青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 ユーリーがおかゆを食べきった。朝ご飯も昼ご飯も食べていなかったから、お腹が空いていただろう。おかわりは用意してある。ここに置いてあるお鍋の中だ。そう言いながら、俺はユーリーにおかわりは?と聞いた。

「まだあるんだよ。おかゆ一気食いだったね。ササミと白菜は食べないの?」
「もちろん頂く。さらっとしたおかゆだ。僕が好きだったおかゆだ」
「そうなんだってね。さらさらしたやつが好きだって、お義父さんが覚えていたんだ。でも、早く食べないと、もちもちしたおかゆになるよ」
「おかわりする」
「うん」

 おわかりを茶碗に注いだ。ふんわりとしたお米の良い匂いがしている。まだ熱いぐらいだ。冷ます間にユーリーがササミと白菜の漬け物を食べた。どれも美味しいそうだ。しばらくはこの食生活になる。ゴールデンウィーク明けにもう一度病院に行って血液検査が必要だから、それまで間、膵臓に優しいものを食べさせることにした。ファミレスのポテトはしばらく先だ。

「ワインはしばらく飲めないね。膵炎って痛いんだって。身体のことを考えて、禁酒しないといけないよ」
「ああ、そうする。自分でも分かっている。飲みすぎだって……」
「あのさ……」

 ここから見える位置に机があり、午前中に見た写真があるのが分かった。思い切って聞いてみようと思って、踏みとどまった。黒崎にはああ言ったが、本人を前にすると何も言えなくなった。

「夏樹。どうしたんだ?」
「なんでもないよ。あんたのワインの量が増えたのはどうしてかなって思っていたんだ」
「机の上の写真に気がついたんだろう?」
「あ……」
「月島君には話してあったんだ。彼から聞いたか、察したか。どっちなんだ?」
「机の上の写真を見た方が先だよ」

 ユーリーから問いかけに、ため息をつきながら答えた。そして、彼のことを見た。全く動じていないように感じた。揺るぎなくて、しっかりしている。とてもヤケ酒を飲んだ人には見えない。今回のことは彼らしくない。喜怒哀楽がはっきりしているとはいえ、いつも落ち着いている彼なのに。

「結婚した人のことが好きなんだったんだろ?今でも好きなんだよね?」
「そうだよ。僕達は友達同士だ。僕の気持ちは言えない。言ってはいけないんだ。向こうが気を遣う。もっと遠くに行ってしまう」
「辛いよね。ごめんね。俺、そんなあんたなのに、誰か恋人を作れなんて思ったんだ。月島さんにも悪いことを言ったよ。あんたのことを捕まえておけって、そんな感じのことを頼んだんだ。あんたの心の中には彼がいるっていうのに……。南波さんのことは本気じゃなかったの?」
「本気だよ。でも、僕は不誠実だから、好きな彼が僕の元に来るということになったら、彼を選ぶと思う。今回のことは僕への罰だ。きちんと想いを伝えれば良かった。その機会はたくさんあった。フラれて、距離を取られるのが怖かったんだ。そんな状況なのに南波君に好意を寄せた。月島君のことも振り回した」
「僕なら振り回されていない」
「あ……」

 いつの間にか月島さんがドアのそばに立っていた。黒崎は席を外したようだ。姿が無い。俺が立ち上がって、月島さんのことを迎え入れた。ユーリーと二人だけにした方がいいだろうか。そんなことを考えていると、アンがユーリーに抱かれて、ベッドの上に上がった。そして、のんびりと寝始めた。そして、月島さんを見て、尻尾をパタパタと振った。

 月島さんがベッドのそばにある椅子に座った。俺も座った。ユーリーはさっきと同じように揺るぎない目をして、俺達のことを見つめた。だから、大丈夫だと感じた。そして、彼が口を開いた。

「月島君。悪かった」
「謝らないでくれ。こういうことには慣れている。僕だってフラれてばかりだ。君の心が彼にあってもいいんだよ。僕はいつまでも待つ。友達としてそばに居られたらいい。南波君と付き合ってくれてもいい」
「月島さん……」
「月島君。僕は君のことが好きだ。でも、心に残っている人が消えない」
「それでいい」

 それを聞いて、胸が痛くなった。いっそのこと、ユーリーがアメリカにいる彼に告白してフラれたらいいのにと思った。そうすれば前を向くしか無いだろう。しかし、それには永遠の別離が待っている可能性があるという。それを避けたい気持ちはよく分かる。とても切ないと思った。
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