青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 線香の煙が空中に舞っている。少し多く火を付けてしまったようだと、お義父さんが笑った。みんなの分をまとめて多めに10本火を付けたからだ。俺は煙を吸い込んで喉が痛くなってしまった。

「げほげほ!」
「大丈夫か?」
「お義父さん。大丈夫だよ。煙の塊が俺のところに来たんだよ~。ご先祖様が何か言いたいことがあったのかも。喉を大切にしろとか……」
「そうだね。お前は喉を大切にしないといけない。ずっと歌っていくんだから。そうだ。何か歌ってくれないか?拓海の墓の前では賛美歌を歌ってくれているじゃ無いか。ここでも頼みたい」
「ここで賛美歌?似合わないよ~」

 お義父さんの冗談に笑った。しかし、半分は本当に言ってくれているのだと察して、何か良い歌は無いかと考えた。そこで、マザーのアコースティックバージョンを歌うことにした。

「じゃあ、マザーを歌うよ。すーーーーー」

 さっそく深呼吸をした。まだ喉がイガイガするが、このくらいはどうってことはない。そして、いざ歌おうとしたときに、音楽がないと様にならないと思った。何だが恥ずかしい。そこで、童謡を歌おうと思った。日本の懐かしい歌だ。しかし、お義父さんがアルバムに収録予定の楽曲も聴きたいと言った。

「青い月の天使のこと?」
「ああ。バラードだと言っていただろう。聞いてみたい」
「いいよ。それにしようか」

 これで歌う楽曲が決まった。俺はみんなから拍手をもらって、墓の前に立った。そして、お腹に軽く力を入れるようにして歌声を上げた。青い月の天使とは、タイトル通り、月から来た天使が登場する楽曲だ。ここにいる人や仲間の生き死にを見てきた彼らが地上に降り立ち、生きて、ここにいる人と心を通い合わせる。中には恋愛もあり、別れもあり、そんな毎日を送っている。そして、天使の間で会議が開かれて、天使達が月に帰ることになる。その寂しさを描いた楽曲だ。ファンタジックでもある。

「青い月の天使――――、Angel of ――――。ららら、救済の天使―――――。何が正しくて間違っているかは重要ですか……」

 さびの部分に差し掛かり、低音で仕上げるようにして歌い上げた。ここは広い場所だから声がよく広がり、騒音を気にしなくて良いから歌い放題だと思った。とても気持ちが良い。そして、歌が最後に差し掛かったときに、新しい人の気配がした。男性がこちらに向かってきた。花を持っている。そこで、お義父さんがその人に声を掛けた。

和久わくか……」
「お久しぶりです」

 和久と呼ばれた人がお義父さんに声を掛けた。それは、音楽プロデューサーの正木まさきさんだった。俺達は和久さんと呼んでいる人だ。去年のギタリスト祭典やミニライブイベントでもお世話になった人で、久弥とも親しい人だ。ここに来るということは黒崎家の縁者だということだろう。

「和久さん!」
「夏樹君。久しぶりだね。墓参りに来たからバレてしまったね。僕は隆お父さんの5番目の息子の木野和利きのかずとしの弟だ。兄貴が隆さんにお世話になった」
「そうだったの!?」

 お義父さんから養子にと望まれた息子達のうち、全員と法事で会ってある。木野和利さんがお義父さんの5番目の息子だ。お母さんがお義父さんと別れた後、別の男性と結婚して、男の子が生まれたとは聞いていた。しかし、結婚後に夫と別れてお義父さんと復縁した。和利さんはお義父さんから養子にと望まれていたから、付き合いが続いている。弟は元夫の希望で養子候補にならなかった。それが和久さんだと知った。

 まさかこんなに身近にいたなんてと思って、鳥肌が立った。青い月の天使は和久さんも制作チームに入ることになっていて、その楽曲を歌っているときに現われるなんて、なんて偶然だろうと思った。

 そして、和久さんが墓に花をお供えした後、線香に火を付けて手を合わせた。どこから見ても和久プロデューサーだ。お義父さんは何も言っていなかった。そこで、和久さんの方から、俺には何も言わないでもらいたいと言っていたことを知ったのだった。再婚して家庭があるのに、昔の男と繋がっていた母親のことが恥ずかしかったからだと言った。そして、ここに来たのは、そのお母さんからの頼みだったそうだ。自分だって世話になっていないことは無く、手を合わせに来たのだという。

「和久さん。どこかでお茶を飲もうよ」
「いや、恥ずかしいからいい」
「いや、行こう」

 お義父さんが和久さんに声を掛けた。それは命令口調にも感じられるぐらいにはっきりとしたものだった。それに対して和久さんは苦笑いで頷き、俺達は場所を移すことになった。
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