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16時。
お預かりします。お願いします。そんな会話が倉口家の玄関でされた。朝陽の荷物の整理が終わり、宅急便のドライバーに預けたところだ。全部で4箱ある。中学高校の制服と卒業証書、気に入っていた洋服、壁に貼ってあったカレンダー、机の上の小物類だ。全体的にいうと、服が大きな比重を占めていた。もう小さくて着られないか、今着ると子供っぽいといった感じでも、朝陽からすると大事な思い出であり、不在にしていた4年間を取り戻すかのような時間だった。
泣いていた倉口さんに朝陽はこう言った。あの冬の日に、家に戻らなくて良かったのだと。お母さんと二葉と自分とで家に帰っていたら、またお母さんが暴力を振るわれていただろうと言った。それは冷たい言い方では無く、柔らかさがあった。離れてみて、ママにも悪いところがあるということがよく分かったし、ママへの暴力が酷くなったのは黒崎が現われた後であり、もしかしたら、ママのことを取り返されるかもしれないと恐れたのだろうと想像すると、気持ちは分からないわけではないと言っていた。人から奪ったものは誰かに奪われるか取り返される。自分がそう思うのだと言っていた。
今、倉口さんはリビングにいる。お酒は飲んでいない。テレビを見つけて、俺達と話をしない。2階で泣いた後もそうだった。泣き止んだ後で下に下りてきて、ずっと、今の状態だ。俺達は作業に戻り、荷物を段ボールに詰めた。そして、出荷の段取りまで終わり、谷本さんとの待ち合わせのホテルに出発することになった。倉口さんは自分の車で行く予定だったが、もう車の運転は出来ない。俺達はタクシーだ。まだ呼んでいない。もしかしたら一緒に行くかも知れないと思ってのことだ。そこで、朝陽が声を掛けた。
「お父さん。俺達はもう出るよ。一緒に行かない?」
「……先に行ってくれ。待ち合わせの時間通りに着くようにする」
「分かったよ。じゃあ、俺達行くよ」
「……」
倉口さんが頷いた気配があった。そして、朝陽がもう一度自分の部屋を見てくると言い、階段を上がった。欲しい物は取ってきてあり、二葉が前に倉口さんに会った時にアルバムを受け取ってあるから、残してきた物はないと言っていた。写真にも収めていた。俺達の動画も撮っていた。最後の景色を見てくるのだろう。
朝陽が戻ってくる間に、黒崎がタクシーの手配をした。そして、2階から朝陽が足早に戻ってきたのを確認し、玄関のドアを開けた。それに朝陽が続き、最後に俺がドアを閉めた。外は日が陰っていて、曇り空になっていた。だから、気温が少し低くなっており、呼吸が出来る暑さだと思った。朝陽も同じ事を持ったようで、門を閉めた後、ふうっと息を吐いた。
「曇ってきて良かったな。昼間は暑かったから……」
「うん。でも、クーラーの効き方は良かったね。新しかったんだろ?」
「そうでもないよ。俺が中学2年生の時に取り付けたやつだから……」
「4年しか使っていないじゃん。なに?何かあったの?」
「叔母さんが買ってくれたクーラーだったんだ。お父さんが養子になろうとしている人だよ」
「そうなんだね……。そっか……」
これ以上の言葉が出てこなかった。親戚づきあいはうまくいっていたということだ。倉口さんさえ暴力を振るわなかったら、今もこの家で朝陽は暮らしていたことになり、ママの浮気は明るみに出なかったということなのか。俺が初めてこの家に来たとき、問題があるなんて思わなかった。黒崎は自分のことを捨てられた子供だと言い、ママは自分を置いて新しい家庭を築いたのだと言っていた。それはきっと幸せな家庭であり、俺の事なんて忘れていたのだろうと。
そんな自分がママの前に現われるのは幸せを邪魔することになると思ったそうだが、都内に引っ越す前にお別れがしたくて、家の近くまで来た。ママに会えるなんて思っていなかった。そして、俺がまず先にこの家の前に来て、倉口という表札を見て、ママが再婚したのだと知った。当時はそれぐらいしか俺は知らなくて、黒崎がショックを受けそうだと思って、帰ろうと思った。そして、帰り道でママに会った。そこからみんなの運命が変わった。黒崎が力強くママのことを引き寄せて、倉口さんから奪い返した。
家の中には倉口さんが1人で過ごしている。まさか、思いきったことをしないだろうかと心配になった。しかし、朝陽が倉口さんと約束をしていた。必ず待ち合わせの場所で会おうと。だから、きっと大丈夫だ。そして、そう思って、到着したタクシーに乗り込んだ。
