青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 そんな一貴さんだが、ここにいるユーリーはそんなことはしない。ナンパ癖はあるが、隠れてこそこそというタイプではない。去年冬にあった二股疑惑はこそこそという感じだが、好きだった人を諦めた後だったから、大目に見て良いと思う。

 俺達はユーリーのスマホ画面を見た。そこには、今度の日曜日に食事に行こうという誘いが書かれていた。それには月島さんも一緒にとも書かれている。そして、今日は講演会なんだろう、楽しんできてねと書かれていた。そして、それを見た上楽先生が口元に手を当てた。

「ぷぷぷ」
「先生、どうしたんですか?」
「彼、ユリウス君のことが好きなんじゃない?僕がどういう人なのか気になっているんだろう」
「マジで?そう思うんだね……」
「うん。今日は講演会なのは知っているんだろう?」

 上楽先生がユーリーに話しかけた。すると、ユーリーはもちろんだと頷いた。

「ああ、話してある。でも、彼は僕とは友達同士だと何度も言っている。月島君とも会いたいなんて、彼との仲を応援されているようだ」
「ぷぷぷ。わざと午前中に休暇を取ったんじゃないかな。僕のことも話してあるんだろう?ジュリアンって呼ばれているって……」
「それも話してある。驚いたんだよって話題に出した。南波君、どこか身体の具合が悪いんだろうか」
「もう講演が始まるよ。後にしたら?駆け引きも大事だよ」
「ヒャーーーー」

 上楽先生が言ったことに驚いた。あれだけユーリーのことを怒っていた南波さんが振り向いてくれるなんてないと思っていたが、そのまさかが起こるのだろうか。そしたら、月島さんは失恋だ。それはもう切ないことだ。この間、親友という距離を選んだ後だからだ。目の前で好きな人が自分以外の人と付き合うようになるなんて、胸が痛いだろう。

 すると、会場内アナウンスが流れ始めた。その音響が素晴らしくて、コンサートホールのようだと思って感激した。

「……ご来場ありがとうございます。手島津奈都の講演を始めさせて頂きます。みなさま、お手元にテキストをご準備下さいませ」
「とうとう始まるねえ。ユーリー、手島先生のファンだったの?」
「こそこそ言うけど、初めて聞く先生だ。この大学と付き合いを深めると隆さんが言っていたから、僕はネタを仕込んだんだ」
「なんだ~。ユーリー。そうだったのかよ~。あんなに熱望している講演だって言うから、学長先生が喜んでいたじゃん」
「今日ファンになりそうだ。上楽先生には内緒にしてくれ」
「ははは。もう聞こえているよ。はいはい。始まるよ」

 さっとステージ照明が切り替わり、手島先生が壇上に迎えられた。カメラは持っていない。そして、みんなに一礼した後で原稿を広げ始めて、読み上げられた。それは朗々とした声であり、まるで声優さんのようだと思った。

 そこで、来月収録予定の心霊番組のナレーションのことを思い出した。スタジオは“出る”と噂の部屋であり、そこで俺はマイクに向かって朗々とした声で語らなければならない。ぶるぶる震えていては仕事にならない。どうしてその部屋なのか知ったかというと、悠人が聞いてきたからだ。聡太郎が事務所に立ち寄ったときに、一緒になったそうだ。そこで、スタッフが噂しているのを聞いてしまったそうだ。二人とも耳が良いから、どんなに小さな声でも聞こえてしまう。

 それを聞いたとき、こそこそ言っていたなんて嫌だなと思った俺だったが、心配することは無かった。大きな声で堂々と噂話をしていたそうだ。ナツキの収録現場は“出る”んだってという風にだ。そこで、月島さんに聞いてみると、心配ないと太鼓判を押されてホッとした。一貴さんもヨークに聞いてくれて、そこは自分たちが想念を掃き掃除した場所であり、問題なくなったと言ってくれた。そこで、俺は安心して収録に臨むことになった。

「みなさん、おはようございます。経済評論家をしております、手島津奈都と申します。今日の講演では、食べ物の話をたくさんしますので、お腹を空かせる方がいらっしゃるかもしれませんが、どうぞお昼ご飯まで我慢なさって下さい。では、今日はツナマヨおにぎりの価格上昇の話題と、食べ物がもたらす満足度と経済効果のお話を始めます。気楽に行きましょう」

 パチパチパチ!

 手島先生の講演が始まった。俺達はテキストを持ち、テンポの良い話し方の先生の声に聞き入った。それはボーカリストとして刺激を受けるもので、声の出し方などを細かく観察し、そして、コンビニのおにぎりのことに思いを馳せたのだった。 
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