青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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20-16

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 俺は金曜日までの間にやることを頭に描いた。前回の殺害予告の際には黒崎製菓のビルの前に警察が立ち、各部署に数名を残して社員を避難させた。避難先はR&W社の近くにあるホールだ。そこを借りて、避難場所にした。そして、犯行予告時刻には何も起こらず、安全に会社に戻ることが出来た。今回もそうした方がいいだろう。

 家の方はお手伝いさん達を避難させる必要がある。出勤しないようにしてもらった方が良い。近所にも知らせておくべきだ。避難先をどうしようか。どこかホテルに移動するのが良いだろう。

「親父。今日の収録は20時までの予定だが、延びる可能性がある。今から深川さんに連絡する」
「警察が深川君に連絡してある。向こうから連絡が来る頃だろう」
「分かった。連絡を待つことにする。ん?掛かってきた」
「そうだろう。私は電話を切る。こちらは何も異常がない」

 父が電話を切った後、俺は深川さんからの着信に出た。そこで、社員達に殺害予告がされて、一時避難させた時のことを思い起こした。社員には怪我がなかったとはいえ、動揺は広がっていた。そうならないわけがない。しかし、団結力が強くなった。今回もそうなるといい。そして、何も起らなければいい。 

「もしもし。深川さん。殺害予告の件だろう」
「お父さんから連絡が入ったんだね。そうだよ。もう役員と部長達に連絡してある。また社員達に殺害予告がされないとも限らない」
「対応が早いな。俺がしないといけなかったのに。助かった」
「たまには私にも仕事をさせてくれ。これでも私は社長だ。南波君と連絡が取れないと、橋本部長が言っていた。彼は今日は休暇を取っている。枝川課長から連絡を取らせようとしていた。彼も殺害予告がされたことがある。今日は山に行っているんだろうか……」
「彼に殺害予告はされたのか?」
「いや。今のところ、お父さんと君だけだ。じゃあ、また何か進展があったら連絡する。君からもしてくれ」
「分かった」

 深川さんとの電話を終えた。すぐにでも会社に行きたいが、今日はそれが出来ない状況だ。そして、俺と父が目的なら、家の方に戻る必要があることも思い浮かべた。今日は二葉は大学に行っている。もうすぐで帰ってくる頃だ。彼女に関係していると危ない。

(どうするか。親父と二葉をここに呼ぼうか。しかし、山崎さん達だけになる。一貴に戻らせるか。いや、ユーリーがいる)

 夏樹をここに残すのは嫌だという感情が浮かんだ。何かあってからでは遅い。収録のことは広報しており、収録スタジオがどこなのかも知られているかも知れない。それが今日であることは終わった後でSNSでアップするとはいえ、それも知られているかも知れない。犯人がどこにいるのか、どういう人物なのか、一切分からない。二葉の同級生達なら行動を読めるが、同じ人物とは限らず、新たな犯人だった場合、何があるか分からない。

 そこで、俺は晴海兄さんに電話を掛けることにした。すでに父が電話を掛けているかも知れないが、仕事中だと思って遠慮して、まだかも知れない。こういう時には連絡するべきだ。そこで、晴海兄さんの連絡先をタップした。すると、向こうが数秒後に電話に出た。ガヤガヤと音がしている。外だろうか。

「もしもし。兄さん。すまない。俺と親父に殺害予告がされた」
「犯人に心当たりはあるのか?」
「二葉の同級生達かと思っているが、予告してきたのは男性の名前だった。明後日の金曜日の午前10時8分が犯行予告時刻だ。家と会社に襲いに来るそうだ」
「また避難が必要だ。今、北岡さんの店に居る。当日はここに来るか?犯人は分からないだろう。ホテルに避難するのも大げさだ。それに、お前はまたすぐに会社に戻らないといけないだろう。ここなら会社からタクシーで近い。……北岡さん」

 晴海兄さんがそばにいるらしい北岡さんに事情を話し始めた。すると、すぐに応じてもらえたようで、晴海兄さんが礼を言っていた。

「もしもし。北岡さんが来いと言ってくれた。お父さんを連れて来い。ユーリーもだ。お手伝いさん達には出勤を取りやめてもらうとして、家には誰も残さない方が良い。今月はフェアをやっているから、花を見て楽しむといい」
「助かる。親父には俺から伝えておく」
「夜にはお父さんから電話が入るだろうな。どうせ晴海だと思って、後から電話を掛けてくるつもりだったんだろう。ふん……」

 晴海兄さんが拗ねたような声を出した。俺からすると、そんな声を出さずとも、信頼されていると言いたかった。こうして相談できることが心強く、嬉しかった。今まで散々すれ違い、いがみ合うようにして対岸に立ち、お互いのことを見ようともしていなかったが、今はこうして寄り添えあえる。そのことに感謝して、俺の頭の中に夏樹の姿が浮かんだ。その姿には翼が生えており、天使だと思ったのだった。
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