青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 引き続き、飯野さんの話を聞くことにした。すると、菅野さんが日本に戻ってくるのだと言い出した。そして、母校である美野音大で講師を務めることになるのだということだった。それだけ聞くと落ち着いた進路選択だと思う。今更になって公表したいのが分からない。

「どうしてなんでしょうか。本人から聞きましたか?」
「いえ、彼女は公表するとだけ周囲に漏らしているようです。はっきり言って、公表されたところで、バンドの勢いは消えないと思います。それだけ頑張ってきました。しかし、煩わしいことで時間を割かれる可能性があります。引き続き、こちらで対応します。……ん、多々良君。今、なんて言った?」
「ん?」
「すみません。新しい情報が入りました。うちの宣伝部の多々良が集めてきた情報です。菅野さんが真琴企画にヘッドハンティングされたそうです」
「なんだって?」
「お母様の事務所ですね。多々良によると、菅野さんの方からコンタクトを取り、その時は事務所に移籍する話は流れて、今度は真琴企画さんの方から誘ったそうです」
「母は事情を知りません。それとも、菅野さんの方からもう話してあるのか……」

 事務所の移籍となると事情を話すものだろう。そして、そこから外にもれる話だろう。いや、大木さんが副社長で居る以上、それはないと思った。情報統制がされているからだ。母もむやみに話をしないだろう。しかし、俺は母に連絡を取り、事情を聞くことにした。

「僕の方から母に聞いてみます」
「分かりました。僕の方は夕方まで事務所にいます」
「はい。では、のちほど……」

 飯野さんとの電話を終えた。デスクの時計は12時45分を指している。風林に電話をするまでには時間がある。そこで、母に電話を掛けることにした。もうすでに番号を覚えるぐらいに何度もかけている。俺のスマホの中にある“烏丸真琴”の連絡先をタップした。すると、ワンコールで繋がった。俺から掛かってくると思っていたということか。それとも、誰かからの連絡を待っていたということか。

「もしもし、俺だ。今、忙しいのか?」
「忙しくないわよ。インスタを見ていたの。うちのモデルが出たショーの写真よ。今日はどうしたの?あなた、私に絶縁宣言したでしょう」
「用が出来たからだ。菅野さんのことで聞きたい。事務所に誘ったのか?IKUからの情報だ。もう外に出ている話だ」
「ええ。ヴァイオリニストの菅野さんね。その話は出ているわ。まだ入っていないわよ。彼女の方からコンタクトがあったんだけど、条件が合わなくて、いったんは流れた話なの。でも、日本に戻ってきて音大の先生をするという話で、テレビにも出る話があるということで、うちから誘ったの。だめなの?」
「ここだけの話にしてもらいたい。彼女は久弥さんと聡太郎君の母親だ。彼らは公表されるのを嫌がっている。そこで、黙っているという約束をしてあるが、今になってまた菅野さんが公表しようとしている。IKUが対応中だ。何か聞いていたか?」
「いいえ。息子さんが居ることは聞いていないわ。どうして事務所を移籍したいかというと、テレビに出るからだというのよ。うちは移籍してきた人が活躍する事務所として売り出しているから、多くの人を呼んでいるところなの。そこへ、菅野さんからコンタクトがあったわけよ。私は公表を止めれば良いのかしら?」
「ああ。そうしてくれ」
「そういう約束を破ろうとする人に事務所に来てもらうのはなんだかね……。今、人を集めたいから、大木さんが気に入っているのよ。でも、言っておくわ。その約束が破られようとしているって」
「雇う雇わないはあんたの判断でいい。公表はしない約束になっていることだけ伝えたかった」
「ありがとう。もう私のこと、嫌いなんじゃなかったの?」
「嫌いなままだ。俺の考えを読まなくても一目瞭然だ。じゃあ、また何かあったら電話を掛ける」
「ええ……」

 母との電話を終えた。これで菅野さんの足を止めることが出来た。今の俺に出来ることだ。そして、飯野さんに電話を掛けて、さっきの話をして礼を言われた。そして、電話を切って、デスクの時計が13時を指した。今から夏樹に電話を掛けようと思った。
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