青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 俺達はユーリーの寝起きを見つめた。パジャマ姿だ。涼しそうな素材のそれは、俺達からプレゼントした物だ。一貴さんとお揃いにしてある。もらった時のユーリーは笑っていた。この年になってお揃いは無いだろうという反応だった。この家で色違いで来ているなんて面白いだろうと思って、俺が選んだ。どうせ部屋の中でしか着ない。みんな、部屋から出てくるときは服に着替える決まりを守っている。パジャマ姿でウロウロするのはマナー違反とされている。寝起き顔でうろつくのもいけない。顔を洗ってからでないと部屋から出てきてはいけない。

 この家にはそれぞれの部屋にトイレとバスルームが設置されてある。各家族はそこで汚れを落とし、家の中を歩く決まりだ。大浴場なんてない。だから、家族との繋がりが薄れがちな感じはあると思う。家族との距離の取り方が問題になると思う。小さかった頃の黒崎は親とお風呂に入ったことが無く、お手伝いさんに手伝われて入っていたというから、パパ、ママと無邪気に親のことを呼んで走り回っていたという記憶が無い。だからなのか、俺は少しだけ姿が見えないだけで騒ぎ出す。子供の頃に安心感が与えられなかったからだと思っている。

 では、ユーリーはどうだろうか。物心ついたときはアレクシスさんとお風呂に入った記憶があるというから、距離の取り方は普通だと思う。エミリアさんがよく面倒を見て、悪戯だってたくさんしたという。この家の中で唯一の遊び回った子供だったはずだ。しかし、ルールはルールということで、きちんとした格好でないと部屋から出てこない。今の姿は珍しい。ここはユーリーの部屋の中だからだ。

「夏樹。圭一。すまないけど、僕は起き上がれない。引っ張ってくれ……」
「いいよ。ぐーーーー」

 ユーリーの手を取って引っ張った。なるべく優しい力でだ。すると、手が熱いことに気がついた。熱があるのでは無いだろうか。

「ユーリー。手が熱いよ。額に触るよ」
「ああ。風邪を引いた感じはしないけど……」
「どれどれ……」

 ユーリーの額に触った。しかし、熱はないように感じた。しかし、念のために熱を測って貰うことにした。そこで、ベッドサイドの小物入れを探り、体温計を取り出した。どうして入っている場所が分かるかというと、この家の決まりだからだ。具合が悪くて起き上がれないときのために、家の中専用の電話も備えられている。まるでホテルの部屋の中のようだ。

「ユーリー。脇に挟んで……」
「分かった。看病されるって良いものだな。大事にされている気になれる」
「何を言っているんだよ。あんたのことはみんな大事にしているよ」

 これは短時間で検温できるタイプの体温計だ。ユーリーが脇に挟むとすぐに検温が完了し、36.1度という体温が表示された。ごく普通の体温だ。

「36.1度だよ。熱は無いね。でも、熱を出す前かも……。ゆず茶を作ってあげる」
「ジンジャーシロップの方が良い」
「そっか。そうするよ。キッチンを借りるよ~」
「ああ。ありがとう」

 この部屋には小さなキッチンが付いている。そこで俺は飲み物を作ることにした。シンクはピカピカに磨き上げられている。ユーリーも洗うと思うが、掃除のプロの腕前の山崎さんが磨いたおかげだ。床には埃一つ落ちていない。ふきんなどのタオル類も山崎さんが洗濯してくれている。だから、いつも清潔なタオルを使うことが出来る。この家のお手伝いさんは大忙しだ。家族数が多い分、用事が多い。

 カチャ。ゴトゴト。ケトルでお湯を沸かした。そして、マグカップにジンジャーシロップを入れて、お湯を注いだ。すると、ショウガの良い匂いが広がった。俺もこの飲み物が好きだ。使った後のマグカップはどうしているかというと、シンクに置いておけば、お手伝いさんが洗ってくれる。ユーリーが洗うときもある。掃除は午前10時から10時半の間に入る。その間、寝込んでいなければ、リビングに移動する決まりだ。
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