青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 カタン。俺達の家に戻ってきた。玄関ドアを開けるのは、もう何度目だろうか。蒸し暑い外と同じく、家の中も暑かった。しかし、壁に日差しから守られて、少しだけ涼しい。

「黒崎さん。中を見ても驚かないでね。それと、怒っても仕方ないんだ。泥棒は逃げた後だもん」
「分かっている。入る」

 まずは黒崎が家の中に入った。玄関は何も起きていない。問題はリビングだ。2階も入った形跡があるが、大して散らかされていない。時間が掛かりすぎると思って逃げたのだろうと、お義父さんが言っていた。そして、黒崎がリビングに入り、一瞬間を置いて、俺の顔を見た。

「なんだ、この状態は……」
「そうだろ~。すごいよねえ」
「ああ、すごいな。南波君。こっちだ」
「うん。ああーーー、すごいなあ」

 俺に続いて、ユーリーが南波さんを伴って入ってきた。彼らが家の中を見たときはまだ夜中だったから、あの時とは雰囲気が違う。昼間の光の中で見ると、細かいところまで見える。かなり荒らされていると。

 酷いのは棚の引き出しだ。中の物を出されている。全部では無くて、認め印と領収書が入っていた引き出しは無事だった。見るからに、紙とハンコしかないと分かったのだろう。実印や通帳類など、書類は黒崎の書斎にある。認め印のスペアはお義父さんの家に置いてあった。貴重品といえばタブレットだろう。高い物と言えばそれしかない。しかし、古い物だ。最近の物では無い。たまに黒崎が見ていて、記念に置いてあるといった感じだった。

「黒崎さん。盗られたのはタブレットだけだと思うんだ。あんたの目から見てどう?何か盗られているものはあるかな?」
「ない。全部見てくる」
「うん」

 そう言って、黒崎がリビングを出て行った。そして、1階を歩き回り、洗面所やトイレ、バスルームを見ていった。黒崎は記憶力が抜群に良いから、写真を撮ったかのように家の中を記憶している事がある。その彼が見ても盗られた物がないというなら、そうなのだろう。

「2階を見てくる」
「俺も行くよ。ユーリー、南波さん。ゆっくりしていてよ」

 これが気を利かせるということになるのか、2人のことを置いて、黒崎を追いかけるようにして2階に上がった。彼がまず最初に見たのは寝室だ。棚の引き出しが開けられている。それと、枕も動いている。貴重品を置いていないか確認したのだろう。

「夏樹。ここはマシだな」
「うん。お義父さんの家で泊まっていて良かったよ。ここにいたら俺、泥棒に縛り上げられていたよ」
「そうだな。怪我をしていたかも知れない。誘拐もあり得る。親父の家で暮らそうか」
「え?やめたって言っていなかったっけ?」
「今回のことで考え直した。どうだ?」
「適度な距離があった方がいいと思うよ。向こうの家で暮らすのは嫌じゃ無いんだ。俺もあんたも、お義父さんと喧嘩するかも知れないだろ」

 俺としてはお義父さんの家で暮らすのは構わない。エミリアさんとユーリー達が暮らしていた東側の部屋をもらえば、二世帯住宅のようにして暮らせる。それを言うと、黒崎が、考えておいてくれと言った。問題なのは泥棒だけではなく、危害を加える目的で入ってきて、襲われるかも知れないと思ってのことだ。

「昼間にお前が1人の時に入ってくるかも知れない。いつも親父の家に居るなら、もう向こうで暮らした方が良い。移動の度にパソコンを運ぶのも面倒だろう」
「そうなんだけどね……」

 俺達の家は道路に面している。その道路に一番近い出窓を割って入られている。反対に、お義父さんの家は奥になっているから、侵入者が家に来るまでに時間がかかる。それまでの間にセキュリティーシステムが作動し、やってくる侵入者達に対抗することが出来る。

「お前が同居は嫌だというなら、この家を窓の無い家に建て直す」
「だめだよ。健康に悪いよ。それに、ここは純白叔母さんが建てた家なんだ。壊すなんて、絶対にダメだよ」
「それなら、親父の家に住もう。エミリアが居た部屋なら、自分で家事ができる。もちろん、お手伝いさんに任せることも出来る」
「あんた、お義父さんと喧嘩しそうだってば」
「喧嘩をした日はまたここに戻ってくればいい」
「俺のためを思って言ってくれているだねえ」

 絶対に黒崎達は喧嘩をすると思う。それに、今は上手くいっているのに、同居が原因でそうならなくなったら悲しい。そういう例をテレビで見たことがある。そこで、俺はまた話そうよと言い、書斎に足を向けた。
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