青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
913 / 938

25-17

しおりを挟む
 18時。

 ホテルから出てきたところだ。俺達は全員揃っている。そして、朝陽と倉口さん、谷本さんの見ている前で、黒崎が検査容器の入った封筒をポストの中に入れた。カタン。そんな音がして封筒が中に入り、頭の中がジーンと痺れた。これで親子鑑定を受けて、結果が分かる。そのときには朝陽の心が乱れるだろうと思ったからだ。

 倉口さんの子供だったとしても、ママの浮気のことは消せる物では無くて、ショックなままだと思う。そして、谷本さんの子供だった場合、朝陽はどう思うだろう。これからママと倉口さんと谷本さんの話し合いがされるだろう。言い争いをする両親達のことを見ると、穏やかではいられないだろう。

 今、朝陽が倉口さんと別れの挨拶を交わした。元気でね。そう言っている朝陽の声は静かだった。泣いている倉口さんのことを見て、つらそうにしていた。泣きたいのは朝陽も同じだと思う。ホテルの部屋で1時間近く話をした。許せない思いは変わらないが、育ててくれたことには感謝していると言っていた。そして、谷本さんには、ママとよく話し合ってくれと言った。朝陽の父親だった場合と、今まで支払ってきた養育費のことだ。そして、自分はもう大人になっていること、しかしまだ学生であること、経験が浅いことが多いから、分からないこともあるということ。しかし、自分は浮気をしないし、誰かと不倫なんてしないと思うと言った。思うというのは、恋愛経験の浅い自分がまだ分からないことがあるからだということだった。

 さて、これから谷本さんが帰る。一期一会という言葉があるが、こんな出会いだなんて。黒崎が言っていたが、自分の子供だと思って認めようとするところは真面目だという話だ。逃げる男にもいるというのに。そんなことを言っていた。女性が妊娠したときに姿を隠す人のことだ。谷本さんはそういう人ではなかったということだ。ママは結婚生活の方を選んだ。谷本さんは捨てられたということになるらしい。ある日突然のようにして別れたいと言われたそうだ。もちろん、妊娠していることは知らなくて、知っていたら別れていないと言った。朝陽は谷本さんに腹を立てつつも、同情する面があるのだそうだ。今も彼に対しての怒りは見せていない。

「先生。また会う日が来るかも知れない。元気でね」
「ありがとう。みなさん、どうもありがとうございました。連絡をお待ちしています」
「お気を付けて」

 朝陽が谷本さんにさよならを伝えた。谷本さんはそれに答えて、俺達に頭を下げた。そして、ホテルの駐車場へと足を向けた。俺は彼に気をつけて帰って下さいと、一声掛けた。そして、倉口さんの方を向いた。倉口さんはここからタクシーで帰るという。まさか車に乗ってきていないだろうかとヒヤヒヤしていたが、その心配は無かったようだ。

「倉口。また連絡する」
「ああ……」

 倉口さんがホテルの車寄せ停まっているタクシーに乗り込んだ。そして、俺達はその後ろに停まっているタクシーに乗り込んだ。前のタクシーが出発し、右方向に進路を取り、道路に出て行った。俺達は左方向だ。目的地は俺の実家だ。俺達3人で遊びに行き、家で晩ご飯を食べる。俺は母に電話を掛けようとして、手を止めた。ポストの郵便物を回収する車が停車しているのが見えたからだ。

「あ、郵便が出るよ」
「18時15分だ。間に合ったな」
「そうだね……」

 朝陽が頷いた。もう後戻りは出来ない。誰が父親でも朝陽は朝陽で変わりない。そう黒崎が言って、彼の肩を抱いた。朝陽はしっかりと前を向いているが、目は赤かった。今日は疲れただろう。ホテルに帰って寝たいかも知れない。しかし、そうはいかない。そうさせない。こういう時ほど栄養を取って貰いたい。何も食べないほどに力がなくなり、倒れ込んでしまうからだ。そこで、俺の気持ちが伝わったようで、黒崎が俺の代わりに朝陽にそう言ってくれて、また強く肩を抱き寄せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...