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「……舞踏会? サイラス様、今、私の耳は『地獄への片道切符』という不吉な言葉を検知したのですが。聞き間違いでしょうか」
私は、サイラス様に「耳元で冷風を扇いでもらう」という、この世で最も贅沢な涼を取りながら、半眼で彼を見上げました。
サイラス様の手には、金縁で縁取られた、見るからに重々しく、そして「重そうな」招待状が握られています。
「残念ながら、君の耳は正常だ。ベルゼイン王国から、新王太子妃……つまりメルティ嬢の正式な立太子と、二人の婚約を祝う記念舞踏会の招待状が届いた。……『かつての友として、ナタリー嬢にもぜひ出席してほしい』とさ」
「友、ですか。彼女、私の名前の綴りすら怪しかったはずですけれど。それに、サイラス様。舞踏会という行事が、どれほど反社会的な活動かご存じですか?」
「……反社会的? 社交の基本だと思うが」
「とんでもない。あんな重いドレスを着て、数時間も直立し、あまつさえ音楽に合わせて他人の足を踏まないようにステップを踏む……。それはもはや、軍隊の過酷な行軍訓練に他なりませんわ。私は平和主義者ですので、そのような暴力的な行事には関わりたくありません」
私はクッションの中に潜り込み、招待状を視界から抹消しました。
「それに、ダンス一曲で消費されるカロリーを計算してみてください。そのエネルギーがあれば、私はあと三日は動かずに済みますのよ。国家的な資源の無駄遣いですわ」
「ははは、確かに君を躍らせるには、国中の魔力をかき集めて浮遊魔法でもかけない限り無理だろうね。……だが、彼らの狙いは別にある。君の帰還を公の場で示し、あわよくば『やっぱりナタリーがいないと国が回らないから助けてくれ』と泣きつきたいんだろう」
サイラス様は、私の隣に横たわり、招待状を無造作にテーブルへ放り出しました。
「……ナタリー。君、あちらの国で『予備の備蓄倉庫』の鍵の場所、誰にも教えずにこっちへ来たな?」
「あら、バレました? だって、聞かれませんでしたもの。教えるという行為も、声帯を震わせるというコストがかかります。質問されないことに対して、自らエネルギーを割くなんて、そんな非効率なことはいたしませんわ」
「そのせいで、あちらの騎士団は今、予備の矢も食料も取り出せずに、倉庫の扉を斧で壊そうとしているらしいぞ。……もっとも、君が設置させたあの扉は、ドラゴンのブレスにも耐える特殊合金だったな」
「……懐かしいですわね。あの扉の設計図を書くときも、私は寝ながら口頭で指示を出しただけですけれど」
私は満足げに目を細めました。
「サイラス様。返事はこう書いてください。『ナタリーは現在、新種の重力病(※私が今作った病名です)に罹患しており、一歩でも歩くと命の保証ができないため、出席は叶わない。代わりに、彼女の抜け殻のような肖像画でも送るから、それを玉座にでも飾っておけ』と」
「……重力病。それは、地球に引き寄せられる力が人一倍強い、という理解でいいかい?」
「正解です。私は今、地球と相思相愛なのです。離れるなんて考えられません」
サイラス様は、私の額に優しく唇を寄せました。
「分かった。君の『愛の告白(地球への)』を尊重して、最高に無礼な断り状を出しておこう。……ただ、ナタリー。彼らは多分、これでは諦めない。招待状の次は、実力行使……つまり、直接君を奪いに来る可能性がある」
「……奪いに来る? 私を、この快適なソファーから引き剥がそうというのですか?」
「ああ。君という『歩く国家機密』を、彼らは喉から手が出るほど欲しがっているからね」
私は、生まれて初めて(比喩ではなく)「殺意」に近い感情を抱きました。
「……もし、私の睡眠を妨げる者が現れたら。その時は、サイラス様。私が以前、暇つぶしに考案した『指一本で城門を封鎖するトラップ』の起動スイッチを、貴方に差し上げますわ」
「……ナタリー、君。そんな恐ろしいものを隠し持っていたのか」
「何もしないためには、他人が何もできないようにするのが一番の近道ですから」
私は再び、サイラス様の腕の中に収まりました。
外では元の国の使者が、返事を待って震えているかもしれませんが、私の知ったことではありません。
今の私にとって最も重要な課題は、次のティータイムで運ばれてくるスコーンに、いかに腕を動かさずにジャムを塗らせるか。
