721 / 938
21-10
しおりを挟む
引き続き、飯野さんの話を聞くことにした。すると、菅野さんが日本に戻ってくるのだと言い出した。そして、母校である美野音大で講師を務めることになるのだということだった。それだけ聞くと落ち着いた進路選択だと思う。今更になって公表したいのが分からない。
「どうしてなんでしょうか。本人から聞きましたか?」
「いえ、彼女は公表するとだけ周囲に漏らしているようです。はっきり言って、公表されたところで、バンドの勢いは消えないと思います。それだけ頑張ってきました。しかし、煩わしいことで時間を割かれる可能性があります。引き続き、こちらで対応します。……ん、多々良君。今、なんて言った?」
「ん?」
「すみません。新しい情報が入りました。うちの宣伝部の多々良が集めてきた情報です。菅野さんが真琴企画にヘッドハンティングされたそうです」
「なんだって?」
「お母様の事務所ですね。多々良によると、菅野さんの方からコンタクトを取り、その時は事務所に移籍する話は流れて、今度は真琴企画さんの方から誘ったそうです」
「母は事情を知りません。それとも、菅野さんの方からもう話してあるのか……」
事務所の移籍となると事情を話すものだろう。そして、そこから外にもれる話だろう。いや、大木さんが副社長で居る以上、それはないと思った。情報統制がされているからだ。母もむやみに話をしないだろう。しかし、俺は母に連絡を取り、事情を聞くことにした。
「僕の方から母に聞いてみます」
「分かりました。僕の方は夕方まで事務所にいます」
「はい。では、のちほど……」
飯野さんとの電話を終えた。デスクの時計は12時45分を指している。風林に電話をするまでには時間がある。そこで、母に電話を掛けることにした。もうすでに番号を覚えるぐらいに何度もかけている。俺のスマホの中にある“烏丸真琴”の連絡先をタップした。すると、ワンコールで繋がった。俺から掛かってくると思っていたということか。それとも、誰かからの連絡を待っていたということか。
「もしもし、俺だ。今、忙しいのか?」
「忙しくないわよ。インスタを見ていたの。うちのモデルが出たショーの写真よ。今日はどうしたの?あなた、私に絶縁宣言したでしょう」
「用が出来たからだ。菅野さんのことで聞きたい。事務所に誘ったのか?IKUからの情報だ。もう外に出ている話だ」
「ええ。ヴァイオリニストの菅野さんね。その話は出ているわ。まだ入っていないわよ。彼女の方からコンタクトがあったんだけど、条件が合わなくて、いったんは流れた話なの。でも、日本に戻ってきて音大の先生をするという話で、テレビにも出る話があるということで、うちから誘ったの。だめなの?」
「ここだけの話にしてもらいたい。彼女は久弥さんと聡太郎君の母親だ。彼らは公表されるのを嫌がっている。そこで、黙っているという約束をしてあるが、今になってまた菅野さんが公表しようとしている。IKUが対応中だ。何か聞いていたか?」
「いいえ。息子さんが居ることは聞いていないわ。どうして事務所を移籍したいかというと、テレビに出るからだというのよ。うちは移籍してきた人が活躍する事務所として売り出しているから、多くの人を呼んでいるところなの。そこへ、菅野さんからコンタクトがあったわけよ。私は公表を止めれば良いのかしら?」
「ああ。そうしてくれ」
「そういう約束を破ろうとする人に事務所に来てもらうのはなんだかね……。今、人を集めたいから、大木さんが気に入っているのよ。でも、言っておくわ。その約束が破られようとしているって」
「雇う雇わないはあんたの判断でいい。公表はしない約束になっていることだけ伝えたかった」
「ありがとう。もう私のこと、嫌いなんじゃなかったの?」
「嫌いなままだ。俺の考えを読まなくても一目瞭然だ。じゃあ、また何かあったら電話を掛ける」
「ええ……」
母との電話を終えた。これで菅野さんの足を止めることが出来た。今の俺に出来ることだ。そして、飯野さんに電話を掛けて、さっきの話をして礼を言われた。そして、電話を切って、デスクの時計が13時を指した。今から夏樹に電話を掛けようと思った。
「どうしてなんでしょうか。本人から聞きましたか?」
「いえ、彼女は公表するとだけ周囲に漏らしているようです。はっきり言って、公表されたところで、バンドの勢いは消えないと思います。それだけ頑張ってきました。しかし、煩わしいことで時間を割かれる可能性があります。引き続き、こちらで対応します。……ん、多々良君。今、なんて言った?」
「ん?」
「すみません。新しい情報が入りました。うちの宣伝部の多々良が集めてきた情報です。菅野さんが真琴企画にヘッドハンティングされたそうです」
「なんだって?」
「お母様の事務所ですね。多々良によると、菅野さんの方からコンタクトを取り、その時は事務所に移籍する話は流れて、今度は真琴企画さんの方から誘ったそうです」
