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21-9(黒崎視点)
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12時半。
副社長室で昼の休憩中だ。午前中は4本の会議があり、そのほとんどが15階の大会議室で行われた。俺は部屋を留守にしている間に電話が入っていた。秘書の柳本が用件を聞き、メモを残している。そのメモを受け取ったところだ。誰から電話が掛かっていたか。それは風林だ。ヘッドハンティングに前向きになったということで、ここに話を聞きに来たいという用件だった。
(とうとうか。いや、条件をのむとは限らない。アザレアとの給与アップの交渉に使ってくれていい。しかし、来てもらいたい……)
俺は風林をここに呼びたいのは本気だ。俺の目に狂いはなかったと、この間の避難前の作業でもそう思った。それは重要書類を資料室や倉庫に運び入れる作業の日だった。風林がリーダーとなって4人のスタッフを引き連れてやって来た。そして、細かい指示をすること無く、スムーズに資料室に書類が運ばれていった。その手さばきは見事といえて、ますます彼のことを欲しいと思った。そこで、昨日、アザレアに電話を掛けて再度ヘッドハンティングをしたわけだ。
時計を見ると12時半になっている。風林にはこちらからかけ直す対応としている。今日だったら13時半から空いているということで、プライベートの携帯電話の番号がメモされていた。これで話がスムーズに進むと思った。会社に電話を掛けると現場に出ているということで、連絡が遅くなってしまう。
「さて、先に夏樹に連絡するか。ラインは入っていないな。まだレコーディング中か?ん?入った……」
ちょうどタイミングよく、夏樹からラインが入った。昼食中だということで、弁当の写真も送られてきた。水仙の弁当だ。すっかり馴染みになり、スタジオ収録といえばこの弁当になっている。
「“今日は幕の内弁当だよ。久弥が今、困っているんだ。菅野さんがまだ久弥達とのことを公表しようとしているそうだよ”。……約束が違う」
ラインを読んで、ため息をついた。菅野さんには黙っていてもらうことになっている。それはバンドのスポンサー企業としての希望であり、久弥と菅野さんの間に入る形でそういう約束になった。そして、用件を聞いてもらう礼として、菅野さんにはコンサートの開催で便宜を図らせてもらった。黒崎製菓がスポンサーになったわけでは無いが、コネとかツテという物だ。菅野さんはその条件をのみ、黙っていることになった。その約束を違えるということだ。
久弥が言うには菅野さんは気まぐれで、急に思い立ったように意見を変える人なのだという。俺が見てもそういうタイプだとは思っている。しかし、約束を違えるというのは黙ってみていられない。
久弥も聡太郎も菅野さんを母親だと公表したくないと言っている。家族関係に触れられたら静かにしていられないということで、このまま黙っている方が良いという。そして、今のところ、菅野さんがテレビに出ていないことから久弥とのよく似た顔立ちを指摘されること無く来られている。しかし、そのテレビに出るということなのだろうか。
そこで、俺はIKUの飯野さんに電話を掛けた。ここからはスポンサー企業としての仕事だ。菅野さんには黙っていてもらいたい。何コール目かの呼び出し音の後で飯野さんが出て、手短に今回の件を話した。すると、対応中だという回答を得た。
「そうでしたか。こちらで出来ることがありますが……」
「菅野さんには公演のストップをかけると伝えてあります。しかし、それでも公表する気があるなら、今回は本気かも知れません。彼女が週刊誌で喋ったとしても、記事のストップは掛かります。黒崎製菓さんの協力がありますし……」
飯野さんがため息をついた。俺達のことを心強い味方だと言ってくれているが、何か他にも問題があるのだろう。それは一体何だろうか。派手にしたいということか。息子との感動の再会ということで、テレビで演出してもらいたいのか。公表するとなると、そのコースが想定される。
副社長室で昼の休憩中だ。午前中は4本の会議があり、そのほとんどが15階の大会議室で行われた。俺は部屋を留守にしている間に電話が入っていた。秘書の柳本が用件を聞き、メモを残している。そのメモを受け取ったところだ。誰から電話が掛かっていたか。それは風林だ。ヘッドハンティングに前向きになったということで、ここに話を聞きに来たいという用件だった。
(とうとうか。いや、条件をのむとは限らない。アザレアとの給与アップの交渉に使ってくれていい。しかし、来てもらいたい……)
俺は風林をここに呼びたいのは本気だ。俺の目に狂いはなかったと、この間の避難前の作業でもそう思った。それは重要書類を資料室や倉庫に運び入れる作業の日だった。風林がリーダーとなって4人のスタッフを引き連れてやって来た。そして、細かい指示をすること無く、スムーズに資料室に書類が運ばれていった。その手さばきは見事といえて、ますます彼のことを欲しいと思った。そこで、昨日、アザレアに電話を掛けて再度ヘッドハンティングをしたわけだ。
時計を見ると12時半になっている。風林にはこちらからかけ直す対応としている。今日だったら13時半から空いているということで、プライベートの携帯電話の番号がメモされていた。これで話がスムーズに進むと思った。会社に電話を掛けると現場に出ているということで、連絡が遅くなってしまう。
「さて、先に夏樹に連絡するか。ラインは入っていないな。まだレコーディング中か?ん?入った……」
ちょうどタイミングよく、夏樹からラインが入った。昼食中だということで、弁当の写真も送られてきた。水仙の弁当だ。すっかり馴染みになり、スタジオ収録といえばこの弁当になっている。
「“今日は幕の内弁当だよ。久弥が今、困っているんだ。菅野さんがまだ久弥達とのことを公表しようとしているそうだよ”。……約束が違う」
ラインを読んで、ため息をついた。菅野さんには黙っていてもらうことになっている。それはバンドのスポンサー企業としての希望であり、久弥と菅野さんの間に入る形でそういう約束になった。そして、用件を聞いてもらう礼として、菅野さんにはコンサートの開催で便宜を図らせてもらった。黒崎製菓がスポンサーになったわけでは無いが、コネとかツテという物だ。菅野さんはその条件をのみ、黙っていることになった。その約束を違えるということだ。
久弥が言うには菅野さんは気まぐれで、急に思い立ったように意見を変える人なのだという。俺が見てもそういうタイプだとは思っている。しかし、約束を違えるというのは黙ってみていられない。
久弥も聡太郎も菅野さんを母親だと公表したくないと言っている。家族関係に触れられたら静かにしていられないということで、このまま黙っている方が良いという。そして、今のところ、菅野さんがテレビに出ていないことから久弥とのよく似た顔立ちを指摘されること無く来られている。しかし、そのテレビに出るということなのだろうか。
そこで、俺はIKUの飯野さんに電話を掛けた。ここからはスポンサー企業としての仕事だ。菅野さんには黙っていてもらいたい。何コール目かの呼び出し音の後で飯野さんが出て、手短に今回の件を話した。すると、対応中だという回答を得た。
「そうでしたか。こちらで出来ることがありますが……」
「菅野さんには公演のストップをかけると伝えてあります。しかし、それでも公表する気があるなら、今回は本気かも知れません。彼女が週刊誌で喋ったとしても、記事のストップは掛かります。黒崎製菓さんの協力がありますし……」
飯野さんがため息をついた。俺達のことを心強い味方だと言ってくれているが、何か他にも問題があるのだろう。それは一体何だろうか。派手にしたいということか。息子との感動の再会ということで、テレビで演出してもらいたいのか。公表するとなると、そのコースが想定される。
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