青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 14時。

 大広間でみんなでお昼ご飯を食べた後、ユーリーの部屋に来ている。南波さんも一緒だ。午前中は警察が来ていて落ち着かなかった家の中だが、だんだんと静けさを取り戻していった。アンもアンドリューもそわそわしていて、お義父さんが何度か外に連れ出して外の空気を吸わせて、やっと昼寝を始めた。今、お義父さんの書斎で2匹が寝ている。

 俺たちはどうしてユーリーの部屋に来たかというと、アルバムを見せてもらうためだ。子供時代にこの家で撮ったものや、ドイツに帰ってからのユーリーがいる。もちろん、アレクシスさんも写っているとのことだ。

「見せて見せて」
「今、出す。これだ」
「わあーー、綺麗な装丁だなーーー」

 南波さんが歓声を上げた。ユーリーが出してきたアルバムは白い表紙であり、レースが貼り付けられており、その上からビニールカバーが掛けられている。何度も見たのか、ところどころに黒ずみがあった。しかし、台紙はヨレが無くて、まだ新しい感じもある。それを言うと、表紙だけそのままで、台紙を取り替えたのだという話だった。

「ユーリー。だったらこの黒ずみは?」
「墨汁の跡だ。習字をした後でアルバムを触ってしまったんだ。この家に来てからの話だ」
「え?習字なんてしたっけ?」
「手紙を書いていた。向こうの大学の先生にだ。喜ぶと思って」
「そっか。日本のことが好きな先生だったらそうだねえ」

 その話に納得した。ユーリーのように子供の頃に住んでいたなら見慣れている物でも、海外の人なら珍しいものがあるだろう。そこで、ユーリーが習字セットを出してきてくれた。そして、手紙を書いたという筆ペンも見せてくれた。見た目はドイツ人だが、やっていることが本当に日本人のようだ。きっと、手紙の字も達筆だったのだろう。

「ユーリーの習字の作品は無いの?」
「あるよ。これだ」
「おおーーー、すごい。“道”って書いてあるね。デザインしてあるね」
「ああ。普通に書いた字はこれだ」
「わあーー、上手な字だなーー」

 俺と南波さんがユーリーの作品に歓声を上げた。とても上手だからだ。俺ならこうはいかないと思った。普通にペンで書いても読めないのに、筆になったらもっと読めなかった経験がある。そう思って、じっとユーリーの作品を見て、生まれつき字の上手な人はどこが違うのだろうかと思い巡らせた。神仙教授が何か言っていたような気がするが、忘れてしまった。

「さあ、僕のアルバムも見てくれ。ここで初めて迎えた朝の写真だ。僕はまだ9ヶ月だった。健診を受けに病院に行くと聞いて、朝から泣いていたそうだ」
「あはは。ユリウスさんなら、その頃から言葉を理解していた気がするなあ。面影があるね。あ、アレクシスさんだ。もう今の顔になっているね」
「兄さんは子供の頃から顔が変わっていない。どちらかというと大人びた顔をしていた」
「ふうん。お義父さんが若いよ。この頃って、お義父さんは子供達にとっては怖い人だったらしいのに、そんな風に見えないよ。優しそうなおじさんだよ」

 リビングに敷いてあるマットの上に座っているユーリーのそばに、お義父さんがいる写真があった。どう見ても厳しそうに見えなかった。眉間の皺は今よりも薄くて、皺も無い。今の方が怖いぐらいに見える。しかし、晴海さんが厳しい人だったというから、そうなのだろう。その晴海さんは朝来てくれた後、家に帰っていった。神仙教授と約束があるそうで、そっちを優先してもらった。

 何枚もアルバムをめくっても、お義父さんが優しそうだ。ユーリーが笑っている。南波さんも同じ意見だそうだ。

「この頃の隆さんも今と同じように優しかったと思う。兄さんがそう言っていた。母さんから、ソフィア叔母さんと僕とで日本に行くんだって聞いた後、飛行機に乗ってきて、この家に着いたら隆さんが待っていたそうだ。これからよろしくって言われて、母さんから習ってあった日本語で挨拶して、すごく褒められたんだって言っていた」
「褒め上手ってやつだね。晴海お兄ちゃん、大袈裟なんじゃ無いのかな。そんなに怖かったら女の人にモテないよ」
「それは言えている」

 ユーリーがまた笑った。この頃のお義父さんは同時進行の恋人が何人も居て、家を訪ねていくのに忙しくて、あまり家に居なかったという。しかし、ユーリー達が一緒に暮らすようになり、在宅時間が増えたそうだ。
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