青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 午前9時半。

 手島先生の講演が始まろうとしている。俺達は教員席に座り、1階と2階に分かれている席の1階にいる。振り返ると、意外なことに、お客さんの席から笑い声が聞こえてきた。ステージサイドで手島先生が何かをやっているようだ。それはカメラでの撮影だった。持っているのはパネルにあった黒いカメラだ。

「上楽先生、見て。ああやって撮っているんだね」
「そうだね。ユリウス君、あなたにカメラが向いたよ。手を振ってみて」
「はーーーい」

 バイバイと、ユーリーが手島先生に向かって手を振った。すると、先生も手を振り返して、笑顔でシャッターを切っていた。これがお馴染みということか。上楽先生がいうには、テレビでもこうやってカメラを向けているそうだ。今日のお客さんはテレビで観たことのある光景を目にしていることになる。

「夏樹君は普段はテレビを観ないんだろう?」
「うん。ニュースと音楽専門チャンネルだけだよ。ああ、ワイドショーも見るよ。結構面白いんだ」
「ははは。自分のことが報道されたら困るから見ているんだろう」
「ぐさっ。ヤバいときが何度かあってさ~」

 すっかり俺は上楽先生にタメ口を使っている。初対面からそうだった。話しやすくて、すぐに打ち解けることが出来た。大学の先生だからだと思う。俺ぐらいの年代の奴と話し慣れているだろうし、そうでないとカチコチになった授業になってしまうのだろう。聖アルテマ学園大学は少人数制をモットーにして、先生と生徒の距離感が近いという特徴があるのだと、今村先生が教えてくれた。その通りだと思った。

「先生って、話しやすいね。生徒にもこうやってタメ口で話されているの?」
「そうだよ。敬語じゃなくて良いんだ。教授の中には敬語で話して貰いたがっている人がいたけど、すぐに別の大学に移ったよ。うちじゃ務まらない。生徒の心の健康にも気を遣っています。これがキャッチフレーズだ。1年生の時は特に、ひとりぼっちを作らないようにプログラムを組んでいるから、一人が好きな生徒には不評かもしれないけど……」
「そんなことはないよ。知らない人だらけの大学に来て、不安だと思うから、そうしてもらった方が良いよ」
「そう?君は一人が好きそうだけど……。当たりかな?」
「当たりだよ。でも、大勢でいることが好きになったタイプだよ。俺が出た大学って、きめ細かい感じは無いんだ。勉強するために来たんだろう?さっさとしたまえ、そんなことを教授から言われるんだ。でも、通って良かったと思うよ」
「A大学は研究者肌の生徒が多いイメージだ。先生も生徒もマイペースだ」
「そうなんだよ。3年生で数学科に進学した生徒の中には、大学入学してから一度も誰とも話したことのない子がいるんだ。それで通用するんだ。俺が行った惑星環境学科にもいたよ。その子はほとんど話したことがないってレベルだったけど、卒業するまでにペラペラ喋るようになったよ」
「良い仲間だね。同窓会はないの?」
「あるよ。来月だよ。渋谷のクラブでするんだ。ん?ユーリー。どうしたの?」

 隣に座っているユーリーがスマホを見始めた。ラインが入ったそうだ。家で何か起こったのかもしれないから、こうしてマメにチェックしてくれている。俺の方も見てみた。何も入っていない。ユーリーに入ったのは仕事関係だろうか。

「どこからのラインだったの?」
「南波君からだ。今は仕事中だろう。どうしたのかな……。ああ、午前中に休暇を取ったのか。そう書いてある」
「へえーー。先生の前で見ているんだから、偉いよ。こそこそ隠れて見ていたら怪しいけどね」

 この間の一貴さんのことを例に挙げてイジってやった。彼は藤沢という存在がありながら、色んな人からデートに誘われている。その誘いのラインを堂々と俺達の前で見れば良いのに、カーテンに隠れて見ていたことがあった。

 その時の俺と黒崎としては呆れる思いだった。そこで、一貴さんのことをカーテンから引きずり出してスマホを見せてもらうと、熱烈なラブコールといった感じのラインの文面で、また呆れてしまった。それだけ熱い文章を送ってくるということは、その人に気を持たせたという事になると思ったからだ。
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