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東の森にある没落貴族の屋敷
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セレノアの街を出て、十分程東へと向かい、森の中へと入る。するとこの場所には似つかわしくない、大きな屋敷が姿を見せる。
「いつ見ても大きいなあ」
森の中に、学校の体育館くらい大きな屋敷があるなんて、誰も思わないよな。
俺のじいさんが建てたらしいけど、なぜこんな所にと今でも思う。
昔は大勢いたのかもしれないけど、今はこの大きな屋敷には四人しか住んではいない。
そしてその内の一人が門の入口で俺を待ち構えていた。
「ユート様お帰りなさいませ」
「今戻りました」
俺を待っていてくれたのは料理人のソルトさん。二十八歳独身で、俺が生まれる前からこの屋敷に仕えてくれている。ソルトさんは料理もさることながら知識も豊富で、この世界のことは彼から学ばさせてもらった。俺の家庭教師の内の一人である。
「トア様の所へ向かいますか?」
「うん。女神の祝福の結果を伝えたいからね」
「それは楽しみですね。私も気になります」
「それじゃあ一緒にトアの所へ行こう」
「承知しました」
俺は子供のような口調で返答する。
さすがに十歳の男の子が大人っぽく返答すると、おかしく思われてしまうからだ。
だから多少疲れるが、この世界では年相応に見られるよう、演技をしていた。
そして俺はソルトさんを引き連れて屋敷へと入り、トアの部屋へと向かう。
トントン
「どうぞ」
ドアをノックすると若い女性の声が返ってくる。
俺は部屋のドアを開くと、中にはメイド姿の女性とベッドに横たわっている女の子の姿があった。
「ユートくんお帰りなさい」
「ただいま」
メイドの女性⋯⋯セリカさんがこちらに向かって一礼する。
「おか⋯⋯え⋯⋯り⋯⋯なさ⋯⋯い」
そしてベッドに横たわっている少女⋯⋯妹のトアは、か細い声で出迎えてくれた。
もう喋るのも大変そうだな。
トアは会った頃から病弱で、日に日に身体が弱っていた。
以前は歩くことも出来ていたが、最近では筋力が低下してベッドを出ることもままならない。
このままだと喉の筋力低下で痰が出せなくなり、呼吸が出来なくなる。最悪心臓を動かす筋力が低下してしまったら⋯⋯考えたくもないな。
そのため医療系のジョブを使ってトアを治せればと思ったが。
だけど今は迷っている暇はない。トアの身体がいつまで持つかわからないのだから。
「ただいまトア」
本当はトアに寄り添って上げたいが、俺は自重した。
今のトアは些細なことで重症化する可能性がある。もし俺から風邪でも移ればそれが命取りになりかねない。
だから基本トアの看病は、セリカさんが見てくれている。
「ユートくん、祝福の結果はどうでした?」
「残念だけど医療系のジョブじゃなかったよ」
「そうですか⋯⋯」
セリカさんとソルトさんが暗い表情を見せる。
二人とも俺が何を望んでいるかわかっているから当然か。
「でも女神様から頂いたジョブも悪くないよ」
「それはいったいどんなジョブですか?」
「カードマスターだって」
「カードマスター? 初めて聞きますね」
俺は祝福をもらった時、頭に入ってきた内容を説明しようとするが。
「没落貴族はジョブも没落してるんじゃないか!」
「いつもすかした顔をして気に入らないんだよ!」
「ネネちゃんの心を奪いやがって!」
しかし突然窓の外から罵声が聞こえてくる。
どうやら子供達が何やら騒いでいるようだ。
「何ですか? あの子達は」
「どうやらクールなユート様が、おモテになるのを許せないといった所でしょうか」
ソルトさんが少し恥ずかしい分析を口にする。
「とりあえずうるさいので、私が行ってきますね」
セリカさんはそう言うと、一目散にこの部屋から出ていく。
大丈夫かな?
