909 / 938
25-13
しおりを挟む
お父さん。朝陽が倉口さんを見て、そうつぶやいた。そして、黒崎との間に立ちはだかり、部屋に入ってこないようにした。倉口さんが黒崎のそばに行こうとしたからだ。部屋に入ってくる用件には察しが付いた。さっきの話を聞かれたのだろう。そして、倉口さんが顔を歪めた。
「俺は浮気をしていない!訴えるぞ!」
それは大きな声だった。怒号とも言える。手にはコップを持っている。中身は入っていない。お酒を飲んだということだろうと思った。そして、黒崎を煽るようにして近づき、つばを吐いてきた。
「倉口。俺はあんたに罵られる覚えは無い」
「なんだと!俺がお前のことを送迎していたんだぞ!あんな子供に頭を下げ続けたんだ!お前は分かるのか!?俺の気持ちを!」
「俺には話すことは無い」
「捨てられた子供のくせに!俺がお前のお母さんを抱いた!黒崎隆が気がついたのは半年後だ!」
「……」
その言葉を聞いて、呆れる思いがした。自分が悪いことをしたというのに、人を罵る言葉に使うのかと思ったからだ。黒崎は何も言葉を返さなかった。その代わりに、冷たい目を倉口さんに向けた。そして、間に立っている朝陽に視線を向けて、立ち上がった。それには倉口さんが一瞬笑った。
「なんだと!やるのか!」
「……朝陽、作業を進めろ」
黒崎が朝陽にそう言った後、倉口さんに視線を向けた。すると、倉口さんがまた笑い、一歩、二歩と後ずさりをした。後ろには階段がある。自分で転んでおいて、黒崎から押されたのだと言い張るつもりか。それとも、煽っておき、本当に押されようとしているのか。しかし、黒崎がそれに乗るわけが無い。座ったままで冷たい視線を向け続けた後、朝陽のことを部屋の奥に促した。
「お兄ちゃん!俺が話すよ!」
「いい。荷物がたくさんあるんだろう。あと1時間で仕上げられるか?」
「これで終わりで良いよ。あ、でも、宅急便の出荷は予約しているんだっけ。それまで待つのは……。この2箱だけでいいよ。宅配便の店に寄ってくれるかな?店から出そうよ。それなら、もう出られるよ」
「いや、ここにいよう。もう捨てることになる。よく選んでおけ」
「うん。お兄ちゃん。座っていてよ。お父さん!俺達なるべくここから早く出るよ。だから、下に行ってもらえるかな?」
「なんだと!?さっきからお兄ちゃんとか呼んで……、手なずけられたものだ。父親が誰かも分からないだろう。俺はお前のことも二葉のことも育てさせられたんだ。これまで食わせてきたんだぞ!朝陽!どうしてそいつの肩を持つんだ!そんなに黒崎の名前がいいのか!……っ」
倉口さんが大声を上げた。そして、涙ぐんだ目で俺達のことを見つめた。自分の暴力のせいとはいえ、突然妻と息子達が出て行ったことはショックだったのだろう。そして、会うことなく離婚の話が進められて、黒崎が立ちはだかっている。何をするにも彼の許可がいる。腹が立つのだろう。しかし、黒崎に謝るのが筋では無いだろうか。お義父さんとママの結婚生活を壊した張本人だ。ママも悪いとはいえ、圭一君という子供の送迎をして接していて、その子からママのことを奪うのが分かっていながら関係を持った。だから、今、散々だと言いたいような倉口さんに同情は出来ないと思った。いや、ほんの少しだけは可哀想だと思わないでもないのか。すると、黒崎が言った。信頼していたのだと。
「倉口。あんたのことは優しいお兄さんだと思っていたんだぞ。親父と仲が良くていいとな。親父と出かけるときには、あんたが車のドアを開けて待っていて、親父と軽く話をする姿は友達同士のようだった。だから、あんたに言ったことがある。お父さんと友達になってあげてと。覚えているか?」
「……っ」
「親戚からあんたと母の事を聞いた。母があんたと出て行ったことを聞いたときには頭の中が真っ白になった。しかし、俺は小学6年生だった。我慢が出来る年だった。でも、泣いた」
「……っ」
黒崎の口調は和らいでいた。そして、倉口さんが泣いた。それは今まで詰まっていた物が一気に解放されたかのような涙だった。黒崎がそばにあるティッシュを倉口さんに差し出した。しかし、受け取ろうとしない。そこで朝陽が代わりに受け取り、倉口さんに渡した。そして、嗚咽をもらす倉口さんの肩を俺がさすり、寂しさが沸き出てきて、人は悲しい生き物だと思ったのだった。
「俺は浮気をしていない!訴えるぞ!」
それは大きな声だった。怒号とも言える。手にはコップを持っている。中身は入っていない。お酒を飲んだということだろうと思った。そして、黒崎を煽るようにして近づき、つばを吐いてきた。
「倉口。俺はあんたに罵られる覚えは無い」
「なんだと!俺がお前のことを送迎していたんだぞ!あんな子供に頭を下げ続けたんだ!お前は分かるのか!?俺の気持ちを!」
「俺には話すことは無い」
「捨てられた子供のくせに!俺がお前のお母さんを抱いた!黒崎隆が気がついたのは半年後だ!」
「……」
その言葉を聞いて、呆れる思いがした。自分が悪いことをしたというのに、人を罵る言葉に使うのかと思ったからだ。黒崎は何も言葉を返さなかった。その代わりに、冷たい目を倉口さんに向けた。そして、間に立っている朝陽に視線を向けて、立ち上がった。それには倉口さんが一瞬笑った。
「なんだと!やるのか!」
「……朝陽、作業を進めろ」
黒崎が朝陽にそう言った後、倉口さんに視線を向けた。すると、倉口さんがまた笑い、一歩、二歩と後ずさりをした。後ろには階段がある。自分で転んでおいて、黒崎から押されたのだと言い張るつもりか。それとも、煽っておき、本当に押されようとしているのか。しかし、黒崎がそれに乗るわけが無い。座ったままで冷たい視線を向け続けた後、朝陽のことを部屋の奥に促した。
「お兄ちゃん!俺が話すよ!」
「いい。荷物がたくさんあるんだろう。あと1時間で仕上げられるか?」
「これで終わりで良いよ。あ、でも、宅急便の出荷は予約しているんだっけ。それまで待つのは……。この2箱だけでいいよ。宅配便の店に寄ってくれるかな?店から出そうよ。それなら、もう出られるよ」
「いや、ここにいよう。もう捨てることになる。よく選んでおけ」
「うん。お兄ちゃん。座っていてよ。お父さん!俺達なるべくここから早く出るよ。だから、下に行ってもらえるかな?」
「なんだと!?さっきからお兄ちゃんとか呼んで……、手なずけられたものだ。父親が誰かも分からないだろう。俺はお前のことも二葉のことも育てさせられたんだ。これまで食わせてきたんだぞ!朝陽!どうしてそいつの肩を持つんだ!そんなに黒崎の名前がいいのか!……っ」
倉口さんが大声を上げた。そして、涙ぐんだ目で俺達のことを見つめた。自分の暴力のせいとはいえ、突然妻と息子達が出て行ったことはショックだったのだろう。そして、会うことなく離婚の話が進められて、黒崎が立ちはだかっている。何をするにも彼の許可がいる。腹が立つのだろう。しかし、黒崎に謝るのが筋では無いだろうか。お義父さんとママの結婚生活を壊した張本人だ。ママも悪いとはいえ、圭一君という子供の送迎をして接していて、その子からママのことを奪うのが分かっていながら関係を持った。だから、今、散々だと言いたいような倉口さんに同情は出来ないと思った。いや、ほんの少しだけは可哀想だと思わないでもないのか。すると、黒崎が言った。信頼していたのだと。
「倉口。あんたのことは優しいお兄さんだと思っていたんだぞ。親父と仲が良くていいとな。親父と出かけるときには、あんたが車のドアを開けて待っていて、親父と軽く話をする姿は友達同士のようだった。だから、あんたに言ったことがある。お父さんと友達になってあげてと。覚えているか?」
「……っ」
「親戚からあんたと母の事を聞いた。母があんたと出て行ったことを聞いたときには頭の中が真っ白になった。しかし、俺は小学6年生だった。我慢が出来る年だった。でも、泣いた」
「……っ」
黒崎の口調は和らいでいた。そして、倉口さんが泣いた。それは今まで詰まっていた物が一気に解放されたかのような涙だった。黒崎がそばにあるティッシュを倉口さんに差し出した。しかし、受け取ろうとしない。そこで朝陽が代わりに受け取り、倉口さんに渡した。そして、嗚咽をもらす倉口さんの肩を俺がさすり、寂しさが沸き出てきて、人は悲しい生き物だと思ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~
野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。
残念ながら話もできたし、触ることもできた。
様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。
そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。
厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。
きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。
それから五年。
地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。
真詞の運命が大きく動き出す。
人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半)
別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半)
・前半 巡(人外)×真詞
・後半 岬(人間)×真詞
※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。
※ キスを二回程度しかしないです。
※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。
※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる