707 / 938
20-28
しおりを挟む
すると、クーラーが効き始めた。社員達が呼吸が出来ると喜んでいる。しかし、枝川の山下達を叱りつける様子には目をそらすしか無いわけで、随分と気を遣わせてしまっている。そんな中、俺は橋本部長との通話を終えた。枝川のことをフォローするためだ。
「藤本さん、宝田君。身体の方はどうですか?病院に行きますか。僕が同行します」
「いえ、僕は平気です。尻餅をついただけなので……」
「腰を打ったんだろう。腰痛をあなどってはいけない。擦り傷も付いたんじゃ無いのか?」
「いえ、何もありません。藤本さんも同じ気持ちです。ズボンに穴も空いていません」
「そうか……」
俺の申し出に、宝田が首を横に振った。2人はデザート事業部の社員だ。横暴な山下に辟易していたようで、これで問題解決かという顔をしている。それはそうだろう。山下のことでは処分が必要だ。営業企画部から異動させたときに、様々な部署が受け入れ先として候補に挙がっていた。そして、色んなケースを考えた結果、デザート事業部に落ち着いた。上司も替わった。そこで山下は居場所を見つけて、ちゃんと業務を行ってきた。それでよかったはずだ。それなのに、北添に陰険な目を向けて、徒党を組んで襲いかかるとは、何が彼にそこまでさせるのだろうと思った。
そこで、藤本や宝田も南波と関わりがあるのかと思った。仲が良いことで山下からの嫉妬を買ったのでは無いかと思った。そこで、枝川に叱られ続けている山下にストレートに聞いた。すると、答えはNOだった。山下のことを遠巻きにして傘下に入ろうとしない藤本達に苛立ち、さっきのことを起こしたようだ。
さて、まもなく10時20分を迎える。本社ビルには橋本部長と共に平田も待機している。枝川の片腕という存在だ。その平田がいない今、枝川のヒートアップは増すばかりだ。
「枝川。そろそろ出る準備をしろ」
「君達。分かったか。課長デスクに来い。話はそれからだ」
「はい」
山下達が素直に返事をした。今もぼうっとした顔をしている。悔しいとか、見つかってしまったとか、まずいなど、そういう表情では無い。ただ静かに枝川の話を聞いている。その代わり、頷きもしていない。これは一体、どういうことだろうか。後で話を聞くとして、今回の話は大きな物になりそうだと予感した。
(また人事異動だ。転職組を増やせば争いになるだろうか……)
新しい風を入れるとしても、受け入れ体勢が必要だ。いきなり今日からよろしく頼むという流れは避けたい。無用な争いを生むだろう。黒崎製菓では新卒者を多く採用してきた。そして、定年退職まで勤める者が多い。今の若い社員もそうするつもりでいるだろう。うちの会社は離職率が低い。新入社員達は先輩達にフォローされ、可愛がられている社員は少なくない。社員同士の交流は密であり、仲の良さがうちのアピールポイントになっている。しかし、これが崩れてきていると感じている。
だからといって、南波を異動させるつもりはない。彼はきちんと仕事をして、役目を果たしている。異動先の希望としては広報部があるが、まだ営業企画部で成すべき事があると感じている。様々なアイデアを提供されて、彼のことを必要としている。そして、南波の動画配信により刺激を受けている社員が出ており、それは明るいものであり、良い影響を受けたと思い、嬉しく思っている。
さて、10時20分を迎えた。橋本部長から再度電話が入った。本社ビルではにも起きていないそうだ。そして、深川さんの元には各支社長からの報告があり、何も起きていないことが分かった。さあ、本社に戻ることになる。
俺のそばには南波がいる。あえてそうさせた。まさか自暴自棄になった山下が暴れかねないことを危惧してのことだ。そして、去年、彼のことを争っていた谷川と山本もそばにきた。彼らは何も起こすことなく、日々の業務を行っている。しかし、今は山下達のことで動揺しているようだ。
「みんな、戻るぞ」
「はい」
そこへ、今田課長のアナウンスが流れた。今度は総務部から移動して戻るということだ。やっとクーラーが効いた中、また暑い外に出ることになる。みんなが夏のスーツを着ているが、この中は暑かったようで、ハンカチで汗を拭う者が多い。
(うちは甘いのか?そうではないだろう。こんなになってまで争いを続けている……)
俺は枝川が引き連れているグループのことを見た。山下達だ。被害届を出されずに済み、会社に戻れている状況は甘いのだろうか。被害を受けた2人が許すと言ったからでもある。しかし、ぼうっとした顔になっていた山下達が谷川達のことを睨み付けた。それに対して、まだ新たな火種が生まれたのだと感じた。そして、俺達はホールを出た。
「藤本さん、宝田君。身体の方はどうですか?病院に行きますか。僕が同行します」
「いえ、僕は平気です。尻餅をついただけなので……」
「腰を打ったんだろう。腰痛をあなどってはいけない。擦り傷も付いたんじゃ無いのか?」
「いえ、何もありません。藤本さんも同じ気持ちです。ズボンに穴も空いていません」
「そうか……」
俺の申し出に、宝田が首を横に振った。2人はデザート事業部の社員だ。横暴な山下に辟易していたようで、これで問題解決かという顔をしている。それはそうだろう。山下のことでは処分が必要だ。営業企画部から異動させたときに、様々な部署が受け入れ先として候補に挙がっていた。そして、色んなケースを考えた結果、デザート事業部に落ち着いた。上司も替わった。そこで山下は居場所を見つけて、ちゃんと業務を行ってきた。それでよかったはずだ。それなのに、北添に陰険な目を向けて、徒党を組んで襲いかかるとは、何が彼にそこまでさせるのだろうと思った。
