929 / 938
25-33
しおりを挟む
朝陽は最初は一人で結果を見たいと言っていた。俺の方も彼がそう言うのならそうした方がいいと口にしたことがあったが、今になって、とても同意できることではないと思った。
「えーーっとね……。倉口のお父さんがお父さんじゃなかった。実父、谷本誠太、99.9%だってさ……」
「ああ……」
俺は目を閉じて、深く息を吸い込んだ。予想していたことだった。それでも、胸の奥がじんわり痛んだ。そして、言葉を選ぶようにして、ゆっくりと口を開いた。
「そうだったんだね……」
「うん……。なんか、変な感じ。この4日間、ずっと考えてたけど、実際にお父さんとは“違う”っていう文字を見た瞬間、頭の中が真っ白になったよ。でも……、泣いたら、少し楽になった」
電話の向こうで、朝陽が少し笑った。その笑い声には、ほんの少し涙の跡が混ざっていたが、ちゃんと前を向こうとする音があった。
「俺さ、怖かったんだよ。違ったらどうしようって。……でも、六槍君が、“血が繋がっていなくても、君のことを家族にしたい人はたくさんいる”って言ってくれて……。それ聞いたら、少し救われたんだ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。六槍さんの優しさを感じたからだ。
「……いい人だね、六槍さん」
「うん。すごくいい人だよ」
その言葉の後に、少し照れくさそうな笑い声が混ざった。あの空港での電話の時のように。顔を赤らめて、でも、嬉しそうに笑っている姿が目に浮かんだ。
「夏樹。本当にありがとう。話を聞いてくれて。今日ここまで来られたよ」
「そんなことないよ。……朝陽が頑張ったんだ」
「これから、六槍君とカフェに行ってくるよ。少し、風に当たりたいから」
「うん。気をつけて。……それと、今日はゆっくり休めよ」
「うん。ありがとう」
電話が切れた後、俺はスマホを静かにカウンターに置いた。そして、ホッと息をついた。朝陽が落ち着いていたからだ。血のつながりではなく、心のつながりで支え合える関係が大事だと思う。朝陽は今、その真ん中にいる。窓の外では、クーラーからの風が、カーテンをやさしく揺らしていた。
そして、5分ぐらいぼうっとしていると、キッチンの時計が11時55分を指した。外では相変わらず蝉が鳴いているが、その声さえも、少し遠く感じた。俺はシンクの前に立ったまま、ぼんやりとカーテン越しの光を眺めた。朝陽の声が、まだ耳の奥に残っている。泣いた後に少し笑っただろう、あの柔らかい声。あれを聞けただけで、今日という日はもう十分だったのかもしれない。
すると、またスマホが震えた。画面を見ると、黒崎からの電話だとわかった。朝陽の方には電話しなかったのだろうか。それとも、短い電話をしたのだろうか。
「……もしもし?」
「夏樹。今、大丈夫か?」
低く、落ち着いた声がスピーカーから響いてきた。すると、背筋が自然と伸びた。そして、黒崎の話を聞いてみると、今、朝陽と電話で話したところだそうだ。黒崎はもう結果が分かっている。ママが言っていた通りの結果だ。
「俺の方にも朝陽から電話があったよ。5分ぐらい前だよ。あんたにラインを送った後だって言っていたよ」
「そう言っていた。俺の方からかけたら話し中になった。やっぱりお前と電話中だったのかと思った」
「結果のことも聞いたよね?」
「ああ、聞いた。やはり、という結果だったな」
黒崎の声は静かだったが、その奥には複雑な感情が隠れていた。驚きではなく、深い納得と、少しの痛みがあると思った。
「黒崎さん。あんたこそ、今、大丈夫なの?」
「会議室を抜け出したところだ。少し、頭を冷やしたくてな。部下に“少し外します”と言って出てきた」
「あんたらしいね」
「……らしいとはなんだ。真面目に話している」
「これからどうするの?朝陽はママと話したいって言っていたよ。電話だけでも話させてあげたらどうかな?」
「いや、まだ片付いていない。すべてが終わった後にさせる。母には問題がある。言い方も態度もだ。朝陽には嫌な思いをさせたくない」
「それを言ってあげなよ。お前は後ろで待っていろみたいに言うから、朝陽が自分には力がないって落ち込むんだろ。お前に嫌な思いをさせたくないって、それだけでも言えよ。あんたが言わないなら、俺から言うよ。六槍さんがそばにいるから大丈夫だけどさ。カフェに行くんだって」
「そう言っていた。また食事に呼ぶ。すまないが、電話を切る。来客だ」
「うん。わかったよ。また後でね」
プツ。電話を切った。黒崎はこれから忙しくなる。まずは倉口さんと谷本さんへの連絡という大事な要件が待っている。そして、ママにも。俺は今回のことが彼らの未来を大きく変えることになるのだと思い、緊張してきた。そして、こういうときほど日常に戻ることにした。そこで、タオルケットを抱えて、洗濯機まで持っていくことにしたのだった。
「えーーっとね……。倉口のお父さんがお父さんじゃなかった。実父、谷本誠太、99.9%だってさ……」
「ああ……」
俺は目を閉じて、深く息を吸い込んだ。予想していたことだった。それでも、胸の奥がじんわり痛んだ。そして、言葉を選ぶようにして、ゆっくりと口を開いた。
「そうだったんだね……」
「うん……。なんか、変な感じ。この4日間、ずっと考えてたけど、実際にお父さんとは“違う”っていう文字を見た瞬間、頭の中が真っ白になったよ。でも……、泣いたら、少し楽になった」
電話の向こうで、朝陽が少し笑った。その笑い声には、ほんの少し涙の跡が混ざっていたが、ちゃんと前を向こうとする音があった。
