青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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21-17(黒崎視点)

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 14時15分。

 副社長室で執務中だ。レストラン事業部の資料と、風林に読んで貰いたい就業規則を印刷して机に置いてある。ヘッドハンティングということで、出来れば早くうちに呼びたい。レストラン事業部は今、人手を必要としている。人員増やしたが、足りない状態だ。

「事業拡大につき、さらなる人員増を希望する。それから、18階の女性用トイレの増設、多目的トイレ、休憩室の増設だな……」

 黒崎製菓の労働組合からの要望書を手に取った。どれも気になっていた部分だ。人員を増やしたのはいいのだが、トイレの個数が圧倒的に足らない感じはあった。レストラン事業部のある18階の女性用トイレは常に使われている状態だと聞いてある。近く、個室を増やすことで対応したいと思っている。建設計画としては今月末だ。

 それだけ人員を増やしたことで、レストラン事業部にはバランス感を失っている空気がある。リーダーというべき人員の不足による。チーフはいるが管理職だ。それ以外の社員の中にリーダーが欲しい。そこで、風林だ。彼なら人を惹きつける魅力がある。吸引力というものだ。段取りよく業務を進めていく姿が目に浮かぶ。

「そろそろ着く頃だな……」

 デスクの時計を見てそう思った。この時間に着くだろうと、風林は言っていた。着いたところで汗をひかせる時間が必要だろう。ロビーで休憩しているだろうか。何時にと時間を定めなかったのはそのためだ。しかし、一番早い方法で来るだろうから、かえって悪かったかと思った。そう思っていると、柳本から声を掛けられた。

「副社長。風林様が到着なさいました。今、エレベーターで28階に向かっているそうです」
「そうか。ありがとう。茶の支度を頼んだ」
「かしこまりました」

 柳本に指示を出し、資料を閉じた。俺が読んでいた方だ。もう片方は風林用だ。必要ないかとは思っている。彼に話したいのはうちの会社の経営理念だ。人の幸せを願う会社であることを理解してもらえれば良い。それと、国際ボランティアだ。井戸を掘ったり、トイレを作ったりする寄付をしている。うちへの入社エントリーした過去があることから、その当たりのことは知って覚えているだろう。

 コンコン。

 すると、ノック音がした。そこで、柳本が出て、ドアを開けた。入ってきたのはもちろん、風林だった。スーツでは無いと言っていたとおり、普段着を着ている。いや、“きちんと感”は出ている。ジーンズということでは無く、そんなにだらけた格好はしていない。そこで、俺はここに来たアレクシスのことを思い出した。彼は腰で履くジーンズを履いており、下着が見えていたことを。それに比べると、なんて爽やかな格好だろうか。

「風林君。待っていた。さあ、汗を拭いてくれ」
「はい。ここは涼しいですね。気持ちが良いです。あれ?これ、俺にですか?」
「ああ、冷たいタオルだ。顔を拭いてくれ。首に当てても気持ちが良いぞ」

 柳本が差し出した冷たいタオルに、風林が不思議そうな顔をした。そこで、使い方を教えると、なんだか懐かしいですと言い、彼が微笑んだ。そして、タオルを顔に当てた。

「ああ……。気持ちが良いです」
「君から湯気が出ている。ロビーで休んでこなかったのか」
「はい。急いでこないといけないと思って。それに、俺が待っていたら声を掛けられます。一体何だろうかと……」
「それはそうだな」

 黒崎製菓のロビーには受付がある。来訪者を迎えるために置いてある。見知らぬ者が来たら声を掛けるようにしてある。そのまま休んでいることがないようにだ。それはいいのか、悪いのか、やや評判が悪い。取引先がロビーで涼んでから受付に声を掛けたいからだ。そこで、緩めることにしてある。無関係の者が入ってくるなど思えないからだ。

「ありがとうございました。おかげで涼しくなりました」
「そうか」
「タオルの洗濯って、ここでするんですか?」
「ランドリールームがある。布巾やタオルの洗濯に使っている」
「そうなんですね。秘書さんがやっているんですか?」
「ああ。俺もすることがある」

 意外だと思われるだろうか。俺もこの階にあるランドリールームに出向くことがある。そこは社長室と副社長室から出た洗濯物を洗って乾かす部屋になっている。柳本についていき、一部始終を眺めたことがある。そして、ボタンなら押したことがある。決して自分でやっているとは言えないのが、俺らしい。夏樹からは叱られたことがある。
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