青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
917 / 938

25-21

しおりを挟む
 すると、テレビではある有名人が母校に行き、講演を行うために帰省したという番組が流れ始めた。朝陽は明日は中学と高校時代の同級生達に会う。気が紛れるだろう。今も連絡をマメにしている子達だ。今回の帰省では心配を掛けているようだと言っていた。それはそうだろう。親が違うかも知れないという状況に立たされて、今まで親子だと思っていた関係が崩れるかも知れないからだ。

 俺としては、朝陽の親が倉口でなくて良かったという気持ちがあった。あったというのは、今日の倉口の涙を見たこと、話を聞いたこと、朝陽の食べ物の好き嫌いがないことを振り返り、育ててもらった恩があると思ったからだ。朝陽も同じ事を考えただろうか。それとも、家族の団らんを見て、自分にはない物だと思ったのか。その可能性はある。しかし、ここに俺がいる。団らんとまではいかなくても、少々は温かい気持ちにさせられるだろう。そこで、俺は朝陽の肩を抱いた。

「朝陽。テレビを見ろ。面白そうな番組をやっているぞ。それと、伊吹君が会社で起きた出来事を話してくれるそうだ。黒い虫が出て失神したように倒れた社員の話だ。そこで、伊吹君が医者を呼んでこようと思って、ビルの下の階にあるクリニックに呼びに行ったそうだ。昼休み中だったが、いることは分かっていたそうだ。そしたら、新人の医者がいて、来てくれたそうだ。医者は優しいな?」
「うん……。患者さんのことを思っているんだと思うよ……」
「そうだな。お前はこうやって泣いているから、俺のように冷たいことは言わないだろう。……それで、どうしたんだ?どうして泣いているんだ?」
「俺、自分の父親は、倉口のお父さんだと思っているんだ。誰が父親でも。育ててくれたのは、お父さんなんだ。お父さんが肉じゃがを作ってくれていたんだ。でも、酔うと乱暴で、どうしようもない父親だって思っているよ。それでも、今日泣いているところを見たら、俺、俺……」
「そうか。誰が父親でも、か……」
「うん……。お父さんは黒崎のおじさんからお母さんのことを奪った人だって分かっているよ。お兄ちゃんだって泣いたんだ。でも、俺にとってはお父さんなんだ……」
「分かった。明日も会いに行くか?結果が分かって、親子じゃないということになっても、今までの思い出がある。それが消えて無くなるわけじゃない」
「うん……。あんな人だけど、俺、俺……」

 朝陽が嗚咽を漏らした。そして、ここにいるメンバーがそれぞれ箸を進めて、なるべく明るく振る舞ってくれているように感じた。聡太郎がそばにあるマグロを食べ始めると、伊吹が醤油が垂れていると言って、テーブルの上を拭いた。そして、俺達に微笑みかけてきた。ティッシュならいくらでもありますと言った。そして、立ち上がった。

「濡れたタオルも必要ですね。冷たいタオルと温かいタオル、どっちがいいですか?んーーー、そうか、すごく泣いているから、両方必要ですね。すぐに用意します」
「すまない。お義母さん、俺がします」
「いいのよ。圭一君はそこにいて」

 朝陽のためにタオルの追加が用意されようとしている。湯で湿らせたタオルと、冷水で湿らせたタオルだ。伊吹が洗面所からタオルを持ってきて、それを氷水で湿らせ始めた。義母は湯で湿らせ始めた。朝陽はまだ泣き止まない。感情が爆発したということだろう。そして、タオルが渡された。俺はまず、温かい方のタオルを朝陽に渡した。

「朝陽。顔を拭け」
「うん。お兄ちゃん。みなさん、ごめんなさい」
「いいんだよ」

 義父が微笑んだ。そして、万理がそばにいるレモンを朝陽のそばに来させた。この子の顔を見てやってと言いながら。今日は美味しい物がたくさんあるから機嫌が良いのと言った。この家ではレモンに食べさせる食事は緩やかだと聞いている。そして、レモンが朝陽の身体の匂いを嗅ぎ始めた。すると、前足で朝陽の身体に触れて、じっと見つめ始めた。

「朝陽。レモンが見ているぞ。おやつを渡してやってくれ。これだ……」
「これ?カステラじゃないの?砂糖はダメなんじゃ……」
「犬用のおやつだ。……ああ、よく食べている。家族以外からは食べ物をもらわないのにな。お前のことを信頼しているんだろう」
「そっか。君、そうなんだね……。もう一つあるよ……」

 レモンが朝陽の手からカステラのようなものを食べた。先ほど言ったとおり、レモンは警戒心がある犬だが、俺達にはそうでもないらしい。そして、レモンが朝陽の手を舐めて、義父が洗面所に行っておいでと勧めて、朝陽が立ち上がった。その顔は少々はスッキリした顔に見えたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...