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母と娘の愛
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玉座の間を出た後。
「ユートくん、ちょっといいかしら」
俺は皇后様に呼び止められる。
「皇后様」
「皇后様なんて他人行儀なこと言わないで、フィリアでいいわ」
「そんな⋯⋯皇后様を名前で呼ぶなんて」
「あなたは特別よ」
フィリアさんがぐいぐいと距離を詰めてくる。
「先程も話しましたが、昨日私は死を覚悟したわ。だから今、こうしてゼノスやルリシアと話せることが本当に嬉しいの⋯⋯ありがとう」
フィリアさんは正面から抱きしめてきた。
「あっ!」
そして何故かルリシアさんから声が上がった。
く、苦しい⋯⋯顔が胸の中に埋もれているよ。子供の俺ではフィリアさんの抱擁になす術もなく、ただされるがままだ。
「お、お母様。公共の場で男の人に抱きつくのはどうかと思いますけど」
えっ? ルリシアさんがそれを言う? 今まで散々抱きしめてきたのは誰だと抗議したい。
「それにユートくんが苦しそうです。離してください」
「え~そんなことないわよね? ユートくんは私に抱きしめられて嬉しいよね?」
否定したい所だが、綺麗な女性に抱きしめられて、嬉しくない男はいない。
「う、うん」
俺は思わず正直な気持ちを口にしてしまった。
「ユートくんひどいよ。浮気者だよ」
えっ? 何故俺は浮気者扱いされなければならないんだ。
「ユートくんを抱きしめていいのは私だけなの! わかった?」
「⋯⋯うん」
俺はルリシアさんの迫力に押され、頷いてしまう。
そしてルリシアさんは俺の手を取り、フィリアさんから引き剥がすのであった。
「あらあら⋯⋯私のユートくんが取られてしまったわ」
「お母様のユートくんじゃありません! 私のです!」
あれ? 俺はいつからルリシアさんのものになったんだ? そうか、私の護衛って意味なのかな?
「娘が怒ってしまったわ。とりあえずからかうのはこのくらいにして――」
「からかってたの!」
どうやらフィリアさんはかなりお茶目な人のようだ。
ルリシアさんがさっきから良いように遊ばれている。
「ユートくんは私の命の恩人よ。何か私に出来ることがあったら何でも言ってね。力になるわ」
皇后であるフィリアさんが俺の力になってくれるのは嬉しい。それなら⋯⋯
「僕には妹がいて――」
俺はトアのことや病のことを話す。
「⋯⋯わかったわ。トアちゃんの病を治すために、私も協力するわ」
「本当ですか?」
「ええ⋯⋯まずはトアちゃんの症状を具体的に知りたいから、帝都のお医者さんに診てもらいましょう」
「ありがとうございます」
「ユートくんのお家はどこにあるのかな?」
「え~と⋯⋯僕の家はセレノアの――」
俺は屋敷のある場所を伝える。
「すぐにお医者さんを派遣するわ。それにしてもユートくんは本当に良い子ね。小さいのに妹のためにがんばっているなんて⋯⋯益々好きになっちゃったわ」
そして再びフィリアさんは抱きしめてきた。
「お母様! ユートくんはもう抱きしめないと約束したじゃありませんか!」
えっ? そんな約束してなくない? さっきから俺の知らない所で色々決められているように感じるが気のせいか?
「つい抱きしめたくなっちゃって」
フィリアさんはいたずらっ子のようにウインクをしながら舌をぺろりと出す。
ウインクって可愛く見せるのは意外と難しいけど、フィリアさんみたいな美人がやると絵になるな。
「⋯⋯ユートくん? 今お母様に見とれてなかった?」
ルリシアさんが普段聞かないような低い声で問い詰めてきた。これははいと答えたら恐ろしいことが起きてしまいそうだ。
「そ、そんなことないです」
「本当に?」
「⋯⋯うん」
「ふ~ん⋯⋯でもいいわ。ユートくんの役に立てるのはお母様だけじゃないから。ユートくん行きましょ」
「どこにですか?」
「もちろん禁書庫に決まっているじゃない」
禁書庫⋯⋯それはとても魅力的な提案だ。
「私も手伝うわね」
「お母様は来なくて大丈夫です」
「のけ者なんて、お母さん悲しいわ」
フィリアさんは娘に拒否されて涙を流す⋯⋯振りをした。
「そういう訳では⋯⋯」
しかし根が素直なルリシアさんは泣き真似に気づいていない。
「お母様はまだ万全の状態ではないはずです。今はゆっくり休んで下さい。もう二度と私を悲しい気持ちにさせないで下さいね」
そうだ。フィリアさんは昨日まで意識不明の状態だったんだ。ルリシアさんの言うとおり、今は無理をさせない方がいい。
「ありがとうルリシア⋯⋯私は大丈夫よ」
フィリアさんはルリシアさんを優しく抱きしめる。
「ルリシアの子供を抱っこするまで、死ねないっていつも言ってるじゃない」
「⋯⋯うん」
「もう大丈夫だから心配しないで」
「お母様も無理しないで下さい」
この二人は冗談も言えるし、本当に仲がいい親子だな。
俺ももっと母さんに親孝行したかった。だけどそれはもう叶わぬ願いだ。
