青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
658 / 938

19-9

しおりを挟む
 午前11時半。

 手島先生の講演が終了した。お客さんは笑いっぱなしであり、今日来て良かったという声が聞こえてきた。朝早めの時間であり、調子が上がらない人がいたと思うが、こんなに笑ったら身体が目を覚ましただろう。一番笑いが起きたのは手島先生が160円を握りしめてコンビニに行き、ツナマヨのおにぎりを買おうとしたら、170円になっていたというエピソードだった。そして、海苔の高騰により、海苔が巻かれていないおにぎりが登場し、食べてみたが自分には合わない感じで、190円にまで価格が上昇したおにぎりを買うことにしているという話だった。 

 手島先生にとって、自分の名前と共通した音を持つツナマヨのおにぎりには親近感があり、食べると落ち着く商品なのだろうだ。先生が顧問をしている会社のリサーチによると、定番商品を長く置くことでコンビニのお客さんの定着化が進むという情報が集まり、大学ではその研究結果が出されたそうだ。俺だって天板商品を目指して買いに行くことがある。鮭と昆布だ。

 先生が何を話したかったかというと、金額の大小にかかわらず、気に入った商品を買える国が良いねということだった。節約も良いけれど、こまめに店で買って下さいという話だった。そうしないと経済が回らないし、お給料だって上がらないという話だ。家で手作りするおにぎりも、具材はスーパーで買うだろう。何も入っていない塩むすびや海苔を巻いただけのシンプルおにぎりだって握るだろう。それにも何か買わないと出来ないわけだが、たまには高価格帯の豪勢なおむすびも買って下さいと言われた。

「ふむふむ。大きな鮭の切り身が入ったおむすびもいいよねえ。でもさ~、食費の予算の範囲内に収まらなかったら買えないよねえ~。そこで!お酒の量を減すとかしてバランスを取るんだって強調していたね。こまめに色んな物を食べることで健康的になるし、かえってお財布にも優しいんだよって話」
「そうだね。僕は家でおむすびを握っていくタイプなんだ。塩は三重県の二見浦で採取された海水を煮て作った塩を使っているんだよ。少々で塩っ気があるし、甘みもあるし、ミネラルも豊富だと思うから、使っているんだ。スーパーで買える塩より割高だけど、これも経済を回していると言えるかもね」
「その塩って聞いたことがないよ。どこで情報を仕入れているの?」
「研究者仲間から贈られた商品なんだよ。とてもまろやかで美味しいんだ。水に溶かしても苦くないから、夏場の塩分補給にも良いよ。ここのサイトだよ」
「ありがとう。岩崎館の塩っていうんだね。あ、ネットショップもあるね!」
「半年前から始めたんだ。その前は、岩崎館の塩に電話をかけて、代引きで買うか、提携している店のネットショップしか買えなかったんだ。便利になったよ」
「へえーー。さっそく買ってみるよ。これから暑くなるもんね!ふうん。新月の日と満月の日に海水をくみ上げるのか……」

 上楽先生から教えて貰った岩崎館の塩のサイトを見てみると、そう説明がされていた。一番美味しい塩が採れるそうだ。それをコツコツと煮て、にがりとに分ける。そのにがりも売っていた。小さなペットボトルに入っていた。

「買い物をするなら、健康に良さそうな場所で買いたいんだ。もちろん、ファーストフードも食べるけどね。買い物量はシンプルにして、食べ物もシンプルにして、後はウォーキングして健康的になるのが僕の信条なんだ」
「それ、俺も似た感じがあるよ。食べ物の種類は少なくいいんだけど、手島先生の話だと、色々と買ってみるといいんだね。うちって黒崎さんが居るから、同じ献立を食べないんだ。だから、自然と店で食材を買う量が増えてさ~。店から黒崎さんが運んでもらえるけど、こんなに買わなくてもいいだろうって思うんだ」
「夏樹君は小食男子なんだそうだね。塩を持って帰ってもらいたいけど、僕もちょうど切らしているんだ」
「いいんだよ。100グラムから買えるから、おためしにちょうどいいね」

 そう話しながら、俺達は席から立った。壇上では手島先生のカメラ撮影が行われている。こういうことは大学側のスタッフがするかと思っていた。しかし、手島先生はニコニコと笑いながらやっている。なんだかいい先生だなと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...