青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 午前10時。

 荷物の運び出しが終了して、俺達は1階に下りて外に出た。最後の荷物が出されていく後ろ姿を眺めていると、晴海さんが黒崎に電話をかけ始めた。これからトラックが新居に向かうという連絡だ。それはリラックスした雰囲気で、なんでも頼れる仲の良い弟に頼んでいる感じがあり、こうなれて良かったと思った。

 ここのマンションは俺と晴海さんの雪解けが始まった頃に住み始めた家だ。まだお父さんとは心から打ち解けたわけでは無く、その証としてなのか、その当時、この場所が新居に選ばれて、俺としては悲しかった。しかし、晴海さんはこう言っていた。前の家の辺りは人が増えすぎて騒々しくて、静かな環境が良いのだと。そして、いくつか新居の候補があり、たまたま一番遠くなっただけだと。その後、晴海さんが当主になった。実質的にお義父さんが役目を果たしているようなものだと言っていたが、晴海さんの訪れが多くなり、今日、とても近い場所へ引っ越してくる。徒歩15分ほどあるが、歩いて行ける距離の新居だ。

 そこは商店街やカフェなど、新しい店から古い店まで並んでいるスポットであり、懐かしさのある風景と、近代的な外観のタワーマンションが並んでいる。その中の一つに晴海さんは引っ越してくる。気軽に出かけられるのは低層マンションだと思うが、眺めの良さから高い建物の方を選んだと言っていた。

「ここと同じ20階だなんて、晴海お兄ちゃんのこだわりだなあ。教授、カズ兄さん。そう思わない?」
「そうだね。僕もそう思う。偶然にも同じ階が空いていたと言っていた。内見の時に一緒に見に行ったんだ」
「そうなんですか!それはもう……」

 恋人同士。もしくは候補者。そんなことを一貴さんが言いたそうにした。いずれにしても、そんなに仲の良い人が出来て嬉しいと思った。しかもそれが俺の好きな神仙教授だなんて、嬉しすぎる。その教授は気難しげな眉を寄せて、空を見上げた。一体どうしたのだろうか。

「教授、どうしたんですか?」
「天気が変わりそうだと思ってね。雨が降りそうだ」
「こんなに天気が良いのに……」
「そうなのか……」

 俺と一貴さんは同時に空を見上げた。雲一つ無い空といった感じだ。しかし、教授の天気予報は良く当たるから、そうなのだろうと思った。研究室には傘が置いてあり、教授の予報通りにそれを持って行った生徒は雨に濡れずに済んでいる。俺も何度もお世話になった。

 すると、教授が東の空を指した。そこにはグレーがかかった雲が浮かんでいた。雨雲に違いないという。それが今日の風の流れに沿ってこっちに来るから、もう少しで新居に雨が降るだろうということだった。それがにわか雨ではなく、本格的な雨だそうだ。

 すると、晴海さんが電話を終えた。そこで、雨のことを言うと、同じく教授の天気予報のことを知っており、眉をしかめた。

「雨なのか。困ったな。今日は引っ越しなのに……。あの通り、荷物が多い」
「でも、エントランスに屋根が付いているだろ?濡れずに済むんじゃないの?」
「引っ越しの時はエントランスにトラックを停められない。屋根の無い場所だ」
「そうなんだね!家具が濡れるね。拭くのを手伝うよ」

 それなら仕方が無い。今日は人数が揃っているから何でも出来ると思う。そう言いながら、駐車場に向かった。ここから晴海さんの車で新居に向かう。

 そして、その車のそばまで来た。教授が助手席だろう。そう思って後部座席に乗ろうとすると、教授が後ろの席を希望した。俺には助手席に乗れという。なんでも、一貴さんと交流を深めたいそうだ。それにはオッケーしたものの、晴海さんがウジウジし始めた。けっこうかっこいい人だが、かっこいいと言えば一貴さんの方だ。華やかさがある。話し上手だし、話題も豊富だ。

 俺は黙って助手席に乗った。そして、晴海さんに、あんたもかっこいいよと伝えた。そして、頰をつねられてしまった。うるさいと言って。それは黒崎そっくりの口調であり、兄弟なのだとよく分かった。

「さあ、車を出すぞ」
「うん」
「本当に雨が降りそうだな。風が湿ってきた」
「うん」

 晴海さんが車の窓を開けた。たしかに言われたとおりだ。この中で雨男がいるのかという話題が出されて、一貴さんが手を上げた。いや、彼はそんなことはない。そこで話題をかっさらい、また教授が彼のことを注目して、晴海さんがいじけてしまった。
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