「俺さ、怖かったんだよ。違ったらどうしようって。……でも、六槍君が、“血が繋がっていなくても、君のことを家族にしたい人はたくさんいる”って言ってくれて……。それ聞いたら、少し救われたんだ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。六槍さんの優しさを感じたからだ。
「……いい人だね、六槍さん」
「うん。すごくいい人だよ」
その言葉の後に、少し照れくさそうな笑い声が混ざった。あの空港での電話の時のように。顔を赤らめて、でも、嬉しそうに笑っている姿が目に浮かんだ。
「夏樹。本当にありがとう。話を聞いてくれて。今日ここまで来られたよ」
「そんなことないよ。……朝陽が頑張ったんだ」
「これから、六槍君とカフェに行ってくるよ。少し、風に当たりたいから」
「うん。気をつけて。……それと、今日はゆっくり休めよ」
「うん。ありがとう」
電話が切れた後、俺はスマホを静かにカウンターに置いた。そして、ホッと息をついた。朝陽が落ち着いていたからだ。血のつながりではなく、心のつながりで支え合える関係が大事だと思う。朝陽は今、その真ん中にいる。窓の外では、クーラーからの風が、カーテンをやさしく揺らしていた。
そして、5分ぐらいぼうっとしていると、キッチンの時計が11時55分を指した。外では相変わらず蝉が鳴いているが、その声さえも、少し遠く感じた。俺はシンクの前に立ったまま、ぼんやりとカーテン越しの光を眺めた。朝陽の声が、まだ耳の奥に残っている。泣いた後に少し笑っただろう、あの柔らかい声。あれを聞けただけで、今日という日はもう十分だったのかもしれない。
すると、またスマホが震えた。画面を見ると、黒崎からの電話だとわかった。朝陽の方には電話しなかったのだろうか。それとも、短い電話をしたのだろうか。
「……もしもし?」
「夏樹。今、大丈夫か?」
低く、落ち着いた声がスピーカーから響いてきた。すると、背筋が自然と伸びた。そして、黒崎の話を聞いてみると、今、朝陽と電話で話したところだそうだ。黒崎はもう結果が分かっている。ママが言っていた通りの結果だ。
「俺の方にも朝陽から電話があったよ。5分ぐらい前だよ。あんたにラインを送った後だって言っていたよ」
「そう言っていた。俺の方からかけたら話し中になった。やっぱりお前と電話中だったのかと思った」
「結果のことも聞いたよね?」
「ああ、聞いた。やはり、という結果だったな」
黒崎の声は静かだったが、その奥には複雑な感情が隠れていた。驚きではなく、深い納得と、少しの痛みがあると思った。
「黒崎さん。あんたこそ、今、大丈夫なの?」
「会議室を抜け出したところだ。少し、頭を冷やしたくてな。部下に“少し外します”と言って出てきた」
「あんたらしいね」
「……らしいとはなんだ。真面目に話している」
「これからどうするの?朝陽はママと話したいって言っていたよ。電話だけでも話させてあげたらどうかな?」
「いや、まだ片付いていない。すべてが終わった後にさせる。母には問題がある。言い方も態度もだ。朝陽には嫌な思いをさせたくない」
「それを言ってあげなよ。お前は後ろで待っていろみたいに言うから、朝陽が自分には力がないって落ち込むんだろ。お前に嫌な思いをさせたくないって、それだけでも言えよ。あんたが言わないなら、俺から言うよ。六槍さんがそばにいるから大丈夫だけどさ。カフェに行くんだって」
「そう言っていた。また食事に呼ぶ。すまないが、電話を切る。来客だ」
「うん。わかったよ。また後でね」
プツ。電話を切った。黒崎はこれから忙しくなる。まずは倉口さんと谷本さんへの連絡という大事な要件が待っている。そして、ママにも。俺は今回のことが彼らの未来を大きく変えることになるのだと思い、緊張してきた。そして、こういうときほど日常に戻ることにした。そこで、タオルケットを抱えて、洗濯機まで持っていくことにしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~
野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。
残念ながら話もできたし、触ることもできた。
様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。
そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。
厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。
きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。
それから五年。
地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。
真詞の運命が大きく動き出す。
人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半)
別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半)
・前半 巡(人外)×真詞
・後半 岬(人間)×真詞
※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。
※ キスを二回程度しかしないです。
※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。
※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる