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13時半。
タクシーが住宅街を進み、ある家の前で停車した。倉口家だ。白い壁の家だ。最後にここに来たのは5年ぐらい前だ。黒崎がママと再会した後、二度、ここに訪ねてきた。その時のママは疲れているような感じがあり、どこか悪いところがあるのかと思っていた。後で聞くと、その頃、倉口さんと喧嘩をしていたそうだ。暴力も振るわれていたという。
ママが黒崎と会うようになり、倉口さんは面白くなかったのだろうか。それが正解なら、自分がお義父さんや黒崎からママのことを奪っておいて、勝手な考え方だと思った。黒崎との再会の後、倉口さんのお酒の量が増えたそうだ。朝陽が言うには、今ほどじゃないという感じだ。そして、その今が目の前に来る。
バタン。タクシーを降りた後、ドアが閉まった。そして、走り去って行った。俺達は門を開けて中に入り、玄関の前に立ち、インターフォンを押した。朝陽は家の鍵を持っているが、勝手に入らないようにしておいた。そして、何秒かの間が空き、玄関のドアが開いた。そこには男性がいた。倉口さんだ。まずは黒崎が言葉を発した。
「倉口。入らせてもらう。朝陽を連れてきた」
「ああ……。入ってくれ」
「お邪魔します」
「……」
俺がお邪魔しますと言うと、倉口さんが俺達を家の中に招き入れた。俺の想像していた倉口さんはお酒の匂いがプンプンしているイメージで、怖い表情をしているのだと思っていたら、そうではなかった。お酒の匂いはしないし、少しだけ笑顔もあった。家の中は散らかっておらず、ごく普通といった感じだ。
朝陽から聞いている倉口さんの印象は、家の中では高圧的だったが、他の人には愛想が良いということだった。しかし、昔はそうではなかったという。優しいお父さんだったそうだ。朝陽が小学2年生になる辺りで、ママのやっているウォーキングスクールとモデルスクールが大きくなり、ママの帰りが遅くなることが増えて、倉口さんとママの喧嘩が始まったそうだ。そして、家の中と外との顔が違うようになり、家の中では怒鳴りつけてくることもあったし、お酒の瓶を投げつけてくることもあったという。外では大人しいが、家の中では暴れるということだそうだ。
2階へ上がろうとすると、倉口さんが先に上がっていった。そこで、黒崎が上がっていき、朝陽がそれに続き、俺が最後に上がっていった。階段には物が置かれていた。古い日付の新聞もあった。この家を売るときには荷物を空にしないといけないから、業者に頼むだろうが、処分するときには倉口さん1人で大変だと思った。そこで、甥っ子が居ることを思い出した。彼に手伝いを頼むのだろうか。
2階に上がると、倉口さんが俺達を朝陽の部屋に招き入れた。4年前から何も動かしていないと朝陽に言っている。そこで、黒崎が朝陽に荷物整理を始めろと言い、朝陽が頷いた。段ボールはあらかじめ黒崎が手配し、倉口さんに受け取ってもらっていた。10枚ある。そんなに使わないかも知れないが、念のためだと言っていた。荷物は宅急便で送るから、ドライバーが来る。それまでに荷物を詰めないといけない。
まずは段ボールの組み立てだ。俺が慣れているから、先に始めさせてもらった。さっと折りたたまれた段ボールを広げて組み立てて、底にガムテープを貼り付けた。俺がやり始めている間に、朝陽には荷物に詰めたい物を選んで貰うことにした。
「朝陽。欲しいものを選んでよ。俺が組み立てるからさ」
「うん。ありがとう。えーーっと……」
朝陽が机周りの物を見始めた。この部屋の中はわりと片付いていて、欲しい物がすぐに選べそうだと思った。窓にはカーテンがかかっており、白い壁にはカレンダーが掛けられていた。猫のイラストだ。可愛いから、持って行ってはどうかと思った。
「朝陽。そのカレンダー、可愛いね。持って行ったら?」
「うん。そうだな」
朝陽がピンで留めてあるカレンダーを取り外した。そして、俺がそれを今組み立てた段ボールの中に入れた。こうやってどんどん入れていくといい。部屋の中は時が止まったかのようになっており、ある日突然、黒崎によって都内に連れて行かれたのだとよく分かった。朝陽は受験のための塾に行っているところを迎えに行ったから、一度も家に帰ることが無かった。家に帰れば倉口さんがいるからだ。出て行くと言われたら泣きすがって許してくれと言い出すか、また暴力を振るうかのどちらかだと黒崎が判断し、塾からそのまま連れてきてある。あの冬の日だ。
タクシーが住宅街を進み、ある家の前で停車した。倉口家だ。白い壁の家だ。最後にここに来たのは5年ぐらい前だ。黒崎がママと再会した後、二度、ここに訪ねてきた。その時のママは疲れているような感じがあり、どこか悪いところがあるのかと思っていた。後で聞くと、その頃、倉口さんと喧嘩をしていたそうだ。暴力も振るわれていたという。
ママが黒崎と会うようになり、倉口さんは面白くなかったのだろうか。それが正解なら、自分がお義父さんや黒崎からママのことを奪っておいて、勝手な考え方だと思った。黒崎との再会の後、倉口さんのお酒の量が増えたそうだ。朝陽が言うには、今ほどじゃないという感じだ。そして、その今が目の前に来る。
バタン。タクシーを降りた後、ドアが閉まった。そして、走り去って行った。俺達は門を開けて中に入り、玄関の前に立ち、インターフォンを押した。朝陽は家の鍵を持っているが、勝手に入らないようにしておいた。そして、何秒かの間が空き、玄関のドアが開いた。そこには男性がいた。倉口さんだ。まずは黒崎が言葉を発した。
「倉口。入らせてもらう。朝陽を連れてきた」
「ああ……。入ってくれ」
「お邪魔します」
「……」
俺がお邪魔しますと言うと、倉口さんが俺達を家の中に招き入れた。俺の想像していた倉口さんはお酒の匂いがプンプンしているイメージで、怖い表情をしているのだと思っていたら、そうではなかった。お酒の匂いはしないし、少しだけ笑顔もあった。家の中は散らかっておらず、ごく普通といった感じだ。
朝陽から聞いている倉口さんの印象は、家の中では高圧的だったが、他の人には愛想が良いということだった。しかし、昔はそうではなかったという。優しいお父さんだったそうだ。朝陽が小学2年生になる辺りで、ママのやっているウォーキングスクールとモデルスクールが大きくなり、ママの帰りが遅くなることが増えて、倉口さんとママの喧嘩が始まったそうだ。そして、家の中と外との顔が違うようになり、家の中では怒鳴りつけてくることもあったし、お酒の瓶を投げつけてくることもあったという。外では大人しいが、家の中では暴れるということだそうだ。
2階へ上がろうとすると、倉口さんが先に上がっていった。そこで、黒崎が上がっていき、朝陽がそれに続き、俺が最後に上がっていった。階段には物が置かれていた。古い日付の新聞もあった。この家を売るときには荷物を空にしないといけないから、業者に頼むだろうが、処分するときには倉口さん1人で大変だと思った。そこで、甥っ子が居ることを思い出した。彼に手伝いを頼むのだろうか。
2階に上がると、倉口さんが俺達を朝陽の部屋に招き入れた。4年前から何も動かしていないと朝陽に言っている。そこで、黒崎が朝陽に荷物整理を始めろと言い、朝陽が頷いた。段ボールはあらかじめ黒崎が手配し、倉口さんに受け取ってもらっていた。10枚ある。そんなに使わないかも知れないが、念のためだと言っていた。荷物は宅急便で送るから、ドライバーが来る。それまでに荷物を詰めないといけない。
まずは段ボールの組み立てだ。俺が慣れているから、先に始めさせてもらった。さっと折りたたまれた段ボールを広げて組み立てて、底にガムテープを貼り付けた。俺がやり始めている間に、朝陽には荷物に詰めたい物を選んで貰うことにした。
「朝陽。欲しいものを選んでよ。俺が組み立てるからさ」
「うん。ありがとう。えーーっと……」
朝陽が机周りの物を見始めた。この部屋の中はわりと片付いていて、欲しい物がすぐに選べそうだと思った。窓にはカーテンがかかっており、白い壁にはカレンダーが掛けられていた。猫のイラストだ。可愛いから、持って行ってはどうかと思った。
「朝陽。そのカレンダー、可愛いね。持って行ったら?」
「うん。そうだな」
朝陽がピンで留めてあるカレンダーを取り外した。そして、俺がそれを今組み立てた段ボールの中に入れた。こうやってどんどん入れていくといい。部屋の中は時が止まったかのようになっており、ある日突然、黒崎によって都内に連れて行かれたのだとよく分かった。朝陽は受験のための塾に行っているところを迎えに行ったから、一度も家に帰ることが無かった。家に帰れば倉口さんがいるからだ。出て行くと言われたら泣きすがって許してくれと言い出すか、また暴力を振るうかのどちらかだと黒崎が判断し、塾からそのまま連れてきてある。あの冬の日だ。
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