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ユートVSザイード前編

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 俺は男達に向かって接近する。
 そして地面に到着する前に剣をなぎ払い、三人の首を落とすことに成功した。

「はっ?」
「えっ?」

 残った男達は何が起きたのか状況が飲み込めておらず、呆けたままだ。
 俺は隙だらけの男達に向かって、再び剣をなぎ払う。
 すると男達はなす術もなく、先程の男達と同様に胴体と首が分かれるのであった。
 これで残るは八人。今のうちにさらに数を減らす。

「て、てめえ! どこから現れやがった!」
「ふざけやがって!」

 ここで男達はやっと状況が飲み込めたのか、武器に手を伸ばした。

「させるか!」

 しかし俺は、男達が武器を手に取る前に斬り伏せていく。例え裏社会の人間だろうと戦闘態勢を取っていなければ、倒していくのは造作もない。
 残るは三人。武器を手に取っているが、二人は仲間が瞬殺されたことに恐れをなしているのか、戦意が感じられない。
 だが不気味なのは集団から一人離れていた男だ。
 仲間が殺されている状況なのに、感情の起伏が感じられないし、こちらに近づいてくることもない。
 しかもこの男だけ覆面で顔を隠しており、馬に寄って来なかった。他の奴らとは仕事に対するプロ意識が違いそうだ。こういう男は油断ならないな。

「よくも仲間を!」
「し、死にやがれ!」

 近くにいた二人が俺に襲いかかってきたが、動きが鈍い。しょせんは自分が優位な立場でないとイキることが出来ない奴らか。

 俺は剣を横に振るい、相手が持っていた武器ごと身体を叩き斬る。

「ぎゃあぁぁっ!」
「ぐはぁぁっ!」

 すると男達は断末魔を上げながら、地面に崩れ落ちるのであった。
 残るは一人。
 だがこいつは仲間達が殺られても、こちらに向かってくることはなかった。
 もしかしてエルウィンのようにこちらの味方なのか?
 だがその甘い考えは一瞬で崩される。
 何故なら目の前の男が、背筋が凍るような殺気を向けてきたからだ。

「今さらどういうつもりだ? 仲間が殺された時、殺気はおろか感情すら見せなかったじゃないか」
「答えは簡単だ。この者達が死んでくれた方が分け前が増えるからな」
「金のためか」

 その考えはわからなくもないが、理解は出来ない。

「かといって自分で殺す訳にはいかぬ。今後の商売に影響が出るからな」

 仲間を殺す奴を雇う者などいないということか。

「それにしても木の上から現れた時は驚いたぞ。馬は囮か?」
「そのとおり。金のためにバーカルに雇われた奴らなら、馬があれば放っておくわけがないと思ってな」

 そう。俺はこいつらを誘き寄せるために、馬を木に繋いだのだ。
 そして群がって隙だらけになった所で、一気に殲滅する。相手の強さもわからなかったので、少し卑怯かもしれないが簡単に勝てる策を使わせてもらった。

「なるほど。この男達のことがよくわかっている⋯⋯だが私には勝てんぞ」

 男は腰に刺した剣を手に取り、魔力を込める。

「先程の戦いで貴様の実力は見せてもらった。その若さでなかなかやるが私には及ばない」

 確かにこの男が剣に込めた魔力は俺より上だ。

「さらに私の魔力特性によって、剣は通常の何倍も切れ味を発揮することが出来る。貴様の剣が私の剣に触れた瞬間砕け散るぞ」
「そんなことペラペラと喋ってもいいのか?」
「私は慈悲深くてな。これから死ぬ者にどうやって自分が殺されたか、誰に殺されたか教えてやっているんだ。訳がわからず死ぬなど悔いが残るだろ?」
「いや? 別に」
「何だと!」
「ここで死ぬつもりはないから、何故殺されるかなんて聞く意味がない」

 俺はこんな所で負ける訳にはいかない。何故なら俺が負けるとこの後リリアも殺されるということだからだ。

「ハッハッハ! 確かにその通りだ」
「こっちは時間がないんでね。すぐに終わらせてもらう」
「真っ直ぐないい目をしている。若さから来るものか、羨ましいことだ⋯⋯だがその目を曇らせることが出来るかと思うとゾクゾクするぞ」
「心の中で羨むだけにしてくれ。若者の邪魔をすると嫌われますよ」
「これから死ぬ者に嫌われようがどうということはない」

 道理だな。これからは余計な会話はもういらない。
 後はこの男を始末するだけだ。

「私はザイード⋯⋯参る」

 必要ないと言ったが自分の矜持のためか、殺す相手に名前を告げてきた。
 そして名前を名乗った直後、ザイードが猛スピードでこちらに迫る。

「速い!」

 接近してきたザイードは、上段から高速の剣を繰り出してきたため、俺は後ろに下がりながらかわす。
 さすがにデカい口を叩くだけはあり、実力も伴っているようだ。

「そらそら! 避けなければ武器が砕け散るぞ!」

 俺は縦横無尽に襲ってくるザイードの剣に防戦一方だ。
 そして攻撃をかわしているうちに、大岩の所まで追い詰められてしまう。

「鬼ごっこはもう終わりか?」
「そんな遊びをしているつもりはない」
「ならばこの剣を受けるがいい」

 ザイードは俺の首を目掛けて剣を横になぎ払う。

「くっ!」

 攻撃を受ける訳には行かないので、俺は身をかがめザイードの剣をかわす。
 すると背後にあった岩が、まるバターのように軽々と斬り落とされた。
 これは一撃食らっただけで、簡単に命が奪われてしまいそうだ。益々ザイードの剣を受ける訳にはいかない。

「次は貴様がこうなる番だ」

 ザイードは岩を切り裂いたことで高揚しているのか、未来を予告してきた。

「確かにあなたの剣の威力は凄まじい。剣が砕けるというのも満更嘘ではなさそうだ」

 これまでの戦いを見てきて、少なくともザイードは王国の武闘祭で戦った誰よりも強いというのはわかった。
 剣技、魔力、どちらもかなりの実力者だ。そして戦い方に油断もない。こちらを侮って大振りに剣を振るってくれれば、付け入る隙はありそうだがそれも期待出来ない。

「そろそろ狩りの時間は終わりだ。私にはこのあと村人達を皆殺しにするという仕事が残っているからな」

 ここを突破されれば村人達が⋯⋯リリアが殺される。それだけは絶対に阻止しなくてはならない。
 だけど例え剣を受けることが出来ても、簡単には勝てる相手ではなさそうだ。
 しかし勝つための種は蒔いてある。後は実行するだけだ。

 俺はザイードを倒すために剣を構える。
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