それだけなのですから。
私は、サイラス様に「耳元で冷風を扇いでもらう」という、この世で最も贅沢な涼を取りながら、半眼で彼を見上げました。
サイラス様の手には、金縁で縁取られた、見るからに重々しく、そして「重そうな」招待状が握られています。
「残念ながら、君の耳は正常だ。ベルゼイン王国から、新王太子妃……つまりメルティ嬢の正式な立太子と、二人の婚約を祝う記念舞踏会の招待状が届いた。……『かつての友として、ナタリー嬢にもぜひ出席してほしい』とさ」
「友、ですか。彼女、私の名前の綴りすら怪しかったはずですけれど。それに、サイラス様。舞踏会という行事が、どれほど反社会的な活動かご存じですか?」
「……反社会的? 社交の基本だと思うが」
「とんでもない。あんな重いドレスを着て、数時間も直立し、あまつさえ音楽に合わせて他人の足を踏まないようにステップを踏む……。それはもはや、軍隊の過酷な行軍訓練に他なりませんわ。私は平和主義者ですので、そのような暴力的な行事には関わりたくありません」
私はクッションの中に潜り込み、招待状を視界から抹消しました。
「それに、ダンス一曲で消費されるカロリーを計算してみてください。そのエネルギーがあれば、私はあと三日は動かずに済みますのよ。国家的な資源の無駄遣いですわ」
「ははは、確かに君を躍らせるには、国中の魔力をかき集めて浮遊魔法でもかけない限り無理だろうね。……だが、彼らの狙いは別にある。君の帰還を公の場で示し、あわよくば『やっぱりナタリーがいないと国が回らないから助けてくれ』と泣きつきたいんだろう」
サイラス様は、私の隣に横たわり、招待状を無造作にテーブルへ放り出しました。
「……ナタリー。君、あちらの国で『予備の備蓄倉庫』の鍵の場所、誰にも教えずにこっちへ来たな?」
「あら、バレました? だって、聞かれませんでしたもの。教えるという行為も、声帯を震わせるというコストがかかります。質問されないことに対して、自らエネルギーを割くなんて、そんな非効率なことはいたしませんわ」
「そのせいで、あちらの騎士団は今、予備の矢も食料も取り出せずに、倉庫の扉を斧で壊そうとしているらしいぞ。……もっとも、君が設置させたあの扉は、ドラゴンのブレスにも耐える特殊合金だったな」
「……懐かしいですわね。あの扉の設計図を書くときも、私は寝ながら口頭で指示を出しただけですけれど」
私は満足げに目を細めました。
「サイラス様。返事はこう書いてください。『ナタリーは現在、新種の重力病(※私が今作った病名です)に罹患しており、一歩でも歩くと命の保証ができないため、出席は叶わない。代わりに、彼女の抜け殻のような肖像画でも送るから、それを玉座にでも飾っておけ』と」
「……重力病。それは、地球に引き寄せられる力が人一倍強い、という理解でいいかい?」
「正解です。私は今、地球と相思相愛なのです。離れるなんて考えられません」
サイラス様は、私の額に優しく唇を寄せました。
「分かった。君の『愛の告白(地球への)』を尊重して、最高に無礼な断り状を出しておこう。……ただ、ナタリー。彼らは多分、これでは諦めない。招待状の次は、実力行使……つまり、直接君を奪いに来る可能性がある」
「……奪いに来る? 私を、この快適なソファーから引き剥がそうというのですか?」
「ああ。君という『歩く国家機密』を、彼らは喉から手が出るほど欲しがっているからね」
私は、生まれて初めて(比喩ではなく)「殺意」に近い感情を抱きました。
「……もし、私の睡眠を妨げる者が現れたら。その時は、サイラス様。私が以前、暇つぶしに考案した『指一本で城門を封鎖するトラップ』の起動スイッチを、貴方に差し上げますわ」
「……ナタリー、君。そんな恐ろしいものを隠し持っていたのか」
「何もしないためには、他人が何もできないようにするのが一番の近道ですから」
私は再び、サイラス様の腕の中に収まりました。
外では元の国の使者が、返事を待って震えているかもしれませんが、私の知ったことではありません。
今の私にとって最も重要な課題は、次のティータイムで運ばれてくるスコーンに、いかに腕を動かさずにジャムを塗らせるか。
それだけなのですから。
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