ちなみにこの時俺が心配しているのはセリカさんではなく、子供達の方だ。
セリカさんはバトルメイドというジョブを持ち、俺の剣の師匠である。
恐怖を植え付けられなければいいが⋯⋯
そして二分程経つと、セリカさんは部屋に戻ってきた。
「失礼しちゃいますね」
「どうしたの?」
「あの子達私のことを鬼だって言うんですよ」
「それはセリカが何かしたからではないでしょうか」
俺はソルトさんの言葉に心の中で同意する。
「ちょっとおでこにデコピンをしたら、尻餅ついちゃっただけですよ」
尻餅つく程のデコピンって相当痛いのではなかろうか。
だけどトアのいる場所で騒いだんだ。例え本人の耳に聞こえてなくても、報いを受けるのは当然のことだな。
「あれは最近羽振りがいいと言われている、商家の子供ですよ。確か名前はドイズだったような⋯⋯」
「まあセリカにおしおきされたことですし、もう来ることはないでしょう。万が一来ることがあれば、その時は私が対処致します」
二人が優秀な人材だと言うのはよくわかっている。
子供相手に遅れを取ることはないだろう。
「それよりユート様のジョブの方が気になります。そのために急いで戻って来たんですよ」
「僕のジョブ? え~と⋯⋯カードマスターの能力だけど――」
俺は現時点でわかっていることを三人に伝える。
「なるほど⋯⋯それは面白い能力ですね」
「使い方次第では、とても強力なジョブになると思います」
どうやら二人も俺と同じで。カードマスターについて好意的なようだ。
「それでこれからは、トアの病を治す方法を探すために、冒険者になるよ」
「「えっ!」」
これは前々から考えていたことだ。このままここにいてもトアの病は改善しない。それなら外の世界でその方法を探す方がいい。何しろここは魔法と不思議が溢れる異世界だからな。きっとトアを元気にする方法があるはずだ。それに冒険者は命の危険はあるけど、金回りの良い職業でもある。金があれば病を治す薬が買えるかもしれないし、人に探させることも可能だ。
幸いなことに十歳になり女神の祝福を受ければ、冒険者ギルドに登録することができるからな。
「ま、まさかユートくん、一人で行くつもりですか?」
「せめて私かセリカのどちらかを連れていって下さい」
「ううん⋯⋯二人はトアの側にいて。二人がトアの側にいてくれたら、僕は安心して病を治す方法を探しに行けるから」
俺の両親は既に死別しているので、信用できる人はソルトさんとセリカさんしかいない。
二人がいてくれれば、トアのことは安心して任せられる。
「そんなことを言われると反対出来ないです」
「わかりました。このお屋敷とトア様のことは私とセリカにお任せください」
「いくら修行したからといって、油断しちゃダメですよ」
「大丈夫。僕を指導してくれた先生が優秀だから」
「えへへ⋯⋯それって私のことですか? そんなことないですよ」
「それに冒険者になったからといって、すぐにここを離れる訳じゃないから。まずは情報収集をしてから目的の場所に出発するよ」
冒険者は護衛任務や討伐依頼で、様々な場所に行くことがある。もしかしたら、トアの病を治す方法を知っている者がいるかもしれない。
「とりあえず冒険者ギルドに行って、冒険者の登録をしてくるね」
日はまだ高い。
今日中に冒険者ギルドに登録することが出来るはずだ。
「ユート様、いってらっしゃいませ」
「ユートくんがんばってね」
「おに⋯⋯い⋯⋯ちゃん⋯⋯無理⋯⋯し⋯⋯ない⋯⋯で⋯⋯」
「わかってるよ」
俺は答えたこととは裏腹なことを考えている。
今無理しないでいつ無理をするんだ。何もせずトアを失ったら、俺は一生後悔するだろう。
俺は改めてトアの身体を治す決意をして、セレノアにある冒険者ギルドへと向かうのだった。
「いつ見ても大きいなあ」
森の中に、学校の体育館くらい大きな屋敷があるなんて、誰も思わないよな。
俺のじいさんが建てたらしいけど、なぜこんな所にと今でも思う。
昔は大勢いたのかもしれないけど、今はこの大きな屋敷には四人しか住んではいない。
そしてその内の一人が門の入口で俺を待ち構えていた。
「ユート様お帰りなさいませ」
「今戻りました」
俺を待っていてくれたのは料理人のソルトさん。二十八歳独身で、俺が生まれる前からこの屋敷に仕えてくれている。ソルトさんは料理もさることながら知識も豊富で、この世界のことは彼から学ばさせてもらった。俺の家庭教師の内の一人である。
「トア様の所へ向かいますか?」
「うん。女神の祝福の結果を伝えたいからね」
「それは楽しみですね。私も気になります」
「それじゃあ一緒にトアの所へ行こう」
「承知しました」
俺は子供のような口調で返答する。
さすがに十歳の男の子が大人っぽく返答すると、おかしく思われてしまうからだ。
だから多少疲れるが、この世界では年相応に見られるよう、演技をしていた。
そして俺はソルトさんを引き連れて屋敷へと入り、トアの部屋へと向かう。
トントン
「どうぞ」
ドアをノックすると若い女性の声が返ってくる。
俺は部屋のドアを開くと、中にはメイド姿の女性とベッドに横たわっている女の子の姿があった。
「ユートくんお帰りなさい」
「ただいま」
メイドの女性⋯⋯セリカさんがこちらに向かって一礼する。
「おか⋯⋯え⋯⋯り⋯⋯なさ⋯⋯い」
そしてベッドに横たわっている少女⋯⋯妹のトアは、か細い声で出迎えてくれた。
もう喋るのも大変そうだな。
トアは会った頃から病弱で、日に日に身体が弱っていた。
以前は歩くことも出来ていたが、最近では筋力が低下してベッドを出ることもままならない。
このままだと喉の筋力低下で痰が出せなくなり、呼吸が出来なくなる。最悪心臓を動かす筋力が低下してしまったら⋯⋯考えたくもないな。
そのため医療系のジョブを使ってトアを治せればと思ったが。
だけど今は迷っている暇はない。トアの身体がいつまで持つかわからないのだから。
「ただいまトア」
本当はトアに寄り添って上げたいが、俺は自重した。
今のトアは些細なことで重症化する可能性がある。もし俺から風邪でも移ればそれが命取りになりかねない。
だから基本トアの看病は、セリカさんが見てくれている。
「ユートくん、祝福の結果はどうでした?」
「残念だけど医療系のジョブじゃなかったよ」
「そうですか⋯⋯」
セリカさんとソルトさんが暗い表情を見せる。
二人とも俺が何を望んでいるかわかっているから当然か。
「でも女神様から頂いたジョブも悪くないよ」
「それはいったいどんなジョブですか?」
「カードマスターだって」
「カードマスター? 初めて聞きますね」
俺は祝福をもらった時、頭に入ってきた内容を説明しようとするが。
「没落貴族はジョブも没落してるんじゃないか!」
「いつもすかした顔をして気に入らないんだよ!」
「ネネちゃんの心を奪いやがって!」
しかし突然窓の外から罵声が聞こえてくる。
どうやら子供達が何やら騒いでいるようだ。
「何ですか? あの子達は」
「どうやらクールなユート様が、おモテになるのを許せないといった所でしょうか」
ソルトさんが少し恥ずかしい分析を口にする。
「とりあえずうるさいので、私が行ってきますね」
セリカさんはそう言うと、一目散にこの部屋から出ていく。
大丈夫かな?
ちなみにこの時俺が心配しているのはセリカさんではなく、子供達の方だ。
セリカさんはバトルメイドというジョブを持ち、俺の剣の師匠である。
恐怖を植え付けられなければいいが⋯⋯
そして二分程経つと、セリカさんは部屋に戻ってきた。
「失礼しちゃいますね」
「どうしたの?」
「あの子達私のことを鬼だって言うんですよ」
「それはセリカが何かしたからではないでしょうか」
俺はソルトさんの言葉に心の中で同意する。
「ちょっとおでこにデコピンをしたら、尻餅ついちゃっただけですよ」
尻餅つく程のデコピンって相当痛いのではなかろうか。
だけどトアのいる場所で騒いだんだ。例え本人の耳に聞こえてなくても、報いを受けるのは当然のことだな。
「あれは最近羽振りがいいと言われている、商家の子供ですよ。確か名前はドイズだったような⋯⋯」
「まあセリカにおしおきされたことですし、もう来ることはないでしょう。万が一来ることがあれば、その時は私が対処致します」
二人が優秀な人材だと言うのはよくわかっている。
子供相手に遅れを取ることはないだろう。
「それよりユート様のジョブの方が気になります。そのために急いで戻って来たんですよ」
「僕のジョブ? え~と⋯⋯カードマスターの能力だけど――」
俺は現時点でわかっていることを三人に伝える。
「なるほど⋯⋯それは面白い能力ですね」
「使い方次第では、とても強力なジョブになると思います」
どうやら二人も俺と同じで。カードマスターについて好意的なようだ。
「それでこれからは、トアの病を治す方法を探すために、冒険者になるよ」
「「えっ!」」
これは前々から考えていたことだ。このままここにいてもトアの病は改善しない。それなら外の世界でその方法を探す方がいい。何しろここは魔法と不思議が溢れる異世界だからな。きっとトアを元気にする方法があるはずだ。それに冒険者は命の危険はあるけど、金回りの良い職業でもある。金があれば病を治す薬が買えるかもしれないし、人に探させることも可能だ。
幸いなことに十歳になり女神の祝福を受ければ、冒険者ギルドに登録することができるからな。
「ま、まさかユートくん、一人で行くつもりですか?」
「せめて私かセリカのどちらかを連れていって下さい」
「ううん⋯⋯二人はトアの側にいて。二人がトアの側にいてくれたら、僕は安心して病を治す方法を探しに行けるから」
俺の両親は既に死別しているので、信用できる人はソルトさんとセリカさんしかいない。
二人がいてくれれば、トアのことは安心して任せられる。
「そんなことを言われると反対出来ないです」
「わかりました。このお屋敷とトア様のことは私とセリカにお任せください」
「いくら修行したからといって、油断しちゃダメですよ」
「大丈夫。僕を指導してくれた先生が優秀だから」
「えへへ⋯⋯それって私のことですか? そんなことないですよ」
「それに冒険者になったからといって、すぐにここを離れる訳じゃないから。まずは情報収集をしてから目的の場所に出発するよ」
冒険者は護衛任務や討伐依頼で、様々な場所に行くことがある。もしかしたら、トアの病を治す方法を知っている者がいるかもしれない。
「とりあえず冒険者ギルドに行って、冒険者の登録をしてくるね」
日はまだ高い。
今日中に冒険者ギルドに登録することが出来るはずだ。
「ユート様、いってらっしゃいませ」
「ユートくんがんばってね」
「おに⋯⋯い⋯⋯ちゃん⋯⋯無理⋯⋯し⋯⋯ない⋯⋯で⋯⋯」
「わかってるよ」
俺は答えたこととは裏腹なことを考えている。
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