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今から家に行くところだ。お義父さんの家から出て、庭を歩いている。8月下旬とはいってもまだ夏であり、日差しがきついと思った。スーツを着ている黒崎は暑いだろう。しかし、着慣れているから平気だと言いそうだ。俺もユーリーも南波さんもTシャツ姿だ。みんな、昨日外に出ていたことで少し焼けている。日焼け止めを塗っても長時間外に居ればこうなる。
「黒崎さん。俺、日焼けしたよ。まあ、すぐに戻ると思うけど……」
「パーカーを羽織っていなかったからだな。暑いから着たくないだろうと思って、言わなかった」
「うん。そうだと思ったよ。庭に屋根がほしいね。開閉式でさ。冬は屋根を開けておくんだ。うひゃひゃひゃ。あ……」
マズいことを言ってしまったと思って、慌てて口を閉じた。黒崎のことだから、本当にやりかねないと思ってのことだ。俺達の家の周囲の庭だって、俺が何となく口にしたことで工事の人がやって来て、改装してしまった。それは花壇の設置と洗濯物干し場の床のタイルの貼り替えだ。こんなのがあると可愛くなりそうだと言ったら、黒崎が俺には何も言わずにスケッチを取り始めて、デザインを考えて、業者に頼んでしまった。そして、翌週の朝から始まった工事は夕方頃に完成し、翌日からは新しい環境で過ごせたわけだ。
「あの……。黒崎さん。庭に屋根を付けなくて良いからね」
「分かっている。屋内庭園はお前の希望じゃ無いことぐらいは聞いてある。……苔が生えている。滑らないようにしろ」
「うん。庭の水まきのおかげだね。苔も生えていないぐらい雨が降らなくてさ~」
庭の木の根元辺りに苔が生えている一帯があった。そこは通らないようにしている。そこで、そこを避けて通っていると、前を歩いている南波さんが声を上げた。足下には別の苔の一帯があった。
まるでスローモーションのように南波さんが滑ってしまった。そして、その彼の身体を支えるようにしてユーリーが動いた。そして、南波さんが尻もちをつかないように、下敷きになってしまった。
「ユリウスさん!大丈夫!?」
「ああ。僕は平気だ。君はどうだ?足をくじいていないか?」
「僕は大丈夫だよ!」
「2人とも、大丈夫?」
目の前ではユーリーが地面に座っている。南波さんが慌てて立ち上がり、ユーリーに手を貸した。そして、立ち上がったユーリーのズボンは苔で汚れてしまっていた。しかし、そんなに大きく汚れていなくて、洗濯すれば落ちるぐらいだと思った。
ところで、2人に怪我は無いだろうか。俺と黒崎が彼らの元に行くと、大丈夫だということだった。とっさに手をついたから、腰や足は打っていないのだという。南波さんが顔を真っ赤にしている。恥ずかしいし、申し訳ない気持ちなのだという。
「南波さん。ユーリーは大丈夫だよ。好きな人を守れて良かったってさ」
「そのとおりだ。君が無事なら良い」
「ユリウスさん……」
ユーリーの短い言葉に南波さんが両目を潤ませた。そして、こんなに守られて、お付き合いを断るだなんて、バチが当たると言った。そこで、ひょんなことで良い返事がもらえてしまったから驚いた。しかし、ユーリが喜ぶかと思えば冷静であり、無理をするなと返事を返した。
「ユリウスさん。僕は……」
「付き合ってくれなくていい。僕の言葉は気にしないでくれ」
「でも、僕は……、断るのはいけないって思っていて……」
「いい」
「あらら……」
思わず声を漏らした。せっかく南波さんが付き合っても良いという感じのことを言ってくれているのに、ユーリーが反対のことを言い出したからだ。天邪鬼で言っているのだろうか。
俺達が見守っている中、ユーリーが歩き出した。そして、南波さんのことを振り返って、おいでよと言った。ごく普通の感じだ。今までなら南波さんに引っ付いていて、離れようとしないのに。それには、南波さんが立ちすくんだ。
「僕、どうしたら良いんだよ……」
その言葉は俺には聞こえたが、ユーリーには聞こえなかったかも知れない。わりと早足で先を歩いていっているからだ。そして、俺がそばに行こうとすると、ユーリーが戻ってきた。
「南波君。来いよ」
「ユリウスさん。あ……」
「あ……」
ユーリーが南波さんの手を取った。そして、握って歩き出した。これは交際開始なのだろうか。そう思って、俺は戸惑った。南波さんも同じなようだ。俺達の方を振り返っている。手を握られることはいつものことなのに、ユーリーがナンパしないから戸惑うだろう。
「黒崎さん。どう思う?」
「無理にとは言わないと言っていただろう。そういうことだ」
黒崎が冷静な目で返事を返してきた。いつものユーリーなら飛んで喜びそうなのに。俺は急に大人しくなったユーリーのことを見つめながら、家に向かった。
「黒崎さん。俺、日焼けしたよ。まあ、すぐに戻ると思うけど……」
「パーカーを羽織っていなかったからだな。暑いから着たくないだろうと思って、言わなかった」
「うん。そうだと思ったよ。庭に屋根がほしいね。開閉式でさ。冬は屋根を開けておくんだ。うひゃひゃひゃ。あ……」
マズいことを言ってしまったと思って、慌てて口を閉じた。黒崎のことだから、本当にやりかねないと思ってのことだ。俺達の家の周囲の庭だって、俺が何となく口にしたことで工事の人がやって来て、改装してしまった。それは花壇の設置と洗濯物干し場の床のタイルの貼り替えだ。こんなのがあると可愛くなりそうだと言ったら、黒崎が俺には何も言わずにスケッチを取り始めて、デザインを考えて、業者に頼んでしまった。そして、翌週の朝から始まった工事は夕方頃に完成し、翌日からは新しい環境で過ごせたわけだ。
「あの……。黒崎さん。庭に屋根を付けなくて良いからね」
「分かっている。屋内庭園はお前の希望じゃ無いことぐらいは聞いてある。……苔が生えている。滑らないようにしろ」
「うん。庭の水まきのおかげだね。苔も生えていないぐらい雨が降らなくてさ~」
庭の木の根元辺りに苔が生えている一帯があった。そこは通らないようにしている。そこで、そこを避けて通っていると、前を歩いている南波さんが声を上げた。足下には別の苔の一帯があった。
まるでスローモーションのように南波さんが滑ってしまった。そして、その彼の身体を支えるようにしてユーリーが動いた。そして、南波さんが尻もちをつかないように、下敷きになってしまった。
「ユリウスさん!大丈夫!?」
「ああ。僕は平気だ。君はどうだ?足をくじいていないか?」
「僕は大丈夫だよ!」
「2人とも、大丈夫?」
目の前ではユーリーが地面に座っている。南波さんが慌てて立ち上がり、ユーリーに手を貸した。そして、立ち上がったユーリーのズボンは苔で汚れてしまっていた。しかし、そんなに大きく汚れていなくて、洗濯すれば落ちるぐらいだと思った。
ところで、2人に怪我は無いだろうか。俺と黒崎が彼らの元に行くと、大丈夫だということだった。とっさに手をついたから、腰や足は打っていないのだという。南波さんが顔を真っ赤にしている。恥ずかしいし、申し訳ない気持ちなのだという。
「南波さん。ユーリーは大丈夫だよ。好きな人を守れて良かったってさ」
「そのとおりだ。君が無事なら良い」
「ユリウスさん……」
ユーリーの短い言葉に南波さんが両目を潤ませた。そして、こんなに守られて、お付き合いを断るだなんて、バチが当たると言った。そこで、ひょんなことで良い返事がもらえてしまったから驚いた。しかし、ユーリが喜ぶかと思えば冷静であり、無理をするなと返事を返した。
「ユリウスさん。僕は……」
「付き合ってくれなくていい。僕の言葉は気にしないでくれ」
「でも、僕は……、断るのはいけないって思っていて……」
「いい」
「あらら……」
思わず声を漏らした。せっかく南波さんが付き合っても良いという感じのことを言ってくれているのに、ユーリーが反対のことを言い出したからだ。天邪鬼で言っているのだろうか。
俺達が見守っている中、ユーリーが歩き出した。そして、南波さんのことを振り返って、おいでよと言った。ごく普通の感じだ。今までなら南波さんに引っ付いていて、離れようとしないのに。それには、南波さんが立ちすくんだ。
「僕、どうしたら良いんだよ……」
その言葉は俺には聞こえたが、ユーリーには聞こえなかったかも知れない。わりと早足で先を歩いていっているからだ。そして、俺がそばに行こうとすると、ユーリーが戻ってきた。
「南波君。来いよ」
「ユリウスさん。あ……」
「あ……」
ユーリーが南波さんの手を取った。そして、握って歩き出した。これは交際開始なのだろうか。そう思って、俺は戸惑った。南波さんも同じなようだ。俺達の方を振り返っている。手を握られることはいつものことなのに、ユーリーがナンパしないから戸惑うだろう。
「黒崎さん。どう思う?」
「無理にとは言わないと言っていただろう。そういうことだ」
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