青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 その法事の席にすぐに出たわけではない。黒崎達がタイミングを見計らっていた。俺はこの家に慣れた後でないといけないから、まずはお義父さんの親しい人に会うことから始めた。それは黒崎家と昔から親しい家の人達で、何かあったら助けを呼べる人達だということだった。その反対に、その人達に何かあったらこの家が力になる。そんな協力関係だと説明を受けた。

 そして、お義父さんのお客さんに会うようになって家に慣れてきた後、養子になって、しばらくまたお客さんに挨拶する機会が設けられて、それをやってきた。そして、法事に出た。それは緊張の連続だった。俺のことをじろじろ見る人がいる中、その視線に耐えなければいけなくて、つらかった。しかし、この家のメンバーになった以上、逃れられるものでは無くて、黒崎がそばに居るから大丈夫だと思うことにした。

 今はどうかというと、晴海さんが当主になった後から急に空気が緩み、リラックスした空気感のある家になっていると思う。やっぱりお義父さんの空気感が良くなかったのかと思った。それは冗談では無く本気の発言としてこの間口にすると、その本人は笑っていた。この家にいるとねじ曲がるそうだ。

「夏樹。悪口を言うようですまなかった。今更だが、あやまる」
「いいよ。ドイツにまで聞こえてくるなんて、どんなに大きな声の人なのだよ?」
「忠明叔父さんだ」
「え?俺の味方だよ」
「あの人は口が悪い。本人も認めている。隆さんにすまないって謝ったそうだ」
「それならいいけどさ~。忠明叔父さんだったの、それ」

 以前の自分なら傷ついていたかも知れないが、奇々怪々なところのあるこの家の中にいて、けっこう感覚が麻痺している。悪口を言おうが、それが愛情を持った物であろうが、言いたいことを言うのが黒崎家の人達だから、おかしくないと思った。そんな家を仕切っていたお義父さんがすごいと思う。なにせ、お義父さんが謝ることが無かったという。法事の時も椅子にふんぞり返って座っていた。それが当主だということで、ひとたびお義父さんが口を開くと、みんなが静まりかえっていた。それなのに、悪口が止まらないのがこの家で、本当に変わっていると思う。
 
「忠明叔父さんは悪い人じゃ無いんだ。母さんが打ち解けた相手だ」
「そうだったんだね。聖河さんの相談役になってくれているんだよ。俺にもいい人だと思うよ」
「もっと早くに会いに来たかったけど、親父がこの家に裏切り行為をしたから来づらくなっていた。ごめんな」
「いいんだよ。今はユーリーがこの家に住んでいるから、来やすいだろ。いつも来てよ」
「ああ。そうする。明日は母さんが早瀬君と話をする。いや、できないか……」
「そうだね。早瀬さんは遠慮しているんだ……」
「でも、バーテルスビスケット会社と黒崎家の合併で顔を合わせないわけがない。早いほうがいい」
「合併?」
「ああ。その案が出ている。ドイツには黒崎製菓の支社が置かれることになる。合併になったらだぞ。夕方、隆さんと圭一が話していたのはそのことだった。それと、早瀨君のことだ。その話の交渉役は彼が担当することになりそうだ」
「そうなんだね……」

 なんて数奇なことだろうと思った。現在の社長であるフェリックスさんとの交渉になると思うからだ。そして、合併したときには握手をすることになる。そうなると、フェリックスさんは引退するのだろうか。それをアレクシスさんに聞くと、きっとそうなるということだった。

「バーテルスビスケット会社の名前も無くなるのかな?」
「たぶんそうなる。早瀨君が親父から会社を奪い取るような形にはさせたくないから、バーテルスビスケット会社ではレオン・ミュラーという専務取締役が交渉の窓口になりそうだ」
「そっか……」

 人生が動いていく。もしかしたら、早瀬さんはバーテルス家で育っていたかも知れなかった。そして、この家の息子だったかもしれなかった。拓海さんの息子として。もし拓海さんが生きていたら、合併のことをなんて言っただろう。
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