青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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20-27

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 午前10時8分。

 R&W社のそばにあるホールでは、黒崎製菓の社員達の避難が完了し、犯行予告時刻を迎えた。会社で待機している橋本部長からの電話によると、今のところ、何も起こっていないという。彼は1階のロビーで待機して、警察官が周囲を調べているところだと言っている。

「副社長。警察が爆発物が無いかどうか調べていますが、今のところ、何も見つかっていません。進入者もありません。会社のメールにも、犯人から何も届いていません」
「そうか。こちらにも何も無い。俺も無事だ」
「お父様の方はいかがでしょうか」
「まだ連絡をしていない。ありがとう。おそらく無事だ。今頃テレビを観ているんじゃないか」
「きっとそうですよ。デザート事業部の印藤いんどう部長がそばにいます。そちらに迎えに行かなくてもよろしいでしょうかということですが……」
「いや、構わない。こちらに山上やまがみ課長がいる。今、山下と話をしているところだ。一緒に戻らせる。藤本ふじもとさんも宝田たからだ君も被害届は出さない方針だと言っている」
「部屋を用意しておきます。営業企画部の部長室で話しましょう」
「デザート事業部の方が良くないか?そこは人目につきやすい」
「いえ、元は僕の部下でした。責任があります」
「そうか……」

 俺のそばには枝川がいる。山下と取り巻き達もだ。彼が彼らに説教をしている中、社員達が落ち着かない様子を見せた。エアコンが効いていないからだ。いや、少々は効いている。室温28度設定といったところだろう。9時から稼働させているが、調子が悪いのか、その温度になっていないように感じている。

 社員達が汗を拭いている。早く戻らせたいが、それまでには暑い中を歩いて行く必要があり、本社ビルでエアコンが通常通りに稼働しているかどうかが気になった。そこで橋本部長に聞いてみると、中は涼しいままだそうだ。エアコンは切ってきていない。暑い中を戻ることを想定してのことだ。

 ここにいる社員達もそれを知っているから、我慢すると言ってくれている。しかし、それに甘えてばかりは居られない。ここは暑い。そこで、10時20分までの間までどうにかできないかと、営業企画部の社員達がエアコンの調整に向かった。しかし、良い返事が来ない。

「犯人のやつ。このやろう。被害があったじゃないか」
「君達!反省しているのか!」

 この暑さの中、枝川がヒートアップしている。子供だと言ったら子供に失礼になりそうだが、山下達の言い訳は子供が言うようなことだ。あの子が先に手を出してきたのだ、悪口を言っていたのだと、自分たちが突き飛ばした藤本と宝田に対して謝ろうとしない。ここで俺は考えた。組織内の循環が必要だと。

 問題を起こした過去の社員と言えば、白澤しらざわという男が思い当たる。セクハラ行為をして上司から散々注意してきた。そして、それはチーフの座を巡っての争いが関わっており、相手に負けた彼が自暴自棄になり、問題を起こし始めた。そして、電車内で痴漢行為をして逮捕されるということにまで発展した。結局彼は退職し、親が経営している会社に再就職した。その後の彼がどうしているかは伝え聞いてある。珈琲豆の取引と焙煎を行う業務に就き、特に事件を起こすこと無く暮らしているそうだ。

(枝川を止めるか。この組織にも風が必要だ。転職組は圧倒的に少ない。部長ですら新卒からの務めている者がやっている。役員ぐらいだ。転職組なのは……)

 俺が黒崎製菓に移ってきたときには、黒崎ホールディングスの社員は黒崎製菓の社員になった。その中で本社に務めるようになったのは数名であり、その中には早瀨がいる。いきなりマーケティング推進室の室長になり、周りは戸惑ったことだと思う。本人もそうだっただろう。しかし、風を起こしてくれた。

 そして、合併によって仲間が増えたと感じて、勢いを持ってやっていくのだと受け止めてくれた社員には感謝している。しかし、新たな競争と、このままで安泰だという感情は消え去り、出世を望むものには焦りが生まれた。そこで、山下の事件が起きた。それまでの間にも色々あった。元デザート事業部の山田との争いがあった。それは俺の副社長就任により、勢力争いの構造変化が生まれて、落ち着いている。
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