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25-22(夏樹視点)
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20時。
朝陽が洗面所へ向かった後、リビングには静けさが残った。泣き声が遠ざかり、さっき母が煎れてくれたお茶の湯気だけが、ゆらゆらと空気を動かしていた。そこで、俺は箸を置いて、ソファーの背もたれに体を預けた。黒崎は無言で湯呑を手に取り、母に軽く頭を下げていた。
「……あの子は、優しいね」
父がぽつりと呟いた。俺はこの言葉に胸が痛くなった。自分のことを重ねているのだろうと思ったからだ。祖父と再会したのは今年の春の話であり、それから後、たまに会いに行っている。雪解けを迎えて、昔のように頻繁に行き来するかと思えば、そうではなくて、心の距離は開いたままだ。再会したものの、自分が思っている人であって、そうじゃなかったと言っていた。俺は何が出来るだろう。今回の帰省で俺は祖父に会いに行けない。せっかくここまで帰ってきたが、時間がなさ過ぎて、今度また会いに行くと伝えてある。
「心が真っ直ぐな子だよ。ああやって泣けるのは、悪いことじゃない」
その言葉に、黒崎が静かに頷いた。表情はいつも変わらないが、今はどこか柔らかかった。俺はそんな様子を見ながら、湯呑を口に運んだ。温かいお茶が喉を通るたびに、胸の奥が少しずつほどけていく。
昔の朝陽だったら、泣けなかっただろう。無理して笑って、誰にも心配かけまいとして、余計に苦しんでいたのだろう。朝陽のそういうところが昔の俺に似ている気がした。
すると、しばらくして、水の音が止み、足音が近づいた。朝陽が戻ってきた。目は真っ赤で、鼻も少し赤い。それでも、ちゃんと笑っていた。
「すみません……」
朝陽が小さく頭を下げた。すると、母がすぐに動いて、座布団を整えた。
「いいのよ。泣いた後には温かいお茶を飲みましょう。ね?」
「はい……。ありがとうございます」
朝陽が両手で湯呑を包み、そっと口をつけた。すると、湯気が顔を包み込み、頬に少し色が戻った感じがした。俺はその姿を見て、胸がじんわりと温かくなった。
「やっぱり、一番涙もろいのは朝陽だね」
「そうか?」
つい口から出た冗談に、黒崎が笑った。そして、言い返してきた。
「お前が最近、泣かないからだな」
「泣くよ。ただ、人前じゃ泣かないだけ」
「俺の前でも泣かないな」
「あんたが怖いからだよ」
また笑いが起きて、空気が少しずつ軽くなった。その真ん中で、朝陽が息を吐いて、小さく笑った。その声がやけに静かに響いた。
「みんな、ありがとう。俺、明日、お父さんにちゃんと会ってくる。ありがとうって伝えたいから」
その言葉を聞いて、胸が熱くなった。朝陽が自分の足で前に進もうとしている。ようやく、止まっていた時間が動き出したのだと思った。しかし、黒崎はなんて言うだろう。一緒に行くと言うだろうか。それでもいいとは思っている。しかし、2人にさせた方が良いと思った。
「行ってこい。ただし玄関先で話せ。俺は近くで待つ」
黒崎が朝陽の肩を軽く叩いた。みんなも頷いていた。そして、レモンが朝陽の足元にすり寄って、小さく吠えた。そこで母が目を細めて言った。
「ね、レモンも分かるのよ。あなたが優しい子だって」
「そうなのかーー……」
朝陽がレモンの頭を撫でた。指先が震えていたが、その震えにはもう涙の影はなかった。
「ありがとう。俺、もう泣かないよ」
その一言を聞いて、俺は笑いながらも、心がじーんと痛んだ。
(泣かない、か。本当は、泣いてもいいんだ。泣くことを恐れないでほしい。でも、朝陽がそう言うなら、きっともう大丈夫だ……)
窓の外は暗闇が広がり、リビングの壁を天井の照明が白く染めていた。家族の声、湯呑の音、レモンの小さな鳴き声。それらが重なって、ひとつの優しい時間を作っていた。この家の中には、ちゃんと居場所がある。血の繋がりよりも強い、温もりがある。
俺はゆっくり息を吐いて、窓の外を見つめた。明日は晴れるらしい。雲の切れ間からこぼれる光のように、俺たちの時間も、少しずつ晴れていく気がした。
朝陽が洗面所へ向かった後、リビングには静けさが残った。泣き声が遠ざかり、さっき母が煎れてくれたお茶の湯気だけが、ゆらゆらと空気を動かしていた。そこで、俺は箸を置いて、ソファーの背もたれに体を預けた。黒崎は無言で湯呑を手に取り、母に軽く頭を下げていた。
「……あの子は、優しいね」
父がぽつりと呟いた。俺はこの言葉に胸が痛くなった。自分のことを重ねているのだろうと思ったからだ。祖父と再会したのは今年の春の話であり、それから後、たまに会いに行っている。雪解けを迎えて、昔のように頻繁に行き来するかと思えば、そうではなくて、心の距離は開いたままだ。再会したものの、自分が思っている人であって、そうじゃなかったと言っていた。俺は何が出来るだろう。今回の帰省で俺は祖父に会いに行けない。せっかくここまで帰ってきたが、時間がなさ過ぎて、今度また会いに行くと伝えてある。
「心が真っ直ぐな子だよ。ああやって泣けるのは、悪いことじゃない」
その言葉に、黒崎が静かに頷いた。表情はいつも変わらないが、今はどこか柔らかかった。俺はそんな様子を見ながら、湯呑を口に運んだ。温かいお茶が喉を通るたびに、胸の奥が少しずつほどけていく。
昔の朝陽だったら、泣けなかっただろう。無理して笑って、誰にも心配かけまいとして、余計に苦しんでいたのだろう。朝陽のそういうところが昔の俺に似ている気がした。
すると、しばらくして、水の音が止み、足音が近づいた。朝陽が戻ってきた。目は真っ赤で、鼻も少し赤い。それでも、ちゃんと笑っていた。
「すみません……」
朝陽が小さく頭を下げた。すると、母がすぐに動いて、座布団を整えた。
「いいのよ。泣いた後には温かいお茶を飲みましょう。ね?」
「はい……。ありがとうございます」
朝陽が両手で湯呑を包み、そっと口をつけた。すると、湯気が顔を包み込み、頬に少し色が戻った感じがした。俺はその姿を見て、胸がじんわりと温かくなった。
「やっぱり、一番涙もろいのは朝陽だね」
「そうか?」
つい口から出た冗談に、黒崎が笑った。そして、言い返してきた。
「お前が最近、泣かないからだな」
「泣くよ。ただ、人前じゃ泣かないだけ」
「俺の前でも泣かないな」
「あんたが怖いからだよ」
また笑いが起きて、空気が少しずつ軽くなった。その真ん中で、朝陽が息を吐いて、小さく笑った。その声がやけに静かに響いた。
「みんな、ありがとう。俺、明日、お父さんにちゃんと会ってくる。ありがとうって伝えたいから」
その言葉を聞いて、胸が熱くなった。朝陽が自分の足で前に進もうとしている。ようやく、止まっていた時間が動き出したのだと思った。しかし、黒崎はなんて言うだろう。一緒に行くと言うだろうか。それでもいいとは思っている。しかし、2人にさせた方が良いと思った。
「行ってこい。ただし玄関先で話せ。俺は近くで待つ」
黒崎が朝陽の肩を軽く叩いた。みんなも頷いていた。そして、レモンが朝陽の足元にすり寄って、小さく吠えた。そこで母が目を細めて言った。
「ね、レモンも分かるのよ。あなたが優しい子だって」
「そうなのかーー……」
朝陽がレモンの頭を撫でた。指先が震えていたが、その震えにはもう涙の影はなかった。
「ありがとう。俺、もう泣かないよ」
その一言を聞いて、俺は笑いながらも、心がじーんと痛んだ。
(泣かない、か。本当は、泣いてもいいんだ。泣くことを恐れないでほしい。でも、朝陽がそう言うなら、きっともう大丈夫だ……)
窓の外は暗闇が広がり、リビングの壁を天井の照明が白く染めていた。家族の声、湯呑の音、レモンの小さな鳴き声。それらが重なって、ひとつの優しい時間を作っていた。この家の中には、ちゃんと居場所がある。血の繋がりよりも強い、温もりがある。
俺はゆっくり息を吐いて、窓の外を見つめた。明日は晴れるらしい。雲の切れ間からこぼれる光のように、俺たちの時間も、少しずつ晴れていく気がした。
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