青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 部屋の外では黒崎が倉口さんと話をしている。朝陽と話をしたそうにしている倉口さんのことを止めている気がした。朝陽も気にしているようだ。そして、俺はカーテンレールにハンガーで掛けてある冬服に目がとまった。

「朝陽。その服、気に入っているやつじゃない?持って行ったら良いよ。段ボールは10箱もあるんだ。持って行き放題だよ」
「うん。……夏樹。クローゼットの中を見ても笑うなよ。ぐちゃぐちゃなんだ」
「笑わないよ。見せてよ」
「うん。これだよ」

 朝陽がクローゼットの扉を開けた。すると、たしかにぐちゃぐちゃに置かれた服が見えた。これではどこに何が入っているか分からないだろう。もう何年も前に見たクローゼットということもある。

「わ~~。笑わないけど、驚いたよ。高校の制服はどこだよ?記念に持って行こうよ」
「制服はこっちだよ」
「ああ、ポールハンガーに掛けてあったんだね。偉いね。ちゃんとしているじゃん」
「卒業式の時に慌てないようにって、ちゃんとかけてあったんだ」
「偉いよ。どうする?服をメインに持って行く?それとも、小物類にする?」
「両方持って行きたい。小物はそんなにないからさ。服は選べないな……。この状態だからさ」
「うひゃひゃひゃ。ぐちゃぐちゃだもんねえ。あ、ごめん。笑ったよ」
「いいよ。笑うと思ったんだ」
 
 朝陽がクローゼットの中からいくつかの服を取り出した。もう着ないと思うが、記念に持って行くと言った。今着ると子供っぽいかも知れないということだ。4年という歳月は早いようで短くて、18歳だった朝陽が22歳になり、子供から大人になった。もう着れない服があるだろう。それも思い出だ。

 ところで、黒崎が倉口さんと話し続けている。俺達は作業をして話をしているから、時々しか声が聞こえない。揉めてはいないようだ。そして、黒崎が部屋に入ってきた。穏やかな顔をしている。

「朝陽。持って行く物は決まったか?」
「うん。でも、クローゼットの中がこんな状態だからさ。欲しい物を見つけるのに時間が掛かりそうだよ。でも、すぐにやるから……」
「あと2時間あると思え。本の無い部屋だな。もっと読め」
「分かっているよ……。えーーっと、これだ……」

 朝陽が欲しい物を取り出した。黒いパーカーだ。気に入っている服だという。俺達はそれを着ているところを見たことが無い。そこで、そんなに多くの回数を会っていなかったのだと思った。朝陽とよく話すようになったのはプラセルでのバイトを始めた後だ。色んな事でモヤモヤしていただろう。

 トントン……。すると、階段から音がした。倉口さんが下に下りていった音だ。そして、また上がってきて、部屋の入り口に立った。お酒の匂いしたと思ったら、彼が持っているコップからの匂いだった。透明の液体が入っている。焼酎か日本酒だと思った。そこで、黒崎が声を掛けた。

「倉口。酒を飲んでいるのか……」
「ああ。悪いか?」
「検査に影響しそうだ。控えてくれ」
「分かった。……お前らはいいよな。俺はまったく運がない。背も高くて良いよな。俺は母親に似て小さい」
「……」
 
 倉口さんがコップを床に置き、俺達を見て顔を歪めた。倉口さんの背は高い方だと思う。178センチの俺と同じぐらいだ。朝陽は175センチだ。黒崎は186センチだから、そこで、黒崎の身長のことを言っているのだと察した。

 黒崎は何も言わない。淡々としている。朝陽はクローゼットの中から服を取り出していき、段ボールの中に入れた。俺は机の上に置いてある小物類を眺めた。ブロックを組み立てて作るオモチャだ。小さいときに使っていた物だろうか。それとも、高校生になった後で買ってきて組み立てたのだろうか。すると、倉口さんが声が荒げた。

「お前ら、俺のことは無視なのか?」
「倉口。そういう話はやめてくれないか。今は朝陽の荷物整理の時間だ」
「お父さん!出て行ってくれ!」
「朝陽……。だめだよ。荷物整理してて」

 朝陽が声を上げたから、俺が止めた。倉口さんが部屋の中に入ってこようとしたが、黒崎が立ちはだかって止めた。朝陽は倉口さんに言いたいことがあるという。しかし、また俺が止めた。倉口さんは朝までお酒を飲んでいたに違いないから、そのお酒は抜けきっていないだろう。そんな状態の人と冷静に話なんて出来ない。すると、倉口さんが黒崎から諫められて、大人しくなった。そして、下で待つと言い、下りていった。
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