青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 泣いているエミリアさんの隣に座っているのはユーリーだ。アレクシスさんは隣のソファーにいる。お義父さんと黒崎は席を外している。とはいっても、廊下にいるからいつでも呼べる。ドアを開けっぱなしにしてあるから、話も聞こえているだろう。

「母さん。泣き止んで。裕理が許してくれるそうだ」
「ごめんなさい。私が離婚すると一言言えば良かったの。そうすることで責任を取らせないといけませんでした」
「そんなことはないですよ」

 早瀬さんが少し笑った。困ったなという表情だ。早瀬さんには持論があるそうだ。菜々子さんとフェリックスさんが結婚したとしても長続きはしていないだろうということだ。ドイツに行っていたとしても、結局は日本に帰ってきて、病に倒れるのは同じで、孝則さん達に育てられただろうということだ。

「エミリアさん。俺は幸せなんですよ。たしかに、自分の緑色の瞳を見て、子供の頃は今の親が本当の両親では無いかも知れないと思っていました。4歳まで俺と一緒に居た母の事も覚えています。母の目の色とも違うなって認識でした。どこにいっても俺はハーフだと言われていて、ああ、自分の父親は海外の人なんだと思って、会いたいなとは思っていました。でも、だんだんと事情が分かってきて、会いたいとは思わなくなりました。だから、すみません。フェリックスさんとは会えません。バーテルスビスケット会社と黒崎製菓の合併の窓口をやらせてもらいますから、顔を合わせないことにはならないでしょう。しかし、それは黒崎製菓の専務取締役として会うのであって、親子の名乗りをするわけではありません。ペンダントを用意して下さってありがとうございました」

 早瀬さんが胸に付けてあるネックレスを取った。これはアレクシスがオーダーして、ユーリーが渡した物だ。バーテルス家の紋章になっている船の絵が刻印されたペンダントだ。どうしても受け取ってもらいたいということで、早瀬さんが受け取った。今日付けてくれているということで、俺達は希望の光を見た。怒っていないということだ。

 俺は孝則さんのことを見つめた。穏やかな顔をしている。そして、玲子さんのことを見つめた。やや険しい顔をしているが、泣きそうになっているのだと感じた。気持ちとしては複雑だろう。憎い人がここにいないからだ。ここにいるのはエミリアさんと息子達であり、何も悪くない人達だからだ。さっきは、妹がすみませんでしたと言っていた。エミリアさんは首を横に振っていた。そして、玲子さんがエミリアさんに話しかけた。

「エミリアさん。今日のことは妹の墓前で伝えます。申し訳ありませんでした」
「そんなことを仰らないで下さい。どうぞ、ドイツに遊びに来て下さい。黒崎製菓と合併になれば、もっと近しい関係になります。もしも合併しなければ、アレクシスが次期社長だという声が上がっています。だから、早瀨君とも繋がりができます」
「そうでしたか。裕理君。そうなんですって。今日のことはよかったんじゃないのかしら。さあ、エミリアさんの隣に行って、お話ししなさい」
「分かったよ。エミリアさん、隣に行ってもいいですか?」
「ええ!」

 早瀬さんが玲子さんから促されて、エミリアさんの隣に移動すると言った。そして、隣に座った。早瀬さんの胸元にあるペンダントが揺れている。早瀬さんの顔立ちは日本人的だ。髪の毛の色が明るめだから、子供の頃はハーフだと言われていたという話はイメージができる。

「裕理。そのペンダントを付けてくれて嬉しい」
「せっかくのプレゼントだからね。今日付けていなかったら、いつ付けるんだ」

 早瀬さんがユーリーの言葉に軽く言い返した。そこで、この場に笑いが起きた。それは小さいな笑いだったが、緊迫していた空気が溶けた合図になり、さっきからずっと黙っていた一貴さんが笑いを提供してくれた。持っていたグラスを傾けて、ズボンに水をこぼしてしまった。

「ああーーー!しまった!」
「カズ兄さん。だから水で良かったんだよ。あんたにはアイスコーヒーは飲ませられないよ~」
「結構濡れた。着替えをしてくる。裕理君、一緒にどうだ?僕のコレクションを見せてあげたい」
「危険だからやめておくよ」

 一貴さんからの誘いにあっさりと早瀬さんが断ると、ユーリーが立ち上がった。早瀬さんの腕を掴んでいる。

「裕理。こういう時は男同士の誘いを断らない物だ。僕が色々と教えてやる」
「何するんだ。今、エミリアさんと話をしているのに」
「母さんはここでみんなと話をする。さあ、一貴さんの部屋に行こうじゃないか。兄さん、後は頼んだ」
「ああ。行ってこい」

 アレクシスさんが快く応じて、二人のことを見送った。そして、彼らが一貴さんに伴われて部屋を出て行った。後に残ったのは俺達だ。すると、廊下にいたお義父さんと黒崎が入ってきた。そして、俺達はまた話を始めた。それは笑顔がある場であり、ホッとした。
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