「母は事情を知りません。それとも、菅野さんの方からもう話してあるのか……」
事務所の移籍となると事情を話すものだろう。そして、そこから外にもれる話だろう。いや、大木さんが副社長で居る以上、それはないと思った。情報統制がされているからだ。母もむやみに話をしないだろう。しかし、俺は母に連絡を取り、事情を聞くことにした。
「僕の方から母に聞いてみます」
「分かりました。僕の方は夕方まで事務所にいます」
「はい。では、のちほど……」
飯野さんとの電話を終えた。デスクの時計は12時45分を指している。風林に電話をするまでには時間がある。そこで、母に電話を掛けることにした。もうすでに番号を覚えるぐらいに何度もかけている。俺のスマホの中にある“烏丸真琴”の連絡先をタップした。すると、ワンコールで繋がった。俺から掛かってくると思っていたということか。それとも、誰かからの連絡を待っていたということか。
「もしもし、俺だ。今、忙しいのか?」
「忙しくないわよ。インスタを見ていたの。うちのモデルが出たショーの写真よ。今日はどうしたの?あなた、私に絶縁宣言したでしょう」
「用が出来たからだ。菅野さんのことで聞きたい。事務所に誘ったのか?IKUからの情報だ。もう外に出ている話だ」
「ええ。ヴァイオリニストの菅野さんね。その話は出ているわ。まだ入っていないわよ。彼女の方からコンタクトがあったんだけど、条件が合わなくて、いったんは流れた話なの。でも、日本に戻ってきて音大の先生をするという話で、テレビにも出る話があるということで、うちから誘ったの。だめなの?」
「ここだけの話にしてもらいたい。彼女は久弥さんと聡太郎君の母親だ。彼らは公表されるのを嫌がっている。そこで、黙っているという約束をしてあるが、今になってまた菅野さんが公表しようとしている。IKUが対応中だ。何か聞いていたか?」
「いいえ。息子さんが居ることは聞いていないわ。どうして事務所を移籍したいかというと、テレビに出るからだというのよ。うちは移籍してきた人が活躍する事務所として売り出しているから、多くの人を呼んでいるところなの。そこへ、菅野さんからコンタクトがあったわけよ。私は公表を止めれば良いのかしら?」
「ああ。そうしてくれ」
「そういう約束を破ろうとする人に事務所に来てもらうのはなんだかね……。今、人を集めたいから、大木さんが気に入っているのよ。でも、言っておくわ。その約束が破られようとしているって」
「雇う雇わないはあんたの判断でいい。公表はしない約束になっていることだけ伝えたかった」
「ありがとう。もう私のこと、嫌いなんじゃなかったの?」
「嫌いなままだ。俺の考えを読まなくても一目瞭然だ。じゃあ、また何かあったら電話を掛ける」
「ええ……」
母との電話を終えた。これで菅野さんの足を止めることが出来た。今の俺に出来ることだ。そして、飯野さんに電話を掛けて、さっきの話をして礼を言われた。そして、電話を切って、デスクの時計が13時を指した。今から夏樹に電話を掛けようと思った。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~
野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。
残念ながら話もできたし、触ることもできた。
様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。
そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。
厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。
きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。
それから五年。
地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。
真詞の運命が大きく動き出す。
人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半)
別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半)
・前半 巡(人外)×真詞
・後半 岬(人間)×真詞
※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。
※ キスを二回程度しかしないです。
※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。
※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる