青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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25-16(夏樹視点)

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 部屋に入ると、そこはツインルームだった。広い部屋だ。ここに泊まらずに帰るのが勿体ないぐらいに綺麗な部屋であり、ベッドもふかふかそうだった。今日泊まる部屋も良かったが、ここに泊まっても良いと思った。しかし、朝陽の気持ちを考えると、やっぱり別のホテルがいいのだろう。

 この部屋にはリビングがあり、黒崎が谷本さんに椅子に座って貰った。朝陽も隣に座った。まさか親子の可能性があるなんてと言っている。そして、唇を噛んだ。ママの浮気という結果だということが心中複雑だそうだ。

 ママは倉口さんとの結婚生活を続けて、今になって今回のことが起きたわけだが、子供時代に知っていたら自分の心はどうなっていただろうと思うのだと朝陽が言い、谷本さんがごめんと謝った。本当ならママもここにいれば良いと思った。朝陽にとっては心が痛くなる話だ。きっと、来てくれるだろう倉口さんにとってもだ。

 俺は谷本さんを見て、たしかに朝陽に似ていると思った。背の高さが同じぐらいで、輪郭や鼻と口元、眉のラインが同じだ。だから、親子だと思った。しかし、谷本さんと倉口さんは似ている。他人の空似という可能性がある。

 部屋の中は静まりかえっているかというと、そうではない。朝陽が谷本さんと話を続けているし、黒崎はお義父さんから急用で電話が掛かってきて話をしている。どうやらうちに入った泥棒が捕まりそうだということだ。盗まれたタブレットは回線が繋がっており、泥棒が電源を切らなかったようで、GPSにより、おおよその位置が分かり、警察に報告してあった。そこは東京近郊の家であり、インターネットの画像にあったその家は見覚えが無かったという。

「月曜日に捕まりそうなのか。良かった。ああ、まだ犯人とは限らないな。安心するのはまだだ。……戻るのは予定通りだ。あんた、俺のことを心配しているのか?こちらは何も起きていない。倉口はまだ来ていない。家にいたときは少々は声を荒げられたが、俺達が家を出るときには静かになっていた。……ああ、来たか」
「すごい耳だね……」

 ピンポーン。インターフォンが鳴った。時計を見ると、17時前だった。この時間に来る人は倉口さんしかいない。そこで、黒崎が電話を終えてドアに向かった。すると、谷本さんが立ち上がった。怒鳴られるのを覚悟していると言っており、その展開になる可能性が高い。出会い頭の衝突事故のように、突然殴られるかも知れない。そして、もしそうなっても、倉口さんのことは訴えないと言っていた。警察にも行かないのだそうだ。全ては自分が悪いと思っていると言っていた。
 
 カタン。ドアが開き、黒崎が誰かと話をしている声が聞こえてきた。それは山田さんだった。倉口さんの姿も見えた。山田さんが案内してくれたのだと分かった。そして、倉口さんが部屋に入ってきた。谷本さんは頭を下げている。朝陽は悲しそうな顔をしている。そして、先生が言った。

「谷本です!すみませんでした!」
「ああ……」

 倉口さんが小さな返事をした。足下が少しフラついていた。お酒を飲んでしまったのだろうか。しかし、匂わない。そして、谷本さんの前に立ち、黒崎が呼んで引き離した。話し合いはまた後日だと言って。

「すまないが、検査を進めよう。ここに検査キットがある」
「はい……」
「ああ……」

 黒崎が検査キットを開封し、サンプルを摂取するための綿棒を倉口さんと谷本さんに渡した。そして、頰の内側をこすりつけて、容器に入れてくれと言った。朝陽にも同じ物を渡して、それぞれが綿棒を口の中に入れた。そして、静まりかえった部屋の中、それぞれが綿棒を容器に入れた。

 これでサンプルの摂取が完了した。朝陽と倉口さん。そして、朝陽と谷本さんの検査がこれで行われる。黒崎が検査キットに入っている封筒を2通取り出して、3人に見せた。

「これで郵送して検査機関に送る。結果は朝陽のところに来る。分かり次第、連絡する。ポストはこのホテルの前にある。そこから出す」

 一貴さんの時にやったから、手順は分かっている。黒崎が手早く郵送する封筒に容器を入れた。24時間鑑定サービスを使うから、郵送の日数を入れて4日掛かると言った。鑑定書も頼んであるが、それは後日になるということも言った。

 話し合いの時間を取らなかったから、思ったよりも早くこの時間が終わりそうだと思った。てっきり言い争いになると思ったのに。倉口さんは静かだ。そんな中、黒崎が封筒に封をした。

「これで終わりだ。ポストには全員で行くか。部屋を出よう。ああ、倉口。やめろ……」
「ふざけるな!」

 黒崎がこれで終わりだと言ったときに、倉口さんが立ち上がった。そして、谷本さんの前に立ち、手を上げそうになった。それを黒崎が止めて、朝陽が倉口さんの後ろから腕を掴んで静かにさせた。しかし、暴れそうになったから俺も立ち上がり、泣いている倉口さんをなだめた。心の底からつらい。そう言っているかのような倉口さんの涙と声だった。
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