青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 20時。

 夜になった。アレクシスさんを乗せた飛行機はまだ空の上だ。こっちの時間では夜中にドイツに着くだろう。向こうに着くのは夕方だと言っていた。大広間での食事ではアレクシスさんがいないことで寂しくて、時々、しんと静まり帰るときがあった。

 今、エミリアさんが庭に出ている。七夕の笹飾りにハマってしまい、しばらく飾っておくことにした。色々な飾りを付けてあるから、さっきから写真を撮り続けている。もちろん、二葉がお伴している。俺も一緒に出て、大空を見上げた。

「今日も晴れているね。星が見えるよ。あれがアルタイルかな?」

 ひときわ大きく空で輝いている星を見つけた。わし座のアルタイルだ。こと座のベガと向かい合っている。そして、はくちょう座のデネブもある。この三つを結んで出来るのが、夏の大三角だ。俺はアルタイルから来たということだが、全然覚えていない。過去世を思い出せると良いのにと思った。

 俺のそばにはヨークが居る。一貴さんの身体に入っている状態だが、時々身体が重なって見える。以前は全然ヨークの姿を見られなかったが、今では分かるようになった。白っぽい服を着た人だ。髪の毛は長めだ。優しそうな顔立ちをしていて、指が蝋燭のように長い。俺は見ていると、ふっと、一貴さんの身体から出てきた。こういう時、一貴さんも分かるそうだ。ああ、ヨークが出たと。

「ヨーク。俺はアルタイルにいたっていうのは本当なの?」
「本当だよ。僕は嘘は言わない。ルークのようにね」
「そのルークだけど、けっこう酷いよね。紫乙さんが困らされているよ」
「彼は目的があって嘘をついている。僕にだって嘘をつくんだけど、僕達は考えていることが通じ合うから、嘘だと分かる。それでも、嘘をつく」

 紫乙さんのところにいるルークの嘘は多岐にわたる。紫乙さんはその度に翻弄されている。小さな嘘が多い。大きな嘘もあるかも知れないが、それを知るのが恐ろしい気がして、聞けないでいるそうだ。どんな嘘をつかれているかというと、休日の日に寝起きの紫乙に今日は平日だと言って慌てさせたり、スーパーで買い物をしているときに、特売品のめんつゆをみかけたと言い、そこの商品棚に向かわせると、セールじゃ無かったし、在庫が無くなっていたからそもそも買えなかったという話だ。紫乙さんのことをからかっているような気はするが、こまめに嘘をつくから疲れてきたと言っていた。

「ヨーク。何の理由なんだろうね?」
「彼女が生まれてきてから人に気を遣ってついてきた嘘の数だけ、彼は嘘をつくことにしたそうだ。彼女への罰という」
「そういう嘘なら、みんな何かしらついていると思うんだ。責めるのは可哀想だよ」
「責めているわけじゃ無い。自分も経験してみたいと話していた。でも、紫乙さんが面白がってついた嘘でご両親が慌てたことがあるそうだから、罰は受けてもらうそうだ」
「なんだが大変だね。俺も軍隊所属だっていうけど、アンリって呼ばれる以外は何も無いよ」
「私が来ている。君はここで暮らして、生涯を全うする役目がある」
「うん。精一杯生きるよ」

 俺が返事をすると、ヨークが微笑んだ。一貴さんは笹飾りの方を見て、自分がさっき吊り下げた願い事を指で辿り始めた。

「カズ兄さん。願い事は何を書いたの?」
「修輔君が仕事で成功しますようにと書いた。ジュエリーブランドモデルの経験が生かされて、香水のブランドのモデルにも起用されそうなんだ。テレビの仕事も入っていている」
「すっかり有名になったね。でも、あんたはもうモデルはやめさせたいと思っているんだろ?」
「ああ。彼が表に出るのは最低限にした方が良い。色々と誘惑の声が聞こえてきている」
「それか……」

 有名になった分だけ交友関係が広がり、その分だけお酒や麻薬などの誘惑の声が掛かるようになる。実際に見聞きすることもあるし、目の前で犯罪行為がある場合もある。その場合は巻き込まれることもある。俺にもそういう可能性があるから、事務所できっちりとスケジュール管理がされて、遠ざけられている。もちろん、藤沢の事務所でもそうされている。しかし、それでも、なくは無い。
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