青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
666 / 938

19-17

しおりを挟む
 上楽先生がユーリーのことを見た。笑っているから頰が上気していて、なんだか色気がある。ユーリーの方はというと、お気に入りの学生に向けて手を振り続けている。とても嬉しそうだ。そんな彼を見て、先生達が笑った。学生が喜んでいるぞと言いながら。

「ユリウス君。そろそろやめておいてね。本気になるから」
「そうですよ。バーテルスさん」
「今村先生。僕が手を振っても何も言わないのに。僕のことが怖いんですか?」
「いえ、そんなことは……」

 今村先生が首を横に振った。それを見て、学生達がはやし立てる様子があった。上楽先生がこの大学の名物のようになっているのは、何となく分かった。お坊ちゃまという感じはとてもある。優しくて、誰とでもすぐに打ち解けて、笑顔がある。しかし、先生が人気者なのは、いい人だからだと思った。それを口にしたら、黒崎はどう言うだろうか。すぐに人を信用しすぎだと叱ってくるだろうか。

 しかし、俺は上楽先生のことが好きになった。なんだか儚い感じもあり、放っておけない。俺よりも年上だし先生なのに、貧血で倒れたところを見ているから、心配になる。それは今村先生も同じなのか、なんだか心配そうな目で先生のことを見ている。

「上楽先生。身体は大丈夫なの?」
「僕は大丈夫だよ。あの日は朝から調子が悪かったんだ。前の日にあまり食べていなくて、失敗したと思ったよ」
「そっか。薬は飲んでいるの?」
「ううん。僕は食事療法のみだよ。20歳で貧血になってね。子供の頃は丈夫だったんだけどね。母に似たのかも知れないなあ」
「お母さんは元気なの?」
「とても元気だよ。この間、還暦を迎えたんだ。そこで、勤務していた銀行も定年退職になって、嘱託で働いているよ。父も元気だ」
「先生は一人暮らしだから、寂しがっていないかな?」
「妹が一緒に居るから平気だと思う。オタクなんだよ。うちの妹……。学生時代は勉強もしないで、推し活ばかりだったよ。妹は33歳なんだ。市役所で働いているんだ。……東京の……市だ。そこまで電車で通っているんだ。彼女も貧血があって、電車内で倒れそうになって、危ないときがあったんだ」
「そうなんだね。大変だったね」
「うん。僕はお坊ちゃまだけど、うちって普通って感じがするだろう。祖父の影響があってね。みんな定職について、真面目にやっているんだ。祖父は放蕩息子って感じの人で、まだ元気なんだけど、上楽家の財産を使いまくって、海外で豪遊していたんだ」
「それも大変だねえ。お父さんって何の仕事をしているの?あ……」

 いけないと思って、口を閉じた。踏み込みすぎの質問だったからだ。相手から言わない限り、聞いてはいけない質問だ。黒崎からそう習ってある。しかし、先生はユーリーが親しい人になっていて、俺にとっても同じだ。だから、つい、油断してしまった。しかし、先生は笑っていた。俺が口を閉じたことに対してだ。

「黒崎家の子だなあ。必要以上に踏み込まないっていうルールだろう。僕の父のことで聞いても良いんだよ。ここの大学の経営陣の一人だよ。普段は理学部のあるキャンパスで、教務課の窓口のおじさんをやっている。教授じゃないからかっこ悪いかな?」
「そんなことはないよ!」

 俺が慌てて首を横に振った。だから踏み込んだ質問はいけないことになっていると痛感した。大きな一族の場合は、息子が教授だったり、研究者だったりと、肩書きがある場合が多い。しかし、先生のお父さんの場合はそうではなくて、へえ、あ、そうという反応をされがちな話なのかもしれない。しかし、俺はそうは思わない。先生を見ていると、良いお父さんだと思う。ここは重要だ。

「先生。いじめないでよ。経営陣だなんて、すごいだろ。それに、経営陣なのに、窓口のおじさんをやっているなんて、腰の低い人だと思うから、それもすごいことだと思うよ。経営陣なんて、そんなことやらないだろ」
「そうなんだよね。僕の父はそういう感じなんだ。君の家と似ている部分がある。君の家も家業を継いできた家だろう。決して他の家の人に経営を任せない」
「うん。そういう感じはあるよ」

 なんと答えて良いのか分からなくて、曖昧な返事を返した。黒崎家の場合は実子にこだわらずにいるが、跡取りになった人が偶然にも実子が続いているだけで、実は養子が経営を横から支えている代が多かったようだ。そして、愛人だらけなんて言うと恥ずかしいから、もっと何も言えなくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...