そこで、藤本や宝田も南波と関わりがあるのかと思った。仲が良いことで山下からの嫉妬を買ったのでは無いかと思った。そこで、枝川に叱られ続けている山下にストレートに聞いた。すると、答えはNOだった。山下のことを遠巻きにして傘下に入ろうとしない藤本達に苛立ち、さっきのことを起こしたようだ。
さて、まもなく10時20分を迎える。本社ビルには橋本部長と共に平田も待機している。枝川の片腕という存在だ。その平田がいない今、枝川のヒートアップは増すばかりだ。
「枝川。そろそろ出る準備をしろ」
「君達。分かったか。課長デスクに来い。話はそれからだ」
「はい」
山下達が素直に返事をした。今もぼうっとした顔をしている。悔しいとか、見つかってしまったとか、まずいなど、そういう表情では無い。ただ静かに枝川の話を聞いている。その代わり、頷きもしていない。これは一体、どういうことだろうか。後で話を聞くとして、今回の話は大きな物になりそうだと予感した。
(また人事異動だ。転職組を増やせば争いになるだろうか……)
新しい風を入れるとしても、受け入れ体勢が必要だ。いきなり今日からよろしく頼むという流れは避けたい。無用な争いを生むだろう。黒崎製菓では新卒者を多く採用してきた。そして、定年退職まで勤める者が多い。今の若い社員もそうするつもりでいるだろう。うちの会社は離職率が低い。新入社員達は先輩達にフォローされ、可愛がられている社員は少なくない。社員同士の交流は密であり、仲の良さがうちのアピールポイントになっている。しかし、これが崩れてきていると感じている。
だからといって、南波を異動させるつもりはない。彼はきちんと仕事をして、役目を果たしている。異動先の希望としては広報部があるが、まだ営業企画部で成すべき事があると感じている。様々なアイデアを提供されて、彼のことを必要としている。そして、南波の動画配信により刺激を受けている社員が出ており、それは明るいものであり、良い影響を受けたと思い、嬉しく思っている。
さて、10時20分を迎えた。橋本部長から再度電話が入った。本社ビルではにも起きていないそうだ。そして、深川さんの元には各支社長からの報告があり、何も起きていないことが分かった。さあ、本社に戻ることになる。
俺のそばには南波がいる。あえてそうさせた。まさか自暴自棄になった山下が暴れかねないことを危惧してのことだ。そして、去年、彼のことを争っていた谷川と山本もそばにきた。彼らは何も起こすことなく、日々の業務を行っている。しかし、今は山下達のことで動揺しているようだ。
「みんな、戻るぞ」
「はい」
そこへ、今田課長のアナウンスが流れた。今度は総務部から移動して戻るということだ。やっとクーラーが効いた中、また暑い外に出ることになる。みんなが夏のスーツを着ているが、この中は暑かったようで、ハンカチで汗を拭う者が多い。
(うちは甘いのか?そうではないだろう。こんなになってまで争いを続けている……)
俺は枝川が引き連れているグループのことを見た。山下達だ。被害届を出されずに済み、会社に戻れている状況は甘いのだろうか。被害を受けた2人が許すと言ったからでもある。しかし、ぼうっとした顔になっていた山下達が谷川達のことを睨み付けた。それに対して、まだ新たな火種が生まれたのだと感じた。そして、俺達はホールを出た。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~
野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。
残念ながら話もできたし、触ることもできた。
様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。
そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。
厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。
きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。
それから五年。
地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。
真詞の運命が大きく動き出す。
人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半)
別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半)
・前半 巡(人外)×真詞
・後半 岬(人間)×真詞
※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。
※ キスを二回程度しかしないです。
※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。
※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる