青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 俺は晴海さんのことが気の毒になった。現在恋人がいないから、その時の人とは別れたことになる。大学で見つかったときに別れたのだろうか。それにしても、家にまで連絡が入ったことになる。親が呼び出されて注意を受けたということだろう。それとも、晴海さんがお義父さんに報告したということか。しかし、お義父さんが言いふらすなんてしないと思った。

「カズ兄さん。どうしてその話を知っているんだよ?」
「晴海君と同じ学年に親戚が居たんだ。頼人よりひと君という。彼が親戚に言いふらして。忠明叔父さんが止めたんだ。そこでストップが掛かった。でも、お父さんの耳に入ってしまった」
「ふうん。頼人さんか。一度しか会ったことがないなあ。今年の法事には来ていなかったよね?」
「ああ、来ていない。君が初めて出席した年に来た後からずっとだ。晴海君とは仲が悪くなった」
「それはそうだよ。言いふらされたらね……」

 すると、その晴海さんがトイレから戻ってきた。顔を赤くしている。なんだか気の毒になって来て、彼の顔を見られなくなった。

「夏樹君。俺の顔を見てくれ」
「気の毒でさ~……」
「もう終わったことだ。一貴君から聞いたんだろう?」
「そうだよ……」
「相手とは別れた。まだ若かった。そういう空気になったからそうなった」
「うん。今、一人だもんね」
「ああ、その通りだ」

 晴海さんが強く協調するように言った。教授の前だからだろうか。そこで、俺は何が出来るだろうと考えた結果、二人の間を取り持つことにした。荷物の運び出しがスムーズに済んでいるから、そろそろここを片付けた方が良いと思った。そこで、新居に移動する話をして、俺と一貴さん、晴海さんと教授のペアになろうと考えた。

「教授。晴海お兄ちゃんのことを頼んでも良いですか?教授の人生相談をお願いします」
「僕で良かったら喜んで。晴海君。もう過ぎ去った過去だ。それから後は同じ事をしていないんだろう?」
「もちろんだ」
「それならいいじゃないか。きちんと学校に謝ったんだろう?」
「ああ、謝った」
「数年一度はそういうことが起るものだ。僕達の前には未来がある。未来の方からこっちに向かってきているんだ。未来に生きていると言える。だからもう、ネガティブに考えることはない。相手の子とは別れたなんて気の毒だけど、また付き合わないとは限らない。今度も同じことをしなければいい」
「そうだな。交流は残っている人だ。お互いに若かったと、再会したときに笑い合った。俺は笑えなかったけど、向こうに合わせて笑った。苦い思い出だ」
「そうだろう。そういうことなんだ。もう思い出なんだ」

 ポン。教授が晴海さんの肩に触れた。晴海さんが静かに頷き、気を取り直したようにして立ち上がった。そろそろここを出発する準備が必要だと言っている。

「6人がかりだから早い。後は食器棚の運び出しだ。ああ、もう出発した。早いな……」
「ほんとだねえ。ささって運んでいったよ。プロだなあ」

 荷物の運び出しに感嘆のため息をついた。教授は教授で、研究室のことを思い出すと言った。今さっき晴海さんに言っていたことと話が違うと思った。教授こそ、過去のことを思い出している。

「教授。昔のことですよ」
「ははは。そうなんだけどね。僕は僕で前を向けないときもある。神聖なる研究室であのようなことを起こされて、僕は苛立っている。でも、生徒には恨みはない。そういうことは起きるものだ。生徒が多かろうが少なかろうが同じだ。複雑な気分だ」
「……」

 その神聖なる研究室で淫行騒ぎを起こしたことのある晴海さんが黙りこくった。これではペアになる意味が無い。そこで、話を変えようと思った。一貴さんが何か面白い話を知っていないだろうか。

「カズ兄さん。プラセルで面白いことはあった?」
「香港で行われたファッションショーの後の話で良いものがある。向こうのデザイナーが日本に来日して、うちの会社に寄ってくれた。その時に……」
「へえーーー」

 一貴さんが話し始め話題に聞き入った。教授も晴海さんも同じだ。俺は片付けをして、ペットボトルと紙コップを袋の中に入れた。これも新居に持って行く。目の前ではどんどん荷物が運び出されて、がらんどうになっていった。

 ここのマンションは本当に黒崎家から離れている。よっぽど家から離れたかったのだと思って、心が痛くなった。そして、また近くに来てくれることになり、そこが良い住処になるようにと願った。
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