青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 ユーリーが手島先生と握手をした。そして、俺にも勧めてきた。こういう順番になるのは、ユーリーが黒崎家のお客さんだからだ。親戚同様の付き合いとは言え、こうなる。手島先生の他にも、誰かに彼のことを紹介するときも、こういう順番で握手する。そして、俺が手島先生と握手すると、俺の手が冷たいと言って、先生が驚いた。

「そんなに冷たいですか?俺、冷え性なんです」
「ええ、驚きました。僕はいつも暑いと言われます」
「たしかに先生の手は温かいです」
「先生は占いをされるとか。カード占いをすると、上楽先生から聞きました」

 ユーリーが手島先生に話しかけた。これからは彼が先生と話す番だ。俺は最低限しか話してはいけないから、後はユーリーに任せておけばいい。黒崎家にお客さんが来た時、いつもそうだ。黒崎がいるときは、彼が俺の代わりに話す。その時の俺は静かにしていて、笑顔を作り、聞き役にならなければならない。

 ここの大学に来た時もそうだった。黒崎家の名前を出して訪問したからには、お義父さん達に従って話をした。俺が人前に出る仕事をしていることも影響している。何か誤解があってはいけないという恐れと、俺がまだ黒崎家に馴染みきっていないという理由のためだ。

 しかし、上楽先生には最初からペラペラと話している。今村先生ともだ。大学を案内してくれた三橋君ともよく話した。全員にかしこまった話し方をするわけではない。お義父さんや黒崎達が事前に相手のことを調べてあって、理事長先生と学長先生にはかしこまった対応をする方がいいと判断がされたためだ。しかし、上楽先生達にだって調べれば、かしこまった対応をした方が良いのかも知れない。そこは黒崎の勘が働き、大丈夫だと判断された。

 調べるだなんて嫌だなと、黒崎家の養子になった頃はそう思ったが、今日も何度も思っているとおり、仕方の無いことだと思っている。敵か味方か吟味しなければならないからだ。どこでどう繋がっていて敵になるか分からないからだ。アレクシスさんが庭で銃で撃たれる可能性があった子供時代があるように、俺だって無事では無いのだそうだ。お義父さんが愛情をかけている養子であり末っ子という立場は、黒崎家の敵になる人達から見ると一番狙いたいそうだ。

 俺が少し緊張した面持ちで立っていると、手島先生が微笑んだ。そして、上楽先生も微笑んだ。ユーリーもだった。そこで、俺が話してもいいのだと分かった。しかし、いい話題が見つからない。講演が良かったという感想はいけないことになっている。次の講演にもいかなくてはならなくなるからだ。この次も付き合いをして良いかどうかは黒崎が決めることになっている。今日は黒崎からその許しをもらっていない。しかし、それは、俺の判断に委ねるという意味もあった。そこで、会場の盛り上がりのことを話題にすることにした。

「手島先生。会場の中は笑い声に包まれていましたね」
「はい。皆さんのおかげで講演ができました。夏樹さんはかっこいいですね。さすがは芸能人です」
「そんなことはありません」
「いやーーー、そんなことはあります。テレビで観たとき、なんてかっこいい人なのかと驚きました。上楽先生、そう思いませんか?」
「はい。僕もそう思います。先生。これから食事をされますよね?」
「ああ。一時間後だよ。休憩してからでないと、今の高揚感で食事が喉を通らない」
「よかったら、タロットカード占いをして頂けませんか?ユリウス君が恋に迷っているんです」
「ははは。僕で良かったら。控え室に行きましょう」
「よかった。さあ、2人とも、行こうよ」
「はい」

 上楽先生が手島先生に占いを頼んでくれた。そして、快く応じてもらえた。これでまた新しい繋がりができた。誰とでも話したいなんて思わないタイプの俺だったのに、今は一期一会の出会いを大事にしたいと思っている。もしかしたら、もう会えなくなるかも知れない。そんな切ない思いを抱えながら、みんなと一緒に控え室に向かった。
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