青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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21-16(夏樹視点)

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 14時。

 黒崎との電話を終えた後、昼ご飯を食べていた俺だったが、久弥が急にボーカル部分を収録したいと言うから食べるのをやめて、さっきまで歌っていた。そして、該当箇所の撮り直しを終えて、俺はまたお昼ご飯を食べ始めた。

 水仙のお弁当だけでなく、サンドイッチも用意されている。カツサンドやミックスサンドだ。これはコンビニの商品になる。俺が美味しいと言ったから、長谷部さんが買ってきてくれた。しかし、お弁当と両方は食べられない。今日のレコーディングは19時までの予定であり、晩ご飯はお義父さんの家で食べることになっている。

「持って帰ろうかな。二葉が好きだし。今日食べた方が良いよね」

 サンドイッチの賞味期限が気になる。明日の朝4時になっているから、一晩冷蔵庫に入れておけば大丈夫かと思った。しかし、長谷部さんが今日ここで食べて欲しいと言った。もしかしたら、持って帰っている間に傷んではいけないと思ってのことだ。

「こんなに食べられないよ。悠人達を呼んでこようよ」
「まだ作業中なのよ。悠人君は作業している間は食べないから、あなたが食べて」
「え、悠人、大丈夫なの?何時まで掛かるんだよ?」
「分からないわ。それまで何時間も食べないつもりだから、私も困っているのよ。さっきも注意したんだけど……」
「俺からも言うよ……」

 そう言って、俺は立ち上がった。そばには食べかけのお弁当がある。すると、それを見て、長谷部さんが俺のことを止めた。俺の方こそ、今、食べてくれということだった。

「それはそうだね。でもさ~、今言わないと、タイミングを逃しそうだよ。ああやってアレンジをしているじゃん。本格的に弾き始めたら止まらないよ」
「そうなんだけど、あなたまで食べないと困るのよ」
「やっぱり止めてくるよ。大和達はさっき食べたところだけど、悠人はまだなんだ」

 そう言って、もう一度立ち上がった。悠人はここに着いてから一度も食べていない。いつもは大食いで通っているのに、何かがおかしい。何も食べようとしないなんて変だと思った。そして、それは今回のレコーディングにプレッシャーが掛かっているのだと察した。

 俺達のバンドのデビュー曲は早瀬さんが作詞し、久弥が作曲したものだった。昔ライブで何度もやっていた曲だ。久弥のファンだったら知っている人はいるし、アレンジもしてあるし、自信作だと言われていた。そして、人気曲になりそうな勢いがある。

 一方で、これから出すマザーはヘヴィメタルというジャンルにとらわれずに、色んな音楽の要素が詰まっており、今まで悠人が出した曲とは雰囲気が変わっている。しかも、恋愛の相手ではなく、母に向けた曲だから、これでも俺達のイメージと違う面がある。切ないバラードでありながらも力強さを込めたのは共通点がある。

 このレコーディングが上手くいくかどうかがバンドの未来に関わっている。要は経営だ。しかし、久弥の意見としては、そんなことを気にせずに良い音楽を作ることに集中して欲しいということだ。俺も同じ意見だ。しかし、悠人はリーダーとして舵取りする立場であり、とても評判を気にしている。そして、それはレコーディング中にも出ていて、悠人は必死にキーボードを弾きながらマザーのアレンジをしているところだ。そろそろ止めた方が良い。根を詰めると身体に悪い。良いアレンジも浮かばないと思う。

 実際に、肩の力を抜いた方が良い曲になったことがある。それはEDENという楽曲だ。前のバンドのTDDのデビュー曲だった。それこそ根を詰めていた悠人だったが、大学内で方向音痴を起こして迷子になり、みんなの笑いを取ったところで肩の力が抜けて、瞬間、楽曲のアレンジが浮かんだというわけだ。

「長谷部さん。俺、言ってくるからね。ん?」
「圭一さんからラインよ」
「ほんとだ。”何も心配することはない。俺がいる”だって。うっうっ。頼りになるなあ」

 黒崎からのラインが嬉しかった。菅野さんのことを言っているのだろう。そして、俺は今回のレコーディングのことにあててみた。黒崎がそういうのなら心配ないと思った。
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