お預かりします。お願いします。そんな会話が倉口家の玄関でされた。朝陽の荷物の整理が終わり、宅急便のドライバーに預けたところだ。全部で4箱ある。中学高校の制服と卒業証書、気に入っていた洋服、壁に貼ってあったカレンダー、机の上の小物類だ。全体的にいうと、服が大きな比重を占めていた。もう小さくて着られないか、今着ると子供っぽいといった感じでも、朝陽からすると大事な思い出であり、不在にしていた4年間を取り戻すかのような時間だった。
泣いていた倉口さんに朝陽はこう言った。あの冬の日に、家に戻らなくて良かったのだと。お母さんと二葉と自分とで家に帰っていたら、またお母さんが暴力を振るわれていただろうと言った。それは冷たい言い方では無く、柔らかさがあった。離れてみて、ママにも悪いところがあるということがよく分かったし、ママへの暴力が酷くなったのは黒崎が現われた後であり、もしかしたら、ママのことを取り返されるかもしれないと恐れたのだろうと想像すると、気持ちは分からないわけではないと言っていた。人から奪ったものは誰かに奪われるか取り返される。自分がそう思うのだと言っていた。
今、倉口さんはリビングにいる。お酒は飲んでいない。テレビを見つけて、俺達と話をしない。2階で泣いた後もそうだった。泣き止んだ後で下に下りてきて、ずっと、今の状態だ。俺達は作業に戻り、荷物を段ボールに詰めた。そして、出荷の段取りまで終わり、谷本さんとの待ち合わせのホテルに出発することになった。倉口さんは自分の車で行く予定だったが、もう車の運転は出来ない。俺達はタクシーだ。まだ呼んでいない。もしかしたら一緒に行くかも知れないと思ってのことだ。そこで、朝陽が声を掛けた。
「お父さん。俺達はもう出るよ。一緒に行かない?」
「……先に行ってくれ。待ち合わせの時間通りに着くようにする」
「分かったよ。じゃあ、俺達行くよ」
「……」
倉口さんが頷いた気配があった。そして、朝陽がもう一度自分の部屋を見てくると言い、階段を上がった。欲しい物は取ってきてあり、二葉が前に倉口さんに会った時にアルバムを受け取ってあるから、残してきた物はないと言っていた。写真にも収めていた。俺達の動画も撮っていた。最後の景色を見てくるのだろう。
朝陽が戻ってくる間に、黒崎がタクシーの手配をした。そして、2階から朝陽が足早に戻ってきたのを確認し、玄関のドアを開けた。それに朝陽が続き、最後に俺がドアを閉めた。外は日が陰っていて、曇り空になっていた。だから、気温が少し低くなっており、呼吸が出来る暑さだと思った。朝陽も同じ事を持ったようで、門を閉めた後、ふうっと息を吐いた。
「曇ってきて良かったな。昼間は暑かったから……」
「うん。でも、クーラーの効き方は良かったね。新しかったんだろ?」
「そうでもないよ。俺が中学2年生の時に取り付けたやつだから……」
「4年しか使っていないじゃん。なに?何かあったの?」
「叔母さんが買ってくれたクーラーだったんだ。お父さんが養子になろうとしている人だよ」
「そうなんだね……。そっか……」
これ以上の言葉が出てこなかった。親戚づきあいはうまくいっていたということだ。倉口さんさえ暴力を振るわなかったら、今もこの家で朝陽は暮らしていたことになり、ママの浮気は明るみに出なかったということなのか。俺が初めてこの家に来たとき、問題があるなんて思わなかった。黒崎は自分のことを捨てられた子供だと言い、ママは自分を置いて新しい家庭を築いたのだと言っていた。それはきっと幸せな家庭であり、俺の事なんて忘れていたのだろうと。
そんな自分がママの前に現われるのは幸せを邪魔することになると思ったそうだが、都内に引っ越す前にお別れがしたくて、家の近くまで来た。ママに会えるなんて思っていなかった。そして、俺がまず先にこの家の前に来て、倉口という表札を見て、ママが再婚したのだと知った。当時はそれぐらいしか俺は知らなくて、黒崎がショックを受けそうだと思って、帰ろうと思った。そして、帰り道でママに会った。そこからみんなの運命が変わった。黒崎が力強くママのことを引き寄せて、倉口さんから奪い返した。
家の中には倉口さんが1人で過ごしている。まさか、思いきったことをしないだろうかと心配になった。しかし、朝陽が倉口さんと約束をしていた。必ず待ち合わせの場所で会おうと。だから、きっと大丈夫だ。そして、そう思って、到着したタクシーに乗り込んだ。
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