモーションビデオでした。去年のTDDでは、渋谷のスクランブル交差点で4画面同時にビデオが上映されていましたね。今年もありましたね。去年とはまた違った人に見えました。イメージが変わりましたね」
「そうですか。ははは。私は家の中の夏樹しか知らないようなものでして。この通り、普段は物静かな子です。今日は歩かせましたが、やはり、家に帰した方がよろしいでしょうか」
「いえ、激しい運動と入浴を控えて頂けたらよろしいかと存じます」
お義父さんの言葉に、口腔外科部長の富沢先生が答えた。そして、井関先生からソファーを進められて、お義父さんから順番に座った。俺は端っこで良いと思っていたのに、お義父さんの隣に座らされた。井関先生達が俺のことを見ている。てっきり、一番年上の一貴さんが隣に座ると思ったのだろう。
黒崎と一貴さんと朝陽は1人がけのソファーに座っている。俺はお義父さんから寄り添われるようにして、3人掛けのソファーを選んだ。そして、お義父さんが俺の肩を抱いた。
「この子は一番末です。養子です。息子同然に過ごさせています」
「夏樹さんが養子に入られて、黒崎さんの家は大変賑やかだと伺っております。整形外科の山岸聖河先生の評判を聞いています。大変優秀な先生で、聖加世病院ではファンが多いとか」
「ははは。聖河は自由な性格の気質がありましてね。人見知りがありません」
「夏樹さん。手術はいかがでしたか?」
「夏樹。どうだった?」
井関先生とお義父さんの両方から話しかけられて、俺が答える番だと思った。そこで、俺はニコッと笑顔を作った。これだけでいい。すると、お義父さんが笑った。
「怖かったそうです。しかし、大変腕が立って、かつ優しい先生だったようで、この通り、笑顔です。この子は怖がりでしてね。気難しい面もあります。抜歯をするということで、医者選びには困りました。通院している歯科医院でも困らせました。そこで、こちらの西川先生を紹介して頂き、無事に手術が終わりました。ありがとうございます」
「どんでもない。当大学を選んで頂いて恐縮です。担当した検査技師も喜んでいたことでしょう。TDDのコンサートを観に行ったことがあると聞いています。もちろん、ディスレクトサイドゼロのコンサートも観に行くのだと話していました」
「そうでしたか。夏樹。良かったね。検査技師さんは何も言っていなかったんだろう。そうだね。患者さんには言えないね。ははは」
「当大学では患者様の気持ちと秘密の保持を一番に考えています。もちろん、医者の腕も重要ですが……」
「こちらに来て良かった。活気に溢れた院内でした。清潔でもありました」
「清掃には気を遣っています。ところで、一貴さんは栄養失調で倒れられたそうで……。お忙しいのでしょう」
井関先生が一貴さんに話しかけた。一貴さんは島川社長になっていればいいのにそうではなくて、いつものそそっかしい一貴さんに戻っているから、なんだかヒヤヒヤした。出されたお茶をこぼさないだろうかと思ったからだ。しかし、落ち着いて飲んでいる。
「おかげさまで、今は落ち着いています。僕の繁忙期は過ぎました。栄養の偏りがあり、今は意識して多くの品目を食べるように心がけています。栄養指導も受けました」
「そうでしたか。姓が変わったことを存じ上げています。大変でしょう。書類仕事もそうだが、周知の方も大変だ」
「はい。ここまで大変だとは思いませんでした。社内では島川という名前ではなく、一貴社長と、名前で呼んで貰っています」
「なるほど。みんな黒崎さんだ。圭一さんは子供の頃は喘息で入院していたそうですね。最近も発作が起きたと聞いています。その後はいかがですか?」
「僕の方も落ち着いています。今日は妹の二葉が来たがっていましたが、大学の授業があるので、来させませんでした」
「朝陽君のお姉さんですね。いや、お兄さんか……」
井関先生の言葉に、富沢先生と今村先生が神妙な面持ちになった。性別のことはお義父さんが話しているのだと分かった。先生達には気を遣わせてしまった。
そう思っていると、お義父さんが部屋の中に飾られている講堂の竣工式の写真を見て微笑んだ。近く、この大学の関係者を集めた記念パーティーはあるそうだ。それにお義父さんが呼ばれていて、今ここで、出席するという返事をした。それには先生達が笑顔になり、俺達も笑顔になった。作り笑いなんて思ったらいけないのに、お義父さんの友達づくりには、そうなるしかないと思った。
「初めまして。黒崎隆です」
「初めまして。学長の井関大代です。彼は口腔外科部長の富沢康宏君です。今日はこちらにお越し頂きまして……」
「とんでもない。私の方が押しかけました」
「どうぞ、おかけください」
「ありがとう。紹介します。息子の一貴と圭一です。この子が今日歯を抜いた夏樹です」
お義父さんから紹介を受けて会釈した。すると、先生達が俺のことを見て、大丈夫なのかと聞いてきた。真っ直ぐに帰った方が良かったということか。それにはお義父さんが首を振った。
「夏樹は外を歩きたがっていました。デビュー曲の発表の後で一息着いた後、外に出ていなかったので……」
「ディスレクトサイドゼロ……。バンドのことはテレビとインターネットで知りました。もちろん、当大学の生徒にはファンがいますので、生徒からも話を聞いています。私も動画を観ました。プロモーションビデオでした。去年のTDDでは、渋谷のスクランブル交差点で4画面同時にビデオが上映されていましたね。今年もありましたね。去年とはまた違った人に見えました。イメージが変わりましたね」
「そうですか。ははは。私は家の中の夏樹しか知らないようなものでして。この通り、普段は物静かな子です。今日は歩かせましたが、やはり、家に帰した方がよろしいでしょうか」
「いえ、激しい運動と入浴を控えて頂けたらよろしいかと存じます」
お義父さんの言葉に、口腔外科部長の富沢先生が答えた。そして、井関先生からソファーを進められて、お義父さんから順番に座った。俺は端っこで良いと思っていたのに、お義父さんの隣に座らされた。井関先生達が俺のことを見ている。てっきり、一番年上の一貴さんが隣に座ると思ったのだろう。
黒崎と一貴さんと朝陽は1人がけのソファーに座っている。俺はお義父さんから寄り添われるようにして、3人掛けのソファーを選んだ。そして、お義父さんが俺の肩を抱いた。
「この子は一番末です。養子です。息子同然に過ごさせています」
「夏樹さんが養子に入られて、黒崎さんの家は大変賑やかだと伺っております。整形外科の山岸聖河先生の評判を聞いています。大変優秀な先生で、聖加世病院ではファンが多いとか」
「ははは。聖河は自由な性格の気質がありましてね。人見知りがありません」
「夏樹さん。手術はいかがでしたか?」
「夏樹。どうだった?」
井関先生とお義父さんの両方から話しかけられて、俺が答える番だと思った。そこで、俺はニコッと笑顔を作った。これだけでいい。すると、お義父さんが笑った。
「怖かったそうです。しかし、大変腕が立って、かつ優しい先生だったようで、この通り、笑顔です。この子は怖がりでしてね。気難しい面もあります。抜歯をするということで、医者選びには困りました。通院している歯科医院でも困らせました。そこで、こちらの西川先生を紹介して頂き、無事に手術が終わりました。ありがとうございます」
「どんでもない。当大学を選んで頂いて恐縮です。担当した検査技師も喜んでいたことでしょう。TDDのコンサートを観に行ったことがあると聞いています。もちろん、ディスレクトサイドゼロのコンサートも観に行くのだと話していました」
「そうでしたか。夏樹。良かったね。検査技師さんは何も言っていなかったんだろう。そうだね。患者さんには言えないね。ははは」
「当大学では患者様の気持ちと秘密の保持を一番に考えています。もちろん、医者の腕も重要ですが……」
「こちらに来て良かった。活気に溢れた院内でした。清潔でもありました」
「清掃には気を遣っています。ところで、一貴さんは栄養失調で倒れられたそうで……。お忙しいのでしょう」
井関先生が一貴さんに話しかけた。一貴さんは島川社長になっていればいいのにそうではなくて、いつものそそっかしい一貴さんに戻っているから、なんだかヒヤヒヤした。出されたお茶をこぼさないだろうかと思ったからだ。しかし、落ち着いて飲んでいる。
「おかげさまで、今は落ち着いています。僕の繁忙期は過ぎました。栄養の偏りがあり、今は意識して多くの品目を食べるように心がけています。栄養指導も受けました」
「そうでしたか。姓が変わったことを存じ上げています。大変でしょう。書類仕事もそうだが、周知の方も大変だ」
「はい。ここまで大変だとは思いませんでした。社内では島川という名前ではなく、一貴社長と、名前で呼んで貰っています」
「なるほど。みんな黒崎さんだ。圭一さんは子供の頃は喘息で入院していたそうですね。最近も発作が起きたと聞いています。その後はいかがですか?」
「僕の方も落ち着いています。今日は妹の二葉が来たがっていましたが、大学の授業があるので、来させませんでした」
「朝陽君のお姉さんですね。いや、お兄さんか……」
井関先生の言葉に、富沢先生と今村先生が神妙な面持ちになった。性別のことはお義父さんが話しているのだと分かった。先生達には気を遣わせてしまった。
そう思っていると、お義父さんが部屋の中に飾られている講堂の竣工式の写真を見て微笑んだ。近く、この大学の関係者を集めた記念パーティーはあるそうだ。それにお義父さんが呼ばれていて、今ここで、出席するという返事をした。それには先生達が笑顔になり、俺達も笑顔になった。作り笑いなんて思ったらいけないのに、お義父さんの友達づくりには、そうなるしかないと思った。
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