青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 お義父さんが微笑んでいる写真があった。一枚だけ見つけた。他の写真は真顔ばかりで、笑っていない。たしかに怖い感じもあるが、優しい人じゃなかったら、一緒に写真に写らないだろう。リビング、庭、大広間、書斎。色んなところにアレクシスさんとユーリーがいて、お義父さんが一緒に写っている。

 晴海さんが言うには、自分の子供達とは記念館でしか写真を撮っていないはずだという話だった。親戚の子供と自分の子供との扱いの差だと思うとも言っていた。自分の子供達には厳しくて、親戚の子供には優しいという物だ。実際にユーリーは叱られた記憶が無く、何でも許されていたと言っていた。

「ユーリー。お義父さんは笑っていないね。カメラの前で緊張するタイプだったのかな?」
「隆さんは笑わなかった。今はよく笑っているけどね。圭一とよく似ている。圭一も笑わないけど、怖くないだろう」
「そうだね。黒崎さんもそんなタイプだよ。もう小学校に入る写真になったね。あんまり撮っていなかったの?」
「いや、写真はたくさんある。僕が取り出して、総集編にまとめたんだ。ほとんどドイツにあるよ」
「そっか。全部持って来れないもんね。南波さん、どう?ユーリー、子供の頃からかっこいいね」
「うん。今のユリウスさんとはまた違った感じだなあ。あ、すごい。木にぶら下がってる。庭の木と同じじゃない?」
「そうだね。同じ木だよ。高さがあるのに怖くなかったのかな」

 南波さんが見つけた写真には、庭の木にぶら下がっている6歳頃のユーリーがいる。今もよくぶら下がっている木だと思う。子供にしては高さがあり、きっと、お義父さんが手伝ってぶら下がったのだろうが、怖く無かったようで、笑っている。腕や手の力もそこそこないと、ぶら下がれないだろう。

「ユーリー。この時からぶら下がっていたんだねえ。お義父さんが手伝ってくれたのかな?」
「これは覚えているよ。拓海君が手伝ってくれた。晴海君とも写っている写真があるといいんだけど、ほとんどない。遊んだ記憶も数回しかない。彼らは忙しかったからね。勉強とマナーと空手の稽古だ。兄さんも勉強ばかりだったけど、僕とは遊んでいた。写真は残しておくべきだな。その時はもう二度と帰ってこない。拓海君のアルバムも大切にしないといけないな」
「そうだね。しっかり保管していると思うよ」

 ユーリーが悲しそうにするから、俺も悲しくなった。南波さんには事情を話してある。この家のお兄さんの1人が亡くなったことを。そして、アルバムはお義父さんが保管していて、数える回数しか見せてもらえなかったことも。拓海さんの死を受け入れてまだ日が浅くて、それでも少しずつ前を向いている。

 なんだかしんみりした空気になり、ユーリーが机のところに行った。そして、パソコンを開いて何かをし始めた。そっちにも写真があるのだろう。すると、南波さんがほんの少しだけ顔を赤くした。その気持ちは俺も分かる。きっと、かっこいいと思っているのだろう。机に向かっているユーリーはインテリジェンスといった感じだ。南波さんのために庭で走り込みをするタイプに見えず、落ち着いていて、紳士だ。

「南波さん。ユーリーのこと、かっこいいって思った?」
「え?なんのこと!?」
「かっこいいって思ったんだろ。あの人、そうなんだよ。仕事中はかっこいいんだ。他の時間は面白いお兄さんって感じだけどさ。見た目はインテリジェンス、中身はおっちょこちょいとか、そんな感じだもんね。ドン引く時もあると思うけど、優しいし、頼りになるし、良いと思うんだ」
「あはは。僕、副社長が好きなんだ」
「マジで?」
「うん。かっこいいって思っているよ」
「あの人は夜な夜な何かやっている人だからさ。怪しいんだよ。ああいう怖さが好きなんだねえ」
「あはは。あ、ユリウスさん。拗ねないで」

 南波さんが笑った。ユーリーが机に突っ伏したからだ。やっぱりそうだったのかと言いながら。ずっとそう思ってきたそうだ。俺はそんな彼の背中をぽんぽんと叩いてやった。
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