青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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22-25

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 午前11時。

 リビングのテラス窓から外を見ると、バイトの子達がスプリンクラーの機械を使って水をまいていた。けっこう地面が濡れると思ったのに、この暑さだから、すぐに地面が乾くようだ。そんなに濡れていないと思った。しかし、庭木は水をぐんぐんと飲んだのだろう。

 今、早瀬さんが孝則さん達を連れて庭に出た。これから帰るためだ。お昼ご飯でも一緒にと言おうとしたが、緊張している中でとても食べられないと思い、誘うのをやめた。その代わり、一貴さんが買ってきてあったレーズンサンドをお茶請けに出してあった。けっこうお腹が張るから、お昼ご飯は要らなかったかも知れない。

 俺のそばにはアンとアンドリューがいる。アンは俺の足下に居る。そして、俺はアンドリューのことを抱いた。俺達も早瀬さん達の見送りに出たかったが、アンが庭を見て落ち着かなくて、家にいることにした。しかし、見送りに出たい。

「アン、庭にいるのは大学生達だよ。怪しい人達じゃ無いんだよ」
「ワン」
「本当に分かっているかな~。いつもは番犬じゃないくせに、今日だけはそうならなくて良いんだってば。さあ、見送りに行くよ」
「ワン」

 アンのことを抱っこすれば良いが、アンドリューがいるからそうできない。いざというときには抱けば良いという方法が取れなくなった。そこで、アンには良い子にしてもらうと決めてある。しかし、それがなかなか難しくて、庭に出てしまいそうになる。水で遊びたいのだろうか。

 玄関ホールまでやって来た。ドアを開ければ早瀬さん達がいる。そう思ってドアを開けると、ユーリーとアレクシスさんが立っていた。エミリアさんも居る。黒崎とお義父さんもだ。一貴さんが手土産を渡していた。みんなで早瀬さん達のことを見送っている。そして、早瀬さんが俺達のことを見て微笑んだ。

「ああ、夏樹君。出てきたのか」
「うん。やっぱり見送りたいよ。アン、お座り」
「ワン」
「ははは。座らないそうだよ。悠人が来た」
「ああ、ゆうとーーー」

 悠人がこっちに歩いてくる姿を見つめた。早瀬さん達が話をしている間、遠藤さんの家で待っていたそうだ。そして、佳代子さんが悠人の後ろにいた。リクも歩いてきた。そして、その姿を見て、アンが走って行った。リクは遊び相手だ。リクの方も尻尾を振って歓迎ムードだ。

「なつきーー。来たよ」
「いらっしゃい。でも、もう帰るんだよね」
「うん。エミリアさん。初めまして。早瀨悠人です」
「初めまして。エミリア・バーテルスです」

 悠人とエミリアさんが握手をした。みんなの雰囲気から、話が揉めずに進んだのだと分かったのだろう。悠人はとても穏やかな顔をしている。佳代子さんもだ。遠藤さんは今日は出勤だそうで、家にいないそうだ。海外からアーティストがきて日本公演をするから、その打ち合わせをしているらしい。

 今日のことは本当に良かったと思った。フェリックスさんの病状と、バーテルス家の意志などが聞けた。早瀬さんにはドイツに遊びに来てもらって、親しくしたいということが語られた。ユーリーが言っているとおりのことだ。ただし、フェリックスさんは早瀬さんに会いたがっているというから、いつか顔を合わせる日が来るのだろう。

 それはバーテルスビスケット会社との合併の窓口になっている間のことだろうと、早瀬さんが言っていた。実の父親から会社を奪い取るような気は無くて、交渉の窓口になったのはたまたまだとエミリアさんに強調して説明していた。もちろん、彼女だって分かっている。

「さあ、帰ろうか。エミリアさん。また会いましょう」

 早瀬さんがエミリアさんと再会を約束した。エミリアさんの方もそう約束した。今度会うときは合併の時かも知れないが、その時も親しく話がしたいと言い、早瀬さんが頷いた。そして、4人が車に乗り込んだ。玲子さんが助手席なのは同じだ。悠人と孝則さんが後部座席に乗った。

「悠人。またスタジオでね」
「うん。マザーは良い調子で進んでいるよ」

 悠人が窓を開けて、俺達に手を振った。それに振り返して、走り去って行く車を眺めた。庭には水がたくさんまかれて涼しくなっており、この騒ぎの中で来てもらって本当に良かったと思った。
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