青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 聡太郎にはこうやって励まされてきた。目を閉じると、実家の玄関が思い浮かんできた。中学時代の頃のことだ。街で喧嘩をしてきた帰りに聡太郎に迎えられて、こうやって背中を叩かれて、気持を静めていた。そして、一緒に家の中に入ってくれた。

「聡太郎君。ありがとう。懐かしいよ。こんな風にして俺のことを励ましてくれたね」
「そうだったね。あれからもう10年経つ。君が中学1年生の時だったから……。あの頃はこうやって一緒に仕事をしているなんて思わなかっただろう?」
「うん。全然思わなかったよ。聡太郎君は学校の先生になるんだって思っていたんだ」
「俺もそう思っていたよ。それが全然違うコースだ。人生は分からない物だね。俺は君が歌手になる気はしていたんだよ。伊吹もそう言っていたんだ」
「お兄ちゃんが?」
「うん。君は歌が上手いし、喧嘩を吹っかけられるぐらいに目立つから、歌手になるのもいい気がするってね。この間、心霊番組の放送を観ていたときに思い出話をしたよ」
「俺のこと、悪く言っていただろ~」
「そんなことはないよ。可愛い弟だって言いたそうだったよ。最近、お父さん達に電話してる?していないだろ。明日、してあげたら?」
「そうだね。でも、電話しているよ。最後は心霊番組の放送の感想をもらった時だったよ」
「俺のところに電話が掛かっていたんだ。お母さんからだよ。何かあったかもしれないって心配していたよ。俺は特に何も聞いていなかったし、伊吹だって何も言っていなかったから、大丈夫だって答えておいたんだ」
「そうだったんだね。過保護だなあ」

 そんなことを言いつつも、両親達の気持が嬉しかった。新居にも行けていない。早く様子を見に行きたいが、仕事の都合もあり、なかなか腰が上がらない。どうせ行くなら一泊はしたい。黒崎も連れて行きたい。そうなると、両親達の都合も合わせて土日が良いと思う。しかし、レコーディングは土日もあるから、休みが合わない。だから、行くのは11月頃になりそうだ。

「新居に行けていないんだ~。レモンにも会いたいのになあ」
「ツアーが始まる前までに時間が取れるはずだよ。レコーディングが終わったら時間が空くって、久弥さんが言っていたし。そうですよね、長谷部さん?」
「ええ。その頃には時間があるわよ。でも、テレビの仕事も入るから、バタバタするのは同じかも知れないわね。インタビュー記事にも答えてもらいます。あ、着いたわよ」

 車が住宅街の中を走り、ある大きな門の前に停車した。早瀨家だ。すでに悠人が門の前に早瀬さんと一緒に立って、俺達のことを待っていてくれた。この家は要塞のようになっているから、セキュリティーシステムが作動している。俺達の家よりもずっとカメラの台数が多いし、久弥からの噂を聞くと、住人以外が中に入ると銃弾が飛んでくるそうだ。しかし、住んでいる2人はのんびりしている。

 ガラ。車のドアが空いた。すると、悠人が入ってきた。そして、早瀬さんから長谷部さんに声が掛けられて、紙袋が渡された。

「早瀬さん。いつもすみません。事務所で評判が良かったって言ったから、また買ってきて下さったのね」
「はい。選んだ俺も嬉しかったです。味の種類は9種類あります。この間は4種類でしたから、増やしてみました」
「あらーーー。ありがとうございます。この間よりも大きな箱だと思いました」
「ふむふむ。ゼリーだよ」

 俺が何のお菓子だろうかと見ていると、悠人がそう教えてくれた。青柳という店の商品だそうだ。この間、悠人がキシヤマ味噌のコマーシャルの打ち合わせで会食があったときに、早瀬さんから事務所への差し入れをしたそうだ。黒崎製菓の近くに最近出来たお店であり、本店は県外にあるという。どうりで知らないと思った。
 
「じゃあ、よろしくお願いします」
「帰りは遅くなるかも知れませんが、きちんと送っていきますので」
「はい。じゃあね。みんな」
「うん!またね!」

 早瀬さんから手を振られて振り返した。そして、車のドアが閉まり、ゆっくりと発進した。窓から顔を出すと、いつまでも早瀬さんが見送ってくれていた。そして、車が角に来た時に門の中へ入っていった。そこで、黒崎のことを思い出して胸が痛くなり、帰ったらまた謝ろうと決めた。
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