華甲二年の再会

有嶺哲史

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第二章  華甲二年の再会(後半)

弓美子の秘術

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 隣室の有嶺に、ふらつく比良野がついに意識を失い倒れこんだのが見えた。
ここから患者の弓美子と医師の比良野の主客転倒した儀式になった。
淫靡な秘術が大きな総合病院のれっきとした内視鏡検査室で始まった。
ナースは点滴ラインを閉じて弓美子を起こした。
奇怪な秘儀が始まると楚々としていた美女は異国のどぎつい巫女のように変わっていった。
有嶺の耳に経典を読むような呪術的だが格調ある声が聞こえた。


▽ ▽ ▽

この忌まわしき女を妻とせよ 寄る年波に緑なす黒髪は抜け落ち……
若き日々は遥か遠し 衰亡の行く先……
古き根を強固ならしめよ 先端を高く伸ばせ 中央を太しく拡げよ 女中を電撃もて襲え……
汝の幸運 魅力 勇士の香り そして乙女の輝き そを我に……
復活の青白き炎は 偉大なるブラフマンの輝きなり……

△ △ △


比良野と弓美子の周囲を囲むように屏風が置かれた。
それらは唐天竺本朝の絵柄だった。
唐の絵柄は裸美人集合図、天竺の絵柄は男女の菩薩の性交図、本朝風の絵柄は梅の花と鳥を愛でる平安貴族であった。
有嶺のモニターには囲われた内部がよく映っていた。
ここからとても書けないような事が行われ、見ている有嶺達も普通のエロさの何倍ものどぎついものに巻き込まれた。
倒れた比良野の耳元で弓美子が何か唱えていた。

 なんかすごい、とんでもないことになってきた。
近代的病院の中で古代インドの呪文が聞こえている。
青白い炎が上がった。
匂いを嗅いだ有嶺まで妙な気分になり始めた。
さらに弓美子は異国語の呪文を唱え始めた。
そのまま比良野に寄り添い、耳元で何か言いながら自らの着衣を珍しいインド神話的な僅かな装飾だけのものに着替え、比良野の下半身を裸にし体を密着した。
弓美子の体はなお若々しく魅力に溢れ引き締まっていた。
比良野はずっと寝ていた。
弓美子はずっと動きながらあえいでいた。
見ていた隣室の有嶺たち二人もいつの間にか体をぴったり寄せ合って固唾を飲んでモニターを見ながら二人の体は弓美子の呪文につられて一緒にリズミカルに動いていた。

 比良野と弓美子はヤブユム(男女合体仏)の姿になった。
若い頃手をつなぐことも無く想いあっていた二人を知っている有嶺には遥か過ぎ去った長き時間を繰り畳ねるため、性の快楽を使って一気に願望をかなえようとする女に見えた。
比良野は途中で何度か体がこわばり目を醒ましそうになったが、その度弓美子が気づいてなにかして再び彼の眠りは深くなった。



 そのあとどんどん凄くなっているのに有嶺と美矢子はモニターから目を離していて見ていなかった。
こちらの二人も次の様なことをしていたからだ。
弓美子の変貌に驚きふりかえって美矢子を見た時、肉食獣のように興奮した美矢子がハアハアしながら有嶺に向かってきた。
美矢子の口を塞がなければならない、と思っているうち逆に美矢子の口で有嶺の口は塞がれ、むさぼられた。
仰向けになった美矢子がパンツを脱ごうとして脚にひっかかってもがいているので、有嶺がスルッと脱がし丸めて勢いよく遠方に投げ捨てた。
途端に美矢子に飛び掛かられのしかかられた。
その重量で呼吸ができず気を失った。
デブ女に惚れられたスパイヒーローの恐怖を味あわされた。



 有嶺が気づいた時、別室で待つ助手のおっぱいナースは背中をこちらに向けて紙をちぎっては投げちぎっては投げていて、いかにもつまらなさそうに一人椅子に座って待っていた。
その清楚なうなじは寂しげで哀れだった。
検査室の弓美子達の様子から刺激を受けていたナースはとうとう我慢できなくなり着衣を下げて自らを慰め続けた。
眼を閉じた顔は若々しい女神のようで頬が赤くなって息がはずんでいた。
これほどの美人が他人に見られているとも知らずこんな恥ずかしいことをやり始める迂闊さと素直さに有嶺は親しみを感じた。



▼ ▼ ▼

 吸い込まれた比良野は大腸の中を泳ぎながらひだを搔きわけどんどん奥に進んで行った。
内視鏡が光源になって大腸を透かして周囲の臓器が見えた。

「あれが弓美子の子宮か。この大腸ポリープ、ちょっと硬い、でもこの程度なら……おお、大腸憩室だ。やっぱり年……おや?」

弓美子の大腸の内膜は美しい春の野の夕方になった。
彼は平安朝の高位の若い貴族になった。
心も若返っていた。
遠くの木の上にとまっている鳥を見ていると、彼と出世を争う敵に見えてきた。
狙って矢を放ったが命中しなかった。
そのとき俄かに五色ごしきの花びらが降り始めた。
少し離れた所に天女姿の若い弓美子が立っている。
声をかけると彼女はひとさし舞って応えた。
天女花が揺れて



羽衣は風に膨らみ花に和し
見渡せば春霞たなびく先は月の影
富士の高嶺のかすかになりて



彼女は泣きながら比良野に言った。

「どうしてあなたは私の想いに応えてくださらなかったの?」

比良野は昔、弓美子が泣きながら退職した時の申し訳なさを思い出した。

「あのときは本当に申し訳なかった。これからは君の言う通り何でもする」

「私の願いを聞いてくださる?」

「わかった」

弓美子は微笑んだ。

「私のために、院長選挙の立候補を辞退してね」

「わかった」

違うことを言おうとしても出てくるのはこの言葉だけだった。
大腸が動き始め比良野は外に送り出された。

▲ ▲ ▲ 



比良野と弓美子の長い行為も終わるころナースによって屏風は片づけられ比良野の着衣も病院の壁掛け時計の針も含めて全て比良野が倒れる前の状態に戻された。
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