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午前9時半。
羽田空港第二ターミナルビルに到着した。これから飛行機に乗るためだ。10時50分の便に乗る。少し早めに着いたのは、空港でお土産を買っていくためだ。向こうには無い和菓子の店で、実家の両親達のために羊羹を買っていきたかった。
空港の中はわりと空いていた。夏休みシーズンが終わり、まだ暑さが残る中、外を出歩く観光にはまだちょうど良くないということなのか、人が少ない。スーツケースを持ったサラリーマン風の人を何人が見かけた。それから、女性同士の旅行客といった感じのグループも少数見かけた。今月下旬になれば、旅行客が増えるのだろう。
「夏樹。お前はここで待っていろ。俺が買ってきてやる」
「俺も行くよ。俺を1人にしないでよ」
「すぐ目の前の店だ」
「そうだけど……」
黒崎にしては珍しい事が起きた。俺のことを片時も離さないと言っているくせに、俺のことを待たせて、和菓子の店へ行こうとした。俺が荷物をたくさん持っているからだ。実家へのお土産と、高校時代の担任の田中先生へのお土産などだ。向こうにはないカンテールの焼き菓子や、佐山茶房の珈琲に月島さんからもらったキシヤマ味噌の出汁パックなどがある。たしかに黒崎が1人で買ってきた方が早いだろう。見える場所に俺がいることも理由だ。
分かったよ。待っているよと返事をすると、黒崎が買い物を始めた。俺が立っている場所から2メートルしか離れていない。カーテンの長さより少し長いぐらいだ。それでも、寂しい感じがした。それだけ俺は黒崎に引っ付かれているのだろう。そして、引っ付いているのは黒崎の方では無くて、俺の方からも知れないと思った。
(げげげ。俺が引っ付いているの?そんなばかな……)
その事実に気がついて、恥ずかしくなった。視線の先には手早く会計を済ませた黒崎がいる。買う物は決まっていたからだ。そして、店員さんから紙袋に入った商品を受け取った後、なんと、隣の店に行った。真っ直ぐに俺のところに戻ってくるのでは無かったのか。
「黒崎さん。帰ってこいよ~。俺も行くよ~」
「おはよう」
「あ……」
すぐ近くから声がした。その声は俺に向けての物だと思う。そこで、すぐに返事が出来なかった。俺はこれでも音楽業をしており、テレビにも出ている。この空港の中、俺を知っている人から声を掛けられないとは限らない。事務所の方からは、声を掛けられても会話はせずに、会釈だけにしておけと言われている。前にマリーズカフェやシャルロットキッチンで声を掛けてくれた人と交流したのだが、後々に写真がネットにアップされており、後で事務所から叱られてしまった。安全を考えてのことだ。俺以外のバンドメンバーは大丈夫だと言われているが、なにせ俺は誤解を招く。
そう思って、聞こえていないふりをしていると、声の主が俺の前に立った。そこで、顔を上げると、それは朝陽だった。声で分からなかった自分に驚いた。オンライズの服を着た朝陽が困った顔をしていた。
「あさひーーー、ごめん!分からなかったんだ」
「いいんだよ。俺も名前を呼ばなかったから。名前を呼んだから、誰かが気がつくかも知れないと思って。もう呼んでも良いか?」
「いいよ。声の感じが違うね。どうしてかな?」
「昨日、友達のボート部の子の練習に付き合って、大声を出したんだ。ちょっと声がかれているんだよ」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。今日はありがとう。俺とお兄ちゃんだけで行くとなったら、怖かったからさ。夏樹が来てくれて嬉しいよ」
「そう?俺も嬉しいよ。そんなに言ってくれて。黒崎さんの弟なのに、良い子だねえ」
そう言って、朝陽のことを抱きしめた。すると、首筋に大きめの絆創膏が貼ってあるのに気づいた。そこで、どこで怪我をしたのかと聞くと、ボート部の子がふざけてキスマークを付けたのだという。その時は三橋君も一緒に居て、本当にふざけていたという感じで、決して危ない雰囲気では無かったそうだ。
羽田空港第二ターミナルビルに到着した。これから飛行機に乗るためだ。10時50分の便に乗る。少し早めに着いたのは、空港でお土産を買っていくためだ。向こうには無い和菓子の店で、実家の両親達のために羊羹を買っていきたかった。
空港の中はわりと空いていた。夏休みシーズンが終わり、まだ暑さが残る中、外を出歩く観光にはまだちょうど良くないということなのか、人が少ない。スーツケースを持ったサラリーマン風の人を何人が見かけた。それから、女性同士の旅行客といった感じのグループも少数見かけた。今月下旬になれば、旅行客が増えるのだろう。
「夏樹。お前はここで待っていろ。俺が買ってきてやる」
「俺も行くよ。俺を1人にしないでよ」
「すぐ目の前の店だ」
「そうだけど……」
黒崎にしては珍しい事が起きた。俺のことを片時も離さないと言っているくせに、俺のことを待たせて、和菓子の店へ行こうとした。俺が荷物をたくさん持っているからだ。実家へのお土産と、高校時代の担任の田中先生へのお土産などだ。向こうにはないカンテールの焼き菓子や、佐山茶房の珈琲に月島さんからもらったキシヤマ味噌の出汁パックなどがある。たしかに黒崎が1人で買ってきた方が早いだろう。見える場所に俺がいることも理由だ。
分かったよ。待っているよと返事をすると、黒崎が買い物を始めた。俺が立っている場所から2メートルしか離れていない。カーテンの長さより少し長いぐらいだ。それでも、寂しい感じがした。それだけ俺は黒崎に引っ付かれているのだろう。そして、引っ付いているのは黒崎の方では無くて、俺の方からも知れないと思った。
(げげげ。俺が引っ付いているの?そんなばかな……)
その事実に気がついて、恥ずかしくなった。視線の先には手早く会計を済ませた黒崎がいる。買う物は決まっていたからだ。そして、店員さんから紙袋に入った商品を受け取った後、なんと、隣の店に行った。真っ直ぐに俺のところに戻ってくるのでは無かったのか。
「黒崎さん。帰ってこいよ~。俺も行くよ~」
「おはよう」
「あ……」
すぐ近くから声がした。その声は俺に向けての物だと思う。そこで、すぐに返事が出来なかった。俺はこれでも音楽業をしており、テレビにも出ている。この空港の中、俺を知っている人から声を掛けられないとは限らない。事務所の方からは、声を掛けられても会話はせずに、会釈だけにしておけと言われている。前にマリーズカフェやシャルロットキッチンで声を掛けてくれた人と交流したのだが、後々に写真がネットにアップされており、後で事務所から叱られてしまった。安全を考えてのことだ。俺以外のバンドメンバーは大丈夫だと言われているが、なにせ俺は誤解を招く。
そう思って、聞こえていないふりをしていると、声の主が俺の前に立った。そこで、顔を上げると、それは朝陽だった。声で分からなかった自分に驚いた。オンライズの服を着た朝陽が困った顔をしていた。
「あさひーーー、ごめん!分からなかったんだ」
「いいんだよ。俺も名前を呼ばなかったから。名前を呼んだから、誰かが気がつくかも知れないと思って。もう呼んでも良いか?」
「いいよ。声の感じが違うね。どうしてかな?」
「昨日、友達のボート部の子の練習に付き合って、大声を出したんだ。ちょっと声がかれているんだよ」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。今日はありがとう。俺とお兄ちゃんだけで行くとなったら、怖かったからさ。夏樹が来てくれて嬉しいよ」
「そう?俺も嬉しいよ。そんなに言ってくれて。黒崎さんの弟なのに、良い子だねえ」
そう言って、朝陽のことを抱きしめた。すると、首筋に大きめの絆創膏が貼ってあるのに気づいた。そこで、どこで怪我をしたのかと聞くと、ボート部の子がふざけてキスマークを付けたのだという。その時は三橋君も一緒に居て、本当にふざけていたという感じで、決して危ない雰囲気では無かったそうだ。
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