青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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20-17

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 18時半。

 収録は順調に進んでいる。全部で6話あるうちの最終話まで撮り終えた。ここで一旦休憩だ。細かい場所は撮り直しがあるかも知れない。音声担当の藤下さんがマイクのチェックをしている中、俺は椅子に座らせてもらった。すると、聡太郎君が隣に立った。

「夏樹君。お疲れ様」
「お疲れ様。最終話までいったね」
「うん。時間通りだ。君はすごいな。台本を全部覚えているんだから」
「聡太郎君だってそうじゃん。ボーカルの経験が無いのに、堂々とマイクに向かっているしさ」
「君ほどじゃないよ」

 聡太郎が笑った。すると、彼の周りに花が咲いたような空気が流れた。いつもそうだ。聡太郎には華がある。それは豪華な花であり、儚げでもあり、良い匂いがする。桜木という名字の通り、満開の桜並木も似合う人だ。

「聡太郎君っていいね。立っているだけで華があるんだ」
「そうかな?」
「そうだよ。衣装ではもっと攻めていいと思うよ」
「ははは。それだと、ディアドロップ時代の久弥さんになる」
「いいじゃん。かっこいいんだから。俺が攻めると似合わないんだ」
「君はシンプルな方が良い。今日の格好も良い」
「きちんとしたくてさ~。俺、最近、怖いって言われることがあるから気にしているんだ」
「副社長の影響を受けているんだと思うよ。……はい」

 すると、聡太郎が板東さんから呼ばれた。隣の部屋に戻っている。その間、俺はペットボトルのお茶を飲んだ。1時間前にトイレに行って来たばかりだから、まだ行かなくてもいいだろう。しかし、こんなに飲んでいたら行きたくなるかも知れない。そんな量のお茶を俺は飲んでいる。

 今日の仕事を楽しみにしていた。そして、緊張感はMAXだ。何度も台本を読んでいたから、覚えてしまった。しかし、細かい箇所の指示などが書き込まれてあるから、台本が手放せない。常に手に持ち、板東さんの指示に合わせて開き、確認しながら収録を進めている。肩はガチガチに凝っている。

「聡太郎君はすごいなあ。この場にもすぐに溶け込んで、スラスラとやってのけるんだもんなあ」

 俺は隣の部屋にいるガラスマ壁越しの聡太郎の姿を眺めた。板東さんとアシスタントの男性と何かを話している。俺には指示はないようだ。それを寂しく感じた。そして、まさか聡太郎に対しての注意ではないかと思って、背中が冷たくなった。いや、それなら別室に呼ぶだろう。それに、聡太郎には注意するところが無いと思う。それなのに、なぜ、今のタイミングで呼ばれているのだろう。

「聡太郎君。大丈夫かな……」

 つい、じーーっと、彼らのことを見ていると、聡太郎が戻ってきた。頰が紅潮している。やっぱり何か注意されたのだろうか。

「聡太郎君、大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ。スタジオの入り口に、俺達の出待ちがいるそうだ。1人の子が俺のことを呼んでいるって報告を受けたよ。だから、帰りは裏口を通ってくれって言われたんだ」
「なんだよ~。そういうことなら良かったよ。何か注意されたかと思ったんだ。それにしても、よくこのスタジオが分かったね。都内にも近郊にも、いくらでもあるのに……」
「IKUが使っているスタジオで探したんだろう。車が知られている。普通の白い車だけど、IKUから出てくるときに見ていて、ナンバーを控えていたのかも知れない。ということで、俺の家も特定されたかも知れない」
「あ、そういうことか。長谷部さんの後ろを付いてきたら分かるもんね。出待ちの子って、いつからいるのかな?」
「ついさっきだそうだ。収録が終わる頃だろうと思って来たんだろうって、板東さんが言っているよ。俺が行ったらいいんだろうけど、長谷部さんからは止められている。君はいいんだよ。ファンの子が大人しいから。今日の出待ちの子も手紙を渡してくれって、長谷部さんに預けただけだそうだ。それと、一目で良いから見たいって。俺の出待ちの子は騒ぎまくっていて、今、警備の人が対応中だ。だから、俺が行った方が早そうだと思ったんだ」
「なんだかそれって久弥の時みたいだよ。ディアドロップ時代の久弥って、今の聡太郎君に似ているんだ。ファンまで似ているだなんて……」
 
 出待ちの子がいるだなんて、ありがたい話だ。そこまでして会いたいと思ってくれて嬉しい。しかし、そこでこちらから会いに行くのは禁止されている。安全確保のためだ。ここのスタジオやスタッフに迷惑が掛かる。
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