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皇家で一番力があるのは

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 こんなこと出来る人は一人しかいない。
 俺はルリシアさんだと確信し、木剣が投げられた方向に目を向ける。
 するとそこにいたのは予想外の人物だった。

「皇后様!」

 ボルゲーノさんが叫ぶような声を上げて、皇后様の元へ向かう。

「お母様!」

 そしてルリシアさんもボルゲーノさんの言葉で目が覚めたのか、皇后様の所へ駆け寄る。

「お身体は大丈夫ですか?」
「まだ少し、体調はおもわしくないわ。でもメイド長から玉座の間で大変なことが起きると聞いて、慌てて来たのよ」

 皇后様はルリシアさんを抱きしめる。
 ルリシアさんは皇后様が元気になって、とても嬉しそうな顔をしていた。

「おおフィリアよ! 元気になって私はとても嬉しいぞ。だが今はルリシアを毒牙にかけた小僧を始末する所だ。少し下がっててくれ」

 げっ! まさか皇后様も一緒になって俺を攻撃するつもりなのか? さすがに二人まとめて来られたら、対処できないぞ。

 俺は少しずつ扉の方へ移動する。
 こんな所で死ぬ訳にはいかない。俺にはまだやらなくちゃならないことがあるんだ。
 だが皇帝陛下と皇后様は俺を逃がすつもりはないのか、扉に着くことは出来ず、猛スピードで迫ってきた。

 くっ! 挟み撃ちか!

 俺は一瞬死を覚悟したが、そのような結果にはならなかった。
 何故なら皇后様は、皇帝陛下から俺を守るように抱きしめたからだ。

「この子すごく可愛いわ! それにとても強いのよね!」
「フィリア! 何故その小僧を抱きしめる! 最近私もお前を抱きしめていないのに⋯⋯」

 何だか小声だったが、皇帝陛下の本音が聞こえてしまったぞ。

「あなたこそ何をされているのですか? このユートくんは私達の恩人ですよ。私は毒によって死の縁に立たされていました。でも突然手が暖かい光に包まれて、私は九死に一生を得ることが出来たのです。意識はありませんでしたが、ユートくんが私の手を握ってくれたことは覚えていますよ。本当にありがとう」
「んんっ!」

 俺はフィリア皇后の豊満な胸に包まれていて、喋ることが出来ない。

「あら? ごめんなさい」
「ぷはっ! う、ううん⋯⋯ルリシアさんのお母さんを助けるのは当たり前のことだよ」

 ようやく空気を吸うことが出来た俺は、皇后様の問いに答える。

「本当にいい子ね。それに比べてあなたは大人気ないですよ」
「娘のことを心配して何が悪いのだ。それに平民に嫁がせる訳にはいかない」
「あら? 確か私が聞いた話ですとユートくんは男爵になったはずですが?」
「ぐっ! た、確かに男爵になったが下級貴族では釣り合わないぞ」
「良かったわねルリシア。お父様が認めて下さったわよ」

 えっ? どういうこと? 
 話の展開が変わりすぎて、訳がわからない。

「上級貴族である伯爵になれば、ユートくんとの婚姻を認めてくれるわ」
「「ええっ!」」

 何で結婚する話になってるの!
 俺とルリシアさんは予想だにしない展開に、思わず声をあげてしまう。

「お、お母様⋯⋯私とユートくんはそういう関係では⋯⋯」
「そ、そうだよ! どうしてそうなるの!?」
「まだならいずれそういう展開になるかもしれないわ。それに男性と一夜を共にして、他にお嫁にいけると思ってるの?」
「えっ? でも僕は子供だよ」
「ユートくんは大丈夫かもしれないけど、ルリシアは無理ね。皇族の姫が例え子供でも一夜を共にしたら、他所にお嫁に出すことは出来ないの」

 知らなかったとはいえ、俺のせいでルリシアは結婚することが出来なくなってしまった。
 これはもう責任を取るしかないのか。

「そのようなきまりはない!」
「そう? でも他の男性と一夜を共にした女性との婚姻を嫌がる人はいると思うわ」
「ぐっ!」

 皇帝陛下が何も言えないということは本当なのか?

「だが絶対に婚姻出来ないというわけではない。ルリシア⋯⋯男という生き物は、頭の中でろくでもないことを考えているのだ。きっとこの小僧も無邪気な振りをしているが、良からぬことを考えているに違いない」

 俺はある意味当たっていることに、ドキッとしてしまう。
 まさか見た目は子供だけど中身は大人だってバレてないよな?
 もし皇帝陛下にバレていたら、どんな手を使っても排除されそうだ。もう排除されかけてるけど。

「そんなことはないわ。ユートくんは良い子よ。それにあなたは命を助けてもらったことを忘れているの?」
「それはもう褒賞を渡したことで帳消しだ」

 えっ? そうなの?
 このまま皇帝陛下にずっと恨まれるなら、褒賞を返したくなってきたぞ。

「もしまた毒を飲まされた時はどうするのですか? 私がこうしてあなたと話すことが出来るのも誰のおかげですか? ユートくんがいなくて困りませんか?」
「そ、それは⋯⋯」
「でしたら、ユートくんにちゃんと謝罪をして下さい。そして今迷惑をかけた分、あなたが個人的にお願いを聞いてあげるべきだと思います」
「くっ! も、申し訳ありませんでした」

 皇帝陛下が血の涙を流しながら、謝罪してきた。
 本当は謝りたくないけど、娘と奥さんに嫌われたくないから仕方なしにって所だな。
 皇后様が仰るには、何か願いを聞いてもらえるのか。
 けど望みが大きいと聞いてくれなさそうだし⋯⋯そうだ!
 俺はある一つの願いを思いつく。

「それならお願いがあります。禁書庫の本を読ませてもらってもいいですか?」

 筋力低下を治す方法はルリシアさんが探してくれる。だけどトアは他にも、視力や聴力の低下の症状も持っている。禁書庫ならそれらを治す方法があるかもしれない。

「ダメだダメだ! 禁書庫は皇族や限られた⋯⋯」
「あなた」
「くっ! わかった。禁書庫に入れるよう手配しよう」

 皇后様の鶴の一声で何とかなったな。
 こうして俺は皇帝陛下に殺されかけたが、白金貨五枚と男爵の爵位、そして禁書庫に入る権利を得ることが出来たのであった。
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