【完結】王国中の穢れを集める「毒の器」の私を捨てた国王様へ。銀狼騎士団長の十年来の執着で「愛の器」になったので、二度と戻りません。

Marine

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# Act17. 盗賊の宝①

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 十年前の日記を読み終えた私は、茫然としていた。
 確かに、後宮に入る前後の記憶があいまいだし、なぜ入ったのかも覚えていない。
 気付いたら「毒の器」として後宮にある西の離宮にいた。
 その結界の中でないと、毒を集めてしまう私は生きられないと言われて……。
 
 そのとき、重い音を立てて扉が開いた。
 そこにいたのは、私より蒼白な顔をしたアレクセイだった。
 
「……これ、本当なの?」

 私は一冊目の日記を彼に示した。
 
「ああ、本当だ。……驚いたか? 記憶がない君には……気味が悪いだろう」
「お、驚きはしたけど、でも……」

 私が立ち上がると、彼は「来なくていい」と低く呟いた。

「……ゆっくりと説明するつもりだった。君の忘れていた十年前のことを」

 彼の声が低く掠れた。

「私は、君を守れなかった。十年も、辛い役目を強いてしまった。ただ一人、つがいと決めた女なのに」

 彼は私を真っすぐに見ていた。
 まるで、判決を待つ罪人のような顔。
 私がどんな反応をするのか、不安に思っているのだ。
 この日記に書かれた、十年分の重すぎる愛を「気持ち悪い」と拒絶するのか、それとも「守ってくれなかった」といって責めるのか……と。

(……馬鹿な人)

 私は一歩、彼に近づいた。
 確かに記憶はない。
 でも、本能が告げている。
 目の前で震えているこの人は、私と同じくらい……ううん、私よりも辛い道を歩いて来たんだ。
 私は自分の業だけを背負って生きて来たけど、この人は二人分の業を背負っている。

(だって、こんなに……痛いくらい、私を大切にしてくれているじゃない)

 私が手を伸ばすと、彼は反射的にびくりと身を引いた。
 その顔には、深い絶望と、私に触れることへの「怯え」があった。
 伸ばしかけた私の手が、宙を彷徨う。

「……無理しなくていい、怒っているんだろう? この日記の通り、十年前に私は君を、王宮に渡してしまった……」
「違います!」

 私は彼の言葉を遮って、逃げようとするその大きな手を両手で包み込んだ。
 革手袋越しに、彼の緊張が伝わってくる。
 私はそれを、自分の頬に強く押し当てた。

「恨んでなんていません……ただ、寂しかったの」
「……寂しい?」

 アレクセイが、呆然と私を見下ろした。

「ええ。あなたがこんなに一人で苦しんでいたのに、私は何も知らなくて……まるで片想いみたいに、あなたを遠くに感じて」

 日記を読んで一番に感じたのは、恐怖でも、恨みでもなかった。
 彼が十年もの間、たった一人でこの想いを抱え、誰にも言えずに戦ってきたことへの、胸が潰れるような切なさだった。
 湖で見た、一人ぼっちの彼の幻影が今の彼と重なる。

「10年も待っていてくれたんでしょう? ずっと、私を見ていてくれたんでしょう?」
「……ああ」
「だったら、もう離さないで。……私を、ひとりにしないで」

 それは、私の偽らざる本音だった。
 その瞬間、彼の凍り付いていた瞳の奥で、爆発が起こるのを見た。

「メル……ッ!」

 視界が反転した。
 気づけば私は彼に横抱きにされていて――彼は執務室の扉を蹴り開けた。
 まるで略奪してきた宝物のように、強く、痛いほど抱きしめられて。
 あのとき、本当は彼は雪の中でこうしたかったんだろうと、強く思った。

「ちょっ、アレクセイ様!?」
「もう離さない。君が逃げたいと言っても、もう遅い」

 廊下に出ると、外で控えていたカイとジーンが目を見開いている。

「当主、奥様をどこへ……」
「……誰も通すな。食事もいらん」

 これってもう……公に『エッチします』って宣言しているのと同じことよね?
 私はじわっと顔が熱くなるのを感じながら、彼にしがみついた。
 
 勢いよく扉を押し開けて、運ばれた先は彼の寝室だった。
 アレクセイは部屋の真ん中で立ち止まり、横抱きのまま私をぎゅっと抱きしめた。
 それは、分不相応な宝を手にして、狼狽している盗賊のようだった。

「あなたを……どこに置けばいい?」

 愛情に掠れた声に、心臓がおかしくなりそうだ。
 そんな声を聴いて平静でいられるわけがない。

「ベッドに」

 そう答えても、アレクセイは動かなかった。
 捕食者の目が、私を射抜いている。

「抑えきれそうにない……あなたへの気持ちが……溢れそうだ」

 私は抱きかかえられたまま、そっとアレクセイの後頭部に手を添えた。
 きっと、乱暴にしてしまうことを恐れているのね。
 でも私にはその熱が必要なのに。
 また彼の情欲に焼かれることを想像するだけで、不安で揺れていた心が満たされていく。
 
「ベッドで……私を愛してください」
 
 吸い寄せられるように唇が重なり――日没を告げる鐘の音が、遠く静かに響いた。
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