今は母さんが亡くなった時の悲しみを再び味わわないためにも、禁書庫でトアを治す方法を見つけないと。
「それじゃあユートくん、行きましょう」
「うん」
そして俺とルリシアさんはトアの病について調べるため、禁書庫へと向かうのであった。
「ユートくん、ちょっといいかしら」
俺は皇后様に呼び止められる。
「皇后様」
「皇后様なんて他人行儀なこと言わないで、フィリアでいいわ」
「そんな⋯⋯皇后様を名前で呼ぶなんて」
「あなたは特別よ」
フィリアさんがぐいぐいと距離を詰めてくる。
「先程も話しましたが、昨日私は死を覚悟したわ。だから今、こうしてゼノスやルリシアと話せることが本当に嬉しいの⋯⋯ありがとう」
フィリアさんは正面から抱きしめてきた。
「あっ!」
そして何故かルリシアさんから声が上がった。
く、苦しい⋯⋯顔が胸の中に埋もれているよ。子供の俺ではフィリアさんの抱擁になす術もなく、ただされるがままだ。
「お、お母様。公共の場で男の人に抱きつくのはどうかと思いますけど」
えっ? ルリシアさんがそれを言う? 今まで散々抱きしめてきたのは誰だと抗議したい。
「それにユートくんが苦しそうです。離してください」
「え~そんなことないわよね? ユートくんは私に抱きしめられて嬉しいよね?」
否定したい所だが、綺麗な女性に抱きしめられて、嬉しくない男はいない。
「う、うん」
俺は思わず正直な気持ちを口にしてしまった。
「ユートくんひどいよ。浮気者だよ」
えっ? 何故俺は浮気者扱いされなければならないんだ。
「ユートくんを抱きしめていいのは私だけなの! わかった?」
「⋯⋯うん」
俺はルリシアさんの迫力に押され、頷いてしまう。
そしてルリシアさんは俺の手を取り、フィリアさんから引き剥がすのであった。
「あらあら⋯⋯私のユートくんが取られてしまったわ」
「お母様のユートくんじゃありません! 私のです!」
あれ? 俺はいつからルリシアさんのものになったんだ? そうか、私の護衛って意味なのかな?
「娘が怒ってしまったわ。とりあえずからかうのはこのくらいにして――」
「からかってたの!」
どうやらフィリアさんはかなりお茶目な人のようだ。
ルリシアさんがさっきから良いように遊ばれている。
「ユートくんは私の命の恩人よ。何か私に出来ることがあったら何でも言ってね。力になるわ」
皇后であるフィリアさんが俺の力になってくれるのは嬉しい。それなら⋯⋯
「僕には妹がいて――」
俺はトアのことや病のことを話す。
「⋯⋯わかったわ。トアちゃんの病を治すために、私も協力するわ」
「本当ですか?」
「ええ⋯⋯まずはトアちゃんの症状を具体的に知りたいから、帝都のお医者さんに診てもらいましょう」
「ありがとうございます」
「ユートくんのお家はどこにあるのかな?」
「え~と⋯⋯僕の家はセレノアの――」
俺は屋敷のある場所を伝える。
「すぐにお医者さんを派遣するわ。それにしてもユートくんは本当に良い子ね。小さいのに妹のためにがんばっているなんて⋯⋯益々好きになっちゃったわ」
そして再びフィリアさんは抱きしめてきた。
「お母様! ユートくんはもう抱きしめないと約束したじゃありませんか!」
えっ? そんな約束してなくない? さっきから俺の知らない所で色々決められているように感じるが気のせいか?
「つい抱きしめたくなっちゃって」
フィリアさんはいたずらっ子のようにウインクをしながら舌をぺろりと出す。
ウインクって可愛く見せるのは意外と難しいけど、フィリアさんみたいな美人がやると絵になるな。
「⋯⋯ユートくん? 今お母様に見とれてなかった?」
ルリシアさんが普段聞かないような低い声で問い詰めてきた。これははいと答えたら恐ろしいことが起きてしまいそうだ。
「そ、そんなことないです」
「本当に?」
「⋯⋯うん」
「ふ~ん⋯⋯でもいいわ。ユートくんの役に立てるのはお母様だけじゃないから。ユートくん行きましょ」
「どこにですか?」
「もちろん禁書庫に決まっているじゃない」
禁書庫⋯⋯それはとても魅力的な提案だ。
「私も手伝うわね」
「お母様は来なくて大丈夫です」
「のけ者なんて、お母さん悲しいわ」
フィリアさんは娘に拒否されて涙を流す⋯⋯振りをした。
「そういう訳では⋯⋯」
しかし根が素直なルリシアさんは泣き真似に気づいていない。
「お母様はまだ万全の状態ではないはずです。今はゆっくり休んで下さい。もう二度と私を悲しい気持ちにさせないで下さいね」
そうだ。フィリアさんは昨日まで意識不明の状態だったんだ。ルリシアさんの言うとおり、今は無理をさせない方がいい。
「ありがとうルリシア⋯⋯私は大丈夫よ」
フィリアさんはルリシアさんを優しく抱きしめる。
「ルリシアの子供を抱っこするまで、死ねないっていつも言ってるじゃない」
「⋯⋯うん」
「もう大丈夫だから心配しないで」
「お母様も無理しないで下さい」
この二人は冗談も言えるし、本当に仲がいい親子だな。
俺ももっと母さんに親孝行したかった。だけどそれはもう叶わぬ願いだ。
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