751 / 938
22-18
しおりを挟む
その法事の席にすぐに出たわけではない。黒崎達がタイミングを見計らっていた。俺はこの家に慣れた後でないといけないから、まずはお義父さんの親しい人に会うことから始めた。それは黒崎家と昔から親しい家の人達で、何かあったら助けを呼べる人達だということだった。その反対に、その人達に何かあったらこの家が力になる。そんな協力関係だと説明を受けた。
そして、お義父さんのお客さんに会うようになって家に慣れてきた後、養子になって、しばらくまたお客さんに挨拶する機会が設けられて、それをやってきた。そして、法事に出た。それは緊張の連続だった。俺のことをじろじろ見る人がいる中、その視線に耐えなければいけなくて、つらかった。しかし、この家のメンバーになった以上、逃れられるものでは無くて、黒崎がそばに居るから大丈夫だと思うことにした。
今はどうかというと、晴海さんが当主になった後から急に空気が緩み、リラックスした空気感のある家になっていると思う。やっぱりお義父さんの空気感が良くなかったのかと思った。それは冗談では無く本気の発言としてこの間口にすると、その本人は笑っていた。この家にいるとねじ曲がるそうだ。
「夏樹。悪口を言うようですまなかった。今更だが、あやまる」
「いいよ。ドイツにまで聞こえてくるなんて、どんなに大きな声の人なのだよ?」
「忠明叔父さんだ」
「え?俺の味方だよ」
「あの人は口が悪い。本人も認めている。隆さんにすまないって謝ったそうだ」
「それならいいけどさ~。忠明叔父さんだったの、それ」
以前の自分なら傷ついていたかも知れないが、奇々怪々なところのあるこの家の中にいて、けっこう感覚が麻痺している。悪口を言おうが、それが愛情を持った物であろうが、言いたいことを言うのが黒崎家の人達だから、おかしくないと思った。そんな家を仕切っていたお義父さんがすごいと思う。なにせ、お義父さんが謝ることが無かったという。法事の時も椅子にふんぞり返って座っていた。それが当主だということで、ひとたびお義父さんが口を開くと、みんなが静まりかえっていた。それなのに、悪口が止まらないのがこの家で、本当に変わっていると思う。
「忠明叔父さんは悪い人じゃ無いんだ。母さんが打ち解けた相手だ」
「そうだったんだね。聖河さんの相談役になってくれているんだよ。俺にもいい人だと思うよ」
「もっと早くに会いに来たかったけど、親父がこの家に裏切り行為をしたから来づらくなっていた。ごめんな」
「いいんだよ。今はユーリーがこの家に住んでいるから、来やすいだろ。いつも来てよ」
「ああ。そうする。明日は母さんが早瀬君と話をする。いや、できないか……」
「そうだね。早瀬さんは遠慮しているんだ……」
「でも、バーテルスビスケット会社と黒崎家の合併で顔を合わせないわけがない。早いほうがいい」
「合併?」
「ああ。その案が出ている。ドイツには黒崎製菓の支社が置かれることになる。合併になったらだぞ。夕方、隆さんと圭一が話していたのはそのことだった。それと、早瀨君のことだ。その話の交渉役は彼が担当することになりそうだ」
「そうなんだね……」
なんて数奇なことだろうと思った。現在の社長であるフェリックスさんとの交渉になると思うからだ。そして、合併したときには握手をすることになる。そうなると、フェリックスさんは引退するのだろうか。それをアレクシスさんに聞くと、きっとそうなるということだった。
「バーテルスビスケット会社の名前も無くなるのかな?」
「たぶんそうなる。早瀨君が親父から会社を奪い取るような形にはさせたくないから、バーテルスビスケット会社ではレオン・ミュラーという専務取締役が交渉の窓口になりそうだ」
「そっか……」
人生が動いていく。もしかしたら、早瀬さんはバーテルス家で育っていたかも知れなかった。そして、この家の息子だったかもしれなかった。拓海さんの息子として。もし拓海さんが生きていたら、合併のことをなんて言っただろう。
そして、お義父さんのお客さんに会うようになって家に慣れてきた後、養子になって、しばらくまたお客さんに挨拶する機会が設けられて、それをやってきた。そして、法事に出た。それは緊張の連続だった。俺のことをじろじろ見る人がいる中、その視線に耐えなければいけなくて、つらかった。しかし、この家のメンバーになった以上、逃れられるものでは無くて、黒崎がそばに居るから大丈夫だと思うことにした。
今はどうかというと、晴海さんが当主になった後から急に空気が緩み、リラックスした空気感のある家になっていると思う。やっぱりお義父さんの空気感が良くなかったのかと思った。それは冗談では無く本気の発言としてこの間口にすると、その本人は笑っていた。この家にいるとねじ曲がるそうだ。
「夏樹。悪口を言うようですまなかった。今更だが、あやまる」
「いいよ。ドイツにまで聞こえてくるなんて、どんなに大きな声の人なのだよ?」
「忠明叔父さんだ」
「え?俺の味方だよ」
「あの人は口が悪い。本人も認めている。隆さんにすまないって謝ったそうだ」
「それならいいけどさ~。忠明叔父さんだったの、それ」
以前の自分なら傷ついていたかも知れないが、奇々怪々なところのあるこの家の中にいて、けっこう感覚が麻痺している。悪口を言おうが、それが愛情を持った物であろうが、言いたいことを言うのが黒崎家の人達だから、おかしくないと思った。そんな家を仕切っていたお義父さんがすごいと思う。なにせ、お義父さんが謝ることが無かったという。法事の時も椅子にふんぞり返って座っていた。それが当主だということで、ひとたびお義父さんが口を開くと、みんなが静まりかえっていた。それなのに、悪口が止まらないのがこの家で、本当に変わっていると思う。
「忠明叔父さんは悪い人じゃ無いんだ。母さんが打ち解けた相手だ」
「そうだったんだね。聖河さんの相談役になってくれているんだよ。俺にもいい人だと思うよ」
「もっと早くに会いに来たかったけど、親父がこの家に裏切り行為をしたから来づらくなっていた。ごめんな」
「いいんだよ。今はユーリーがこの家に住んでいるから、来やすいだろ。いつも来てよ」
「ああ。そうする。明日は母さんが早瀬君と話をする。いや、できないか……」
「そうだね。早瀬さんは遠慮しているんだ……」
「でも、バーテルスビスケット会社と黒崎家の合併で顔を合わせないわけがない。早いほうがいい」
「合併?」
「ああ。その案が出ている。ドイツには黒崎製菓の支社が置かれることになる。合併になったらだぞ。夕方、隆さんと圭一が話していたのはそのことだった。それと、早瀨君のことだ。その話の交渉役は彼が担当することになりそうだ」
「そうなんだね……」
なんて数奇なことだろうと思った。現在の社長であるフェリックスさんとの交渉になると思うからだ。そして、合併したときには握手をすることになる。そうなると、フェリックスさんは引退するのだろうか。それをアレクシスさんに聞くと、きっとそうなるということだった。
「バーテルスビスケット会社の名前も無くなるのかな?」
「たぶんそうなる。早瀨君が親父から会社を奪い取るような形にはさせたくないから、バーテルスビスケット会社ではレオン・ミュラーという専務取締役が交渉の窓口になりそうだ」
「そっか……」
人生が動いていく。もしかしたら、早瀬さんはバーテルス家で育っていたかも知れなかった。そして、この家の息子だったかもしれなかった。拓海さんの息子として。もし拓海さんが生きていたら、合併のことをなんて言っただろう。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~
野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。
残念ながら話もできたし、触ることもできた。
様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。
そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。
厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。
きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。
それから五年。
地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。
真詞の運命が大きく動き出す。
人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半)
別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半)
・前半 巡(人外)×真詞
・後半 岬(人間)×真詞
※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。
※ キスを二回程度しかしないです。
